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受験者達が予想以上に遅れている。

「クロードさん、障壁を殴って壊すって……どうやってやったのか教えてくれない!?」

「だから拳をブワッとして殴るだけなんだってば」


 障壁を壊した俺達は、他の受験者達を置いて西の森への道を走り出した。


「障壁って言うのは織り込まれた布のようなもので、設置するのは簡単でも解除するのは難しいの。一本ずつ解いていくような繊細な魔力操作が必要でね? 殴って壊せるようなものじゃないと思うんだけど……」

「なら布が耐えられない衝撃を与えれば、その糸は切れて穴が空くんだよ」


 エミリの魔法に対する知識がここまで遅れているとは、さすがの俺も予想してなかったよ。


 障壁って言うのは使った本人の魔力を糸として、それこそ布のように編みこんで壁を作り出すわけだけど、使用者より多くの魔力を持っている者が殴ればすぐ壊れちゃう。


 天界でも、その他の殆どの世界でも障壁は古代魔法として扱われて使われることは珍しいくらいだったはずだけど。


 天才と呼ばれるくらいだし、魔力量が他人より少ない事なんてないって事だろうか?

 

 待て、だとしたらその天才の魔力量を軽く上回っちゃったって事だよね。


「ごめん、実はどうやって障壁壊したか覚えてないんだ」


 勿論嘘だ。



   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆



 目立たないつもりで居たはずなのに、天才が作り出した障壁を軽々壊してしまった事で早速目立ってしまってから約五分。


 既に二人に加え、あの山から抜けだしてきた者達が西の森に到着した。


 中からは様々な魔法が炸裂する音が聞こえるから、多分シュヴァルトが粗方入口付近の魔物は片してしまっていると思う。


「やっぱり西の森、いざ目の前にすると魔障の気配がぷんぷんするね」

「シュヴァルトが魔物の数を減らしてくれてるだろうし、他の人達が試験会場で時間を取られてる内に点数稼げば、安全に合格出来るよ、多分」


 今も何とも言えない歪な雄叫びが聞こえるから、そこは相違ない。


 針地獄の少年も、その他少し強そうな人達も流れるように森の中へ入っていく。

 

「恥ずかしくてもちょっとだけ我慢しててね?」


 無言で行うと、さすがに如何わしい行動に繋がりかねないので、一応前置きをした後でエミリを俗に言うお姫様抱っこの状態で抱え上げる。


「大丈夫、試験のため。試験のためだものね」


 そこまで顔赤くして慌てられると、背徳感が半端じゃないから落ち着いて欲しい。


 とは言っても時間を取られる訳にもいかないので、足元の地面に足が減り込む程に踏み込むと、空中に出現した魔法陣に飛び移り、また一つ先に出現した魔法陣に飛び移る。

 

 剣を作った時に並行して完成させたオリジナルの魔装具なんだけど、今は触れないでおく。


 森の中にいる魔物と、そして他の受験者の状況を確認するには索敵魔法よりも単純に上から見下ろした方が分かりやすい。


 取り敢えず今のところ受験者達はまばらに散ってるらしく、密集すること無く各方面から爆発音や雄叫びが聞こえてくる。


 森の中から大量の赤い目が一斉にこちらを向く。


 そこは他の受験者が誰一人としていない、中央部の小さな湖周辺。


「あそこらへんの敵を一掃しちゃえばいいよね?」

「え!? 見た感じ百匹はいそうだけれど……」

「丁度いいね。最低でも一人五十点ずつもらえるし。あそこに決めたっと」


 足場にしていた魔法陣を強く蹴って、小さな湖の中心に飛び降りる。


 バサアアアン!


 三メートル程水しぶきが上がると、その音に釣られて森のなかの魔物達がのっそりと姿を現す。


 東の森とは生態系が全然違うんだろうね。


 小さな龍のような魔物は牙を剥き、サイのような魔物は角をこちらに向けて飛び込み、水中からワニのような魔物がどんどんと水面向けて上がってくる。


「サイ・クライ・ファイア!」


 エミリがそう叫ぶと、大きな火球が魔法陣から出現して四体程魔物を焼き払った。

 それでも残す所あと九十六体。


「サイ・クライ……クロードさん、危ない!」


 魔物たちの攻撃が俺に届く一コンマ秒前、つい頬が緩みながらも腰の鞘に納められた剣を抜いて一匹ずつ、確実に全ての魔物を両断した。


「これで大体十四点くらいかな」


 剣先を木と木の隙間から今にも襲ってきそうなクモ型の魔物に向けて、一閃。

 雷魔法を飛ばして消し炭にする。


 エミリが消し炭と俺を交互に見ながらめちゃくちゃ目を見開いてるんだけど。


「今何をしたの?」

「魔物を斬った後に襲ってきそうな魔物を消しただけだよ」

「確かに空中に稲妻が走っていたけど、雷魔法って少し感電させる程度って聞いたはずなんだけど」


 やっぱりエミリの魔法に対する認知がかなり遅れていると思うんだけど。雷魔法ってのはそういう魔法でしょ?

