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試験はお開きになっちゃうみたい。

 俺が剣を突き刺して立っているのは、バハムートが持つ大きな剣の上だ。

 

 魔物は基本的に意図的には魔法を使うことができないから、さっきの剣の魔法も、そしてこいつにこのでっかい剣を持たせたのも部外者の介入があったってことだろう。


 いや、バハムートを召喚したのがそいつなら部外者ではねえな。


 どちらにせよさっきまでなかったここまで巨大かつ強力な剣を、一瞬にして転送もしくは生成出来るんだったら、敵は超強力な単体かどっかの集団ってことになる。


 そこらへんは俺も気になる所があるから、後で調べたりしてみるとするか。


 馬鹿に刃物を持たせるな、じゃないけど力あるものにそれ以上力を与えるのも、基本的に厄介だからやめてもらいたいね。


「グルゥゥゥヴァアアァァァアァァァア!!!」


 ほら、どっかに協力者のおかげで重力魔法の中でも動けるようになっちゃったじゃん。


 どうやら左手にも持ってたみたいで、叫ぶと同時にその剣を地面に叩きつける。


 振り落とされる前に剣から離れて地面まで降りると、重力魔法を解いてバハムートの足元に滑り込んでシュヴァルトを回収した。


 予想以上にこの世界の人間たちの魔法技術は遅れてるみたい。皆に天才って言われてたシュヴァルトも見ての通りのびてしまってる。


 バハムートから離れてシュヴァルトに最上級の加護魔法をかけると、その上で不可視魔法をかけて森の中に避難させる。


 さっきよりも角を伸ばし、体の節々を赤く発光させてるそいつはどこからどう見ても怒りが頂点に達してる状態だ。


 機敏に右手から繰り出された斬撃を走りながら剣で受け流し、振り下ろされた左手を蹴って飛び上がると、剣を逆手に握って回りながらバハムートに攻撃しようとする。


 が、攻撃が届く目前に加護魔法によって防がれてしまった。


 単純に正面から力任せの魔法をぶつけるにはステージが狭すぎるし、かと言って魔力量を抑えると誰かさんにかけられたんであろう加護魔法に防がれる。


「神の地上戦に不足ない相手……ってことかな?」


 口から飛ばされる青い火球を弾き落とすと、炎魔法で模造品を作って打ち込む。


 ドゴゴゴン!


 魔法が着弾する音が聞こえるが、精々加護魔法に傷を入れた程度だろう。


 思考を回す内に、バハムートはその大きな翼で羽ばたいて空に浮かび上がった。


 鋭く赤い目でこちらを睨まれた。


 ――刹那。


 その眼光が残像を残しながらこちらに飛んできて、勢いを乗せた斬撃を放つ。


 さっきとは比べ物にならないくらい俊敏に動いてきたってのに驚いているその僅か0.1秒の間に迫って来た相手に対し、俺は脊椎反射の勢いで瞬間移動して避けることしか出来なかった。

 

 少し切れた頬から血が伝い、膝に落ちる。


「今のは少し、危なかったかな?」


 久し振りにダメージを与えられたことで、俺の闘志に火が付いた。


 バハムート君に先に敗因を教えておくとするならば、潔く負けてくれなかった所かな。


 剣先を標的に狙いを定めるように向けると、俺の背後に幾千もの小さな魔法陣が囲うようにして展開しはじめる。


 白いその魔法陣が俺とバハムート、どちらも囲んだところで剣先を少し右側に傾ける。


 すると、それが合図と取ったかのように、無数に散らばった魔法陣が光り始め、やがて光線が一斉に放射される。


 その光線は走りだした俺を避けるように曲がりくねり、渦を巻きながらバハムートの体に目掛けてただ飛んで行く。


 空にいたバハムートの口には青い光が溜まり始める。


 それを見た俺は、重力魔法と同じように地面を沈めながら踏み込むと、地面にヒビを走らせながらバハムートの顔の辺りにまで飛び上がる。


 瞬間的にバハムートの口に照準を合わせると、その口を塞ぐようにして反射魔法を張り巡らせる。


 ドォォォォォォォン!!!


