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あま~い星のキケンなおさとう  作者: 立川ありす
第2章 チョコレート祭りは大さわぎ!
8/16

おかしの公園で

「こうして見ると、すっごく大きいよね!」

「話には聞いていたけど、見るとすごいわね」

 アリサとあたしは、公園のまん中にそびえたつピラミッドを見上げる。

 固焼きカステラのブロックでできた、かいだんみたいなピラミッドだ。

 てっぺんはステージになっている。


「あのピラミッドの上から、おかしを落すんだよね?」

「そうよ。えらいナワリ魔法使いが、ステージからチョコをなげるんですって。

 そして、みんなでワイワイ楽しくさわぐの。

 そうすると、シバルバーの中心にある太陽に魔力がチャージされるらしいわ」

 アリサはリンゴあめをかじりながら、お祭りのことを教えてくれた。

 リンゴあめは屋台で買ったんだよ。


「その後で、ホットチョコを流してうらないをするらしいわ」

「いろいろするんだね。はやく見てみたいな!」

 あたしは楽しみになって、ニッコリ笑う。


 けっきょく、あたしたちは、テスとおじいちゃんからの仕事を引き受けた。

 そして、お祭りの会場になる公園に来ていた。


 でも2人は、あたしたちにずっと見はりをしてもらいたいんじゃなかったの。

 3人組の悪者をつかまえる時だけ手伝ってほしいんだって。

 だから、おまわりさんからよびだしがあるまでは自由にお祭り見物ができる。


 ちなみに、おじいちゃんはカフェのお金を全部はらってくれた。

 だからアリサもニコニコしている。


 あたしも、おやつの箱からシュークリームを取りだして、ひとかじり。

 シュー皮の中にカスタードクリームがつまっていて、まん中にはマロンが入っている。クリームはあまくて、マロンもやわらかくて、すごくおいしい!

 あたしはニッコリと笑う。


 アリサはピラミッドの近くに立っているグミの人形を見ていた。

 ここには、シバルバーにいたえらい人や、シバルバーでいいことをした人が記念に作ったグミ人形がならんでいる。


「知ってる? この人はモンテスマさんっていうの」

 アリサはそのひとつを指さす。

「チョコレート祭りが大好きで、地球にお祭りをたくさん広めたのよ。この頭のかざりにさわると、髪の毛がフサフサになるんですって」

 そう言われて、あたしは人形を見やる。

 鳥の羽根がいっぱいついたお洋服を着てるんだけど、なんというか……


「顔がコワイよね……」

 モンテスマさんのグミ人形は、目をカッと見開いていて、口もヘの字に曲がっていて、見上げるように大きくて、マッチョでムキムキで、オニみたいな顔だ。

 お祭りより、子どもを頭からかじるほうが好きみたいに見える。


「テオトル人の絵や人形は、みんなそうなのよ」

「それに、こんなに大きかったら頭のかざりになんかさわれないよ」

「マギーがさわる必要はないでしょ? こんなにきれいな髪がたくさんあるのに」

 そういって手で髪をすいてくれたので、あたしはエヘヘと笑った。

 今日はツインテールもアリサに結んでもらったんだ。

 いつもは自分でやるんだけど。アリサがやってくれたほうがキレイにきまる。


「それなら、こっちのおじいさんはやさしそうじゃない?」

 アリサはとなりのグミ人形を指さした。

「ガトリング先生っていう、地球のおいしゃさんよ。発明が得意で、おいしゃさんが使う道具をたくさん考えたんですって」

 アリサは楽しそうに、地球のえらい人のことを話す。


 アリサたち地球人は、ずっと昔の戦争で地球を追いだされた人たちの子孫だ。

 宇宙にちらばった地球人たちは、スペースコロニーでくらしている。

 アリサもコロニーで生まれ育ったんだって。

 だから、アリサは地球にあこがれているのかな?

 あたしが、ほかの星にはあまりエルフィン人がいなくてさみしいのと同じで、アリサも地球人の話をしたり、地球人となかよくしたいのかな?