 さっきも炎魔法一個唱えるのにわざわざ詠唱してたし。


「で、でもパートナーが強いに越したことはないわよね……ミルド・ファウル・アイス」


 今度はエミリの杖から魔法陣が展開して、拳と同じくらいのサイズであろうつららを飛ばして俺の後ろの魔物を二匹仕留めた。


「宿屋の借りを返すって意味で、パートナーに任せてくれないかな?」


 さっきまで森の中から赤い目を光らせるだけだった、のべ九十体程度の魔物を目の前にしながらエミリに対してカッコつけてみる。


「合格は貴方に任せる。私は何をすればいい?」 

「詠唱するまでの時間は稼ぐから、大きめの魔法でここらの敵を一掃して!」

「やってみる!」


 エミリが俺と同じくらい点数を獲得するには、多分それが一番手っ取り早く、且つ最善だと思う。

 

 飛んできた龍型の魔物が開いた口に剣を突き刺す。


「お前らはエミリに倒されてもらう必要があるんだよッ!」


 突っ込んできたサイ型の魔物に上から剣を振り下ろして両断すると、水中から飛んで来るワニ型の魔物に大きめの火球をぶつけて周りの魔物諸共焼き払う。


 水中に剣を突き刺すと、剣先から展開した黄色い魔法陣から出現した災害クラスの雷で、水中の生物を死滅させて、エミリの周りに障壁を築き上げる。


 刹那。


 同時に飛び出した十体の魔物を視認する。


 十体とも標的はエミリだ。


「……クラッド・フォルテ・フォルテ・マナ・スィーン……」


 ズドドドドドン!!!


 障壁に達する前に、その手前に仕込まれた地雷魔法を踏んでその状態のまま地面に落下する。


 障壁にも触れると雷を流す仕込みがあったんだけど、そこまではやっぱり届かなかったみたいだね。

 魔力を無駄にしちゃったじゃん。


 森の中がやけに静かになったと思ったら、さっきまでとは明らかに違う、一歩一歩がずっしりとした重みを抱えた足音が近づいてきた。


『グワオオォォォン』


 粗い雄叫びをあげながら、森の奥からたてがみを持つ魔物が姿を現す。

 そいつの足跡は、赤く燃え上がっている。


 ライオン型の魔物が地面を強く踏み込み、凄い速度で俺の後ろに回り込んで来た。

 

 そしてこっちに爪を剥き出しにして、攻撃を仕掛けてきた。


「……クライヤ・フリュード・シュメル・バーン・ジライ……」


 脊髄反射の如く、ほんの紙一重でそれを避けた俺は、無理やり身体を曲げて後ろを向くと、剣先を地面に向けてその魔物の肩を斬り上げる。


 飛ばされた魔物に高さを合わせるように飛び上がると、剣先が下に向くように持ち替える。


 剣先から広がった赤い魔法陣から放たれた小さな火の玉は、その魔物の身体に触れた途端に、まるで花火のように爆発する。


 そして体重を乗せるように魔物を貫いて地面ま叩き落とす。

 

 死んだそいつを横目にエミリに視線を送ると、ウインクが返ってきた。


「そろそろ全員エミリの養分になってもらうよ!」


 剣を地面に突き刺したまま、柄に手を当てて目を瞑る。

 すると身体から魔力が流れだし、人間の身体で言えば血を抜いた時のような感覚に襲われる。


 剣先から魔力を漏れ出させれば、身体の中に魔障を持っている魔物たちはその魔力に反応して、自然とその場所へと体を寄せる。


 魔力が少なければ引き寄せられる魔物の数は限られてくるが、魔力が多ければおびき出せる数も、おびき出せる個体の強さも比例して増えていく。


 この手法は主に狩りで用いられるって、確かいつも地上に住んでる破壊神であるアルマゲドンが話してた気がする。そういやアイツ、あれから一度も天界に返ってこなかったな。


 そんなことを思い出している内に、まだ殺しきれてない数十体の魔物がわなわなと集まってくる。


 赤い目はまるで飢えた獣のように、剣先を見つめている。


「撃って!!!」

「……ザンドラ・イモール・アフレイド!」


 詠唱を終えたエミリの杖の先からは、森全域に広がる勢いで魔法陣が広がっていき、やがて、回りながら赤く染まっていく。


 森に住むカラスが、叫びながら飛んで逃げていく。


「でかいのを頼んだつもりだったけど、こんな大規模な魔法にしなくても……」

「ハア、ハア……これでも四級魔法、『グレイアポロ』よ!」


 エミリは疲弊し切っている様子で、どうやら魔力を全て使い切ってしまったらしい。


 天に描かれた魔法陣の上を幾つものプロミネンスが走り、やがて中心部分に向かって集まり始め、密集して大きな火球となる。


 火球がどんどんと膨張し、そして赤から白へ光の色が変わった瞬間。


 グオオオオオン!!!!


 球体だった火の塊は許容量をオーバーして光線になり、そして今俺達が立っている場所へと降り注いでくる。

 目の前で赤い目を光らせていた魔物達は、光に包まれて音もなく消滅していく。


 生憎魔法陣のサイズが大きいだけで、中心の直下にしか発動しない魔法らしく、魔力が底を着いたエミリと俺の回りに最上級加護魔法をかけることでダメージを防いだ。


 多分他の受験生に当たってるってことは無いと思う。


「やった……よね?」


 自身の魔法の行く末を気力だけで見ていたみたいだけど、遂に気力も失ったエミリの体は地面に倒れ込んだ。


「やっぱり、今の魔法は完全に魔力使いすぎだよね」


 色んな意味で。


 頭上を見上げると、鱗に包まれた巨大な鳥がゆっくりと降りてきていた。


 


 

 

 

 


 

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