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類は友を呼んだみたい。

『キシャァァアァアァアアァァ!』


 鱗を身に纏った鳥の鋭い鳴き声に、鳥達だけでなく魔物までもが俺達の近くから遠のいていく。


「この鳥がサラマンダーバードってやつだよね」


 その見た目と禍々しさは聞いたとおり、大方こいつがサラマンダーバードだと思う。


 目の前の敵だったら目を通して索敵魔法を使えるんだけど、サラマンダーバードの魔力は炎龍のおおよそ半分くらいにあたる。


 炎龍よりは弱いものの、試験会場には受験生が大勢いるから炎龍の時みたいに巨大な攻撃は繰り出せないだろうから、少し厳しいかもな。


 ここまでの戦闘で魔力の制御の感覚が掴めて来たとはいえ、こいつが一発で吹き飛ぶ範囲の魔法の制御にもし失敗すれば、受験生が大勢死ぬことは目に見えている。

 

 さっきの攻撃で点数の合格ラインは越えただろうからエミリの点数の心配はないんだけど、当人は魔力の消耗で倒れてて、戦うなら背負うことになる。


「出てきたからには殺してやる他ないよなぁ……よっし!」


 気合を入れなおすと、さっききちんと鞘に収めた剣をもう一度構え直してエミリの方に走りだす。


 サラマンダーバードの方へ目をやると、その翼を俺に向けて思いっ切り扇いできた。


 ブオオオオオン!!!


 鈍い風の音が聞こえたと思うと、池を囲んでいた木々が根本からごっそり持っていかれて倒れ始める。

 足元まで迫ってくる木々を飛んでかわしながらエミリを片手で抱きかかえると、剣先をサラマンダーバードに見据える。


 剣先から広がる魔法陣は、今までのものとは違い少し大きめに広がっていく。


 広がりきったその瞬間に、放つ。


 その魔法は標的に直撃し、爆発音にも近い轟音と砂ホコリを巻き起こした。


「やった……かな?」


 強力かつ巨大な大炎魔法により、サラマンダーバードの体は火柱の中へ消えていったはず、なのだが。 


 え?


 声には出さなかったけど、無傷で砂煙の中から現れたサラマンダーバードに心の中で驚愕する。


 一見するとその攻撃を体一つで受け止めたように見えるけど、目を凝らすと微かな魔力痕が見えるから、何者かによって加護魔法がかけられていることは間違いない。


 一考したその瞬間。


 咄嗟に反り返った俺の体すれすれをサラマンダーバードが掠め飛んだ。

 今までのそれとは全然違う、数倍にもになってるであろうものすごい速度で飛んでいった奴は、俺を囲うように池の周りを飛び回り始めた。


 危ない危ないっと。結構ギリギリで避けたから体勢とエミリを持ち直す。


 本当なら今の魔法で沈着する予定だったんだけど、思ったよりピンピンしてるよ。

 もしかして魔法の規模を抑える次いでに、魔力まで抑えてしまったってこと?


 にしたってさっきよりも速くなって出てくるなんておかしいだろ。


「そんなに元気よく回られると、こっちまで目が回っちゃうんだよ……ねっ!」


 変な予兆に考える余裕もないと判断して、消える程の速度でサラマンダーバードのもとへと接近し、そしてもう一度同じ魔法を打ち込む。


 さっきと同じく標的を捉えた魔法は、轟音と共に火柱を上げた。


 さすがにこの距離じゃ外すってことはないだろうし、今度こそやった―― 


 目の前の光景を見て勝利を確信した一歩手前、そいつがもう一度思い切り翼を振ると、風と共に電撃が繰り出され、木々が黒く焦げていく。


完全に不意打ちを食らった俺は、無様にも後退させられながらも障壁で電撃を防ぐ。


 しかしながら全く状況が飲み込めない。

 

 またも飛び込んできたそいつの動きに沿って剣で切るが、諸共しない様子でさっきよりも伸びた気がする翼でこっちに大きな風を送り込む。


 どうして、どういうことなんだ?


 魔法が直撃している感触はあるけど、全然ダメージを食らってる様子がない。


 そりゃ普通にぶっ放したら町ごと……いや、この世界ごと壊れるから魔力量は究極的に抑えてあるけど、それでも効かないなんてことはないはずだ。


 剣で斬れば少しは苦しむと思ったんだけど、傷つけても致命的なまでに浅い。


 続けざまに飛ばされる雷を剣一本で受け流しながら、エミリを庇うようにして池の周りをはしる。


 もう一度瞬間的に詰め寄り、一閃。しかし当たり前のように躱されたのでもう一度詰め寄り、剣で攻撃を一撃加えた。


 ドスゥゥン!