「ギャアアアァァァアアァァアアァ!」


 自らが放った強力な魔法が、自らの体を襲う。


 当然の事ながら体の中には加護魔法ははってなかったんだろう、余りの苦痛に悶えるような唸り声を上げて落下した。


 煙を上げながら落下していくバハムートの足元に潜り込むと、そいつの体を包み込むほどの魔法陣を落ちてくる前に構築し切る。

 

 その魔法陣の中から真っ赤で巨大な火球が姿を現し、体をもう一度打ち上げるように衝撃を与える。


 為す術もなくもう一度空に浮かび上がったバハムートは、苦し紛れにその手に握られた巨大な剣を寸分違わず俺の元へと飛ばす。


二十重防御障壁トゥエンティ・ディフェンス・ドーブル

 

 そう呟くと剣と俺の間に、二十枚に渡る障壁が姿を現す。


 一枚目を貫くとその剣の威力は弱まり、二枚目を貫くときには速度が落ち、三枚目を貫く頃にはその速度を保てなくなり徐々に降下しだす。


 二十枚目の障壁を破った時のその剣に力はなく、俺に届く事なく地面に突き刺さった。


 ドドドドドドォォォォォン!!!


 呆気に取られるバハムートに、予め遅らせていた光線が全て直撃する。


 そして爆煙に包まれたまま力無く落下していった。


 落下地点には大きな穴ができ、轟音を伴って地面を大きく揺るがす。


 しかし加護魔法を受け、肉体的にも強化されたその禍々しい獣がこうも簡単に沈むはずもなく、もう一度体を起き上がらせて左手に握られた剣をこちらに振るった。


 決死の一撃だったであろうその攻撃は、大きな衝撃波を作って森の木々を倒しまくった。


 でも俺には届かない。


「次でもう終わらせるから、安心して逝ってね」


 その為に必要な攻撃力と、周りの被害を考えた上で使える魔法はきっとあれしかない。


 障壁で防いだ左手側の剣に剣先を向けると、振動魔法を使ってその剣を小さな塵になるまでに粉々にする。


 封印魔法で前かがみになったバハムートを押さえつけると、地面に剣を突き立てた。


 すると俺とバハムートだけを囲うようにして赤い障壁が天高くまでせり上がり、一切の魔法の出入りを制する。


 地面に突き刺された剣を抜いて天に掲げる。


「星天魔法――」


 今までにない魔力を体の底から絞り出しつつ、両手で握った剣に対して全力で注ぎ込む。


「マズベールさん、こいつです! 今受験生の一人のクロードって奴が足止めをしてくれていて……」

「なんだというのだ……あれは……」

「た、多分バハムートだと思うんです! 童話の、知りませんか!?」

「違う、そっちじゃない。上を見てみろ」

「なんだよこの巨大な魔法陣は……この化物の仕業なのか!?」

「坊ちゃま、それ以上前に出られてはいけません。そんな気がします」


 何やらさっき逃がした人達がマズベール並びに他の教師達も連れてきたみたいだけど、今更この魔法を止めることは出来ない。


 剣から伸びた魔力の線は空に森を覆う程に巨大な魔法陣を描く。


 辛うじて障壁の前に待機してくれているみたいなので、そのまま魔法を放つ。


「|七星崩し!!!!」


 天に描かれた巨大な魔法陣はやがて回転を止めて、今までにない大きな光を放つ。


「何か来る! 皆早く退避するんだ!!」


 マズベールが全員に退避命令を飛ばすと、皆恐怖を顔に出しながらも逃げるように障壁から離れていく。


 その直後だった。


 ズドオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!


 魔法陣を通して俺の降らせた光は、やがて障壁内すべてに降り注ぐようにして満たされる。

 

 七星崩しは一時期は禁忌とまでいわしめた強力な魔法で、その光を浴びた悪ある者を全て跡形もなく消し去ってしまう。


「おい、何だよ今の音は! 何だよこの光は! アイツは大丈夫なのかよ!?」

「知るわけ無いだろう!?」

 

 嘆くような声が耳に届く一歩手前、慣れない体で星天魔法を使ってしまった反動だろう。全身に力を入れて立っているのが困難になり、瞼が閉じていくのとほぼ同時に意識は失われる。


「この無能、凄すぎる……」


 そんな声が聞こえた気がしたけど、回転していない頭に届いたその音は理解されることなく消えていった。


 星天魔法によって音もなく、そして跡形もなく消え去ってしまったバハムートを後にして、真なる脅威との戦争の序章はこちら側の勝利で幕を閉じた。


 


 

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