 ほとんど無傷のままのサラマンダーバードは、遂に地に足を着くと奇声をあげる。


「ギャァァアアァァァアアァァァァ!!!」


 大きく口を開いたそいつに近づき飛び上がると、口の中に目掛けて強めな雷魔法を流し込む。

 

 目に見えて分かるほどハッキリとそいつの体の中を電撃が走ったが、やがてそれも音沙汰なく見えなくなってしまった。


 サラマンダーバードも少しだけ後退したみたいだけど、俺の着地のタイミングを狙っていつの間にか頭に生えた角をこちらに向けてすかさず突進してきた。


 着地する寸前に浮遊魔法で少しだけ浮いて着地のタイミングをずらすと、真下に突進してきた瞬間に片手に持った剣を思いっ切り振りかぶって一刀両断――する予定だったんだけど、どうやら体の軸にあたる場所まで剣先が届いてないらしく、赤い血を少し撒き散らして地面を剣で叩くに終わる。


 俺が地面に着地すると、そいつは既に空に飛び上がってた。


 沼地に向かった時と同じ浮遊魔法で浮き上がると、飛び回る標的に連続的に魔法を打ち続ける。

 

 炎魔法を仕向け、避けられたその次は水魔法でサラマンダーバードの体を拘束し、雷魔法を放つ。

 

 剣先の魔法陣は刻一刻と色を変えながら回り続け、雷魔法の次には大きなつららを幾つも出現させて標的に向けて立て続けに飛ばす。


 すると遂に攻撃が届いたみたいで、少しだけ悲鳴を上げてもう一度地面に着地する。


 魔力耐性を試したんだけど、全ての魔力に対して強い耐性魔法がかけられてるみたいだ。

 

 そしてさっきから攻撃が一切通らない理由も分かった。


 サラマンダーバードが飛んだ後に強い魔力痕が足跡のように残ってたのが気がかりだったんだけど、どうやらコイツの命そのものに対して強力な加護魔法がかけられてるみたいだ。


 だからよっぽどじゃなければ、コイツが死に直面するなんて事はない。


「これは地上戦初の苦戦かもしれないなぁ……長期戦はあんまり好きじゃないんだよね」


 "だから早く終わらせてもらうよ"と言い切る前に体が動いた俺は、瞬間移動でサラマンダーバードの目の前に現れると、剣を高く上に投げると左手の平を標的に当てる。


 周りから見れば、体から雷が湧き出ているかのように見えるほど強力な雷の付加魔法を一瞬で自分にかけていた俺は片手の平にその雷を集めて一気にぶつける。


 ズドドドドオオオン!!


 吹き飛ばされたサラマンダーバードは、飛ばされた先にある地雷魔法を踏んで大爆発に巻き込まれた。


 上に投げた剣を飛び上がって掴むと、倒れこんだ標的に剣先を向ける。


 砂煙が明ける瞬間、目に見えない速度でサラマンダーバードに向かって光線が飛び、頭から尾まで一直線に貫いた。


 普通ならここで自分の勝ちを確信するところだけど、コイツはどうにも一筋縄にはいかなそうなので、念のため飛び込んで斬る。


「長期戦っていたぶってるみたいで本当に嫌いなんだってば」


 案の定剣撃を受けて尚立ち上がるサラマンダーバードに対してボソリと呟くと、次の動きを警戒して五メートル程距離を取って地面に剣を突き刺す。

 

 刹那。


 目を赤く光らせたソイツは、さっきの俺と同じくらいの速度で接近してきたと思うと、右の翼で首を確実に捉えようとしてきた。


 格段に跳ね上がったその速度に不意を付かれつつも、標的の真下にある岩質の地面を思いっ切り隆起させて体諸共顔を空に舞わせた。


 すると、さっきまで動きもしなかった尻尾が伸びてきて、今度は心臓を狙う。


 それを剣で受け流すと、瞬間移動で着地したサラマンダーバードに近づき、右斜上から一閃。その反動で下から上へと斬り上げると、今度は左斜め上から剣を振り下ろす。

 剣先が下を向くように剣を持ち替えて、ジャンプしながら斬り上げると、空中で回転しながら何回か斬った後にもう一度普通に持ち替えてこれを今までの動きを繰り返す。


 のべ五十回剣撃を叩き込む間に要した時間はおおよそ一秒。


 その僅かな時間に叩きこまれた猛烈な攻撃についに撃沈すると思われた。


 しかし、ソイツはまた立ち上がる。


 水溜りが出来るほどに血を噴出してなお死には届かず、サラマンダーバードは自らの翼の一部である鱗を、攻撃手段として俺に向けて飛ばしてきた。


 剣で辛うじて受け流し、もう一度標的を睨んで索敵魔法を使った。


「これはどういことなんだよ!?」


 サラマンダーバードの現在の魔力は先の約五十倍。炎龍と比べると約二十五倍に当たる。

 いいや、訂正しよう。


 索敵し続けている内に魔力量はどんどんと上昇していき、今や百倍――いや、今はもう二百倍だ。


 先程までサラマンダーバードの特徴そのものだったソイツの容姿も、誰にでもハッキリと分かる変貌を遂げていく。


 魔物特有の赤い瞳からは既に光が失われ、その目は漆黒そのもの。

 茶色い鱗に包まれていた肌は、真っ黒い鱗に覆われてそれらの隙間は真っ赤に染まっている。

 最初は生えていなかった青緑色の角は、徐々に伸びて遂には自身の体の半身と同等、またはそれ以上の長さに至った。

 翼からは一切の鱗が失われ、代わりに紫色の結晶のような翼が腕とは別に生えて、黒い鱗に覆われた腕がその根本を二分して地面まで伸びる。

 鳥のそれに近かった尻尾も長い鎖のような、黒い鱗の塊に成り果てていた。

 

 今俺の頭の中にコイツと一致する魔物は浮かんでこないから、既存の生物に例えるとしたなら炎龍と冥王ハデスのような闇の権化が組み合わさった感じ。

 

 体から滲み出るように闇のオーラに包まれたそいつは、闇そのもの。


 因みに今の魔力は最初の五百倍。


『グギャルアアアアアアアアアアアアアア』


 サラマンダーバードとは似ても付かない"獣"は、魔物の声とも思えない咆哮を放った。


 

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