 楽しそうに地球人の話をするアリサを見て、ちょっとさみしい気持ちになった。


 あたしは箱から次のシュークリームを出して、かじる。

 今度のはバニラクリームがつまっていて、まん中にはイチゴが入っていた。


「そうだ。そういえばアリサ」

「どうしたの?」

 ほかの話題を思いついて、あたしは空を見上げる。

 わたがしの雲がうかんだパステル色の空だ。

 シバルバーの空は、ほかの星みたいな青じゃない。


「シバルバーの中心にある太陽って? 太陽は空の上にあるんじゃないの?」

 太陽っていうのは、とても大きな、光と火の星だ。

 そんな太陽の周りを、あたしたちが行くような星がぐるぐる回っている。

 だから星の上から見上げると、空の向こうに太陽が見える。

 星の中心に太陽があったら、空を見上げても太陽が見えない。

 そんなのはヘンだ。


 でも、こんなことを言うと、アリサに「ちゃんとお勉強をしないから」なんて言われちゃうんだろうな。ところが、


「あら、いいところに気がついたわね。さすがは魔法使いってところかしら」

 アリサはほめてくれた。あたしはエヘヘと笑った。


「シバルバーは、ほかの星とはちょっとちがうのよ。たとえば……そうね」

 そう言ってアリサは、


「ふつうの星は、このリンゴあめなの」

 かじりかけのリンゴあめを指さした。

「リンゴあめ?」

「そうよ。星の中にはリンゴがつまってて、住んでいる人ははあめといっしょにリンゴの外に立ってるの」

 そして次に、


「シバルバーは、そのシュークリームなの」

 あたしのシュークリームを指さした。

「シュークリーム?」

「ええ。シュー皮の中にはクリームが入ってて、マギーやわたしはクリームといっしょにシュー皮の内に立ってるの」

「じゃ、このイチゴがシバルバーの太陽なの?」

「そうよ。太陽がついたり消えたりして、シバルバーの昼と夜を作っているの。空の色が青じゃないのは、反対側のおかしの街やジュースの海の色だからよ」

「へぇ~。なんかおもしろい!」

 あたしはまじまじとイチゴのシュークリームをながめる。そして2口で食べて、


「ねね、アリサ。あたしにもリンゴあめ食べさせてー」

「いいわよ」

 アリサがさしだしたリンゴあめをひと口かじる。

 あめはあまくてパリパリで、リンゴはとってもやわらかい。おいしい!

 アリサも箱からシュークリームを出して3口で食べた。

 チョコクリームの中にバナナが入っていて、アリサはニッコリ笑う。そのとき、


「あら、仲がよろしいのね」

 声をかけられた。

 ふり返ると、クリーム族の女の人がいた。

 バニラクリームのドレスを着てパラソルを差した、上品な女の人だ。


「この前はありがとう!」

 女の人にあいさつする。

「……あ、この人は昨日、おまわりさんからかくまってくれた人なの」

 不思議そうにしていたアリサに説明する。そしてふと気づいて、


「あのね、昨日の悪い人は、本当は悪い人じゃなくておまわりさんだったの……」

「知っていましたわ」

「ええ!?」

 じゃ、どうしてかくまってくれたんだろう?


「あのコンビは街では有名なんですのよ。テスカトリポリカけいぶも、ヘルメスけいぶも、とてもがんばり屋さんで、悪い人たちをたくさんつかまえるのですけど、カンちがいして悪くない人までつかまえたり、建物をこわしたりするんですの」

 そう言って、女の人は口に手を当てて上品に笑った。

 あたしは「アハハ……」と笑った。


 あの2人は、ちょっとこまったおまわりさんらしい。

 お仕事、引き受けてだいじょうぶだったのかな……?

 そう思いながら苦笑していると、


「ぼくにもちょうだいよー」

「やーだよー」

 あたしの足元を、カカオ族のちっちゃい子たちが走っていった。

 先頭の子はチョコとバニラのソフトクリームを持っている。

 アイスの取りあいをしているのかな。子どもだなあ。そう思ったとたん、


「うわ!?」

「きゃ!」

 先頭の子が女の人にぶつかって、女の人はしりもちをついてしまった。


「だいじょうぶですか!?」

 あたしはあわてて手をかす。

 アリサはブツブツ言いながらパラソルをひろう。

 そして起き上がった女の人にパラソルをわたしながら、


「あ……」

 目を丸くした。あたしもビックリした。

 まっ白なドレスのスカートに、ソフトクリームがべったりくっついていたのだ。

 女の人は悲しそうにしゅんとなった。

 きっと、お気に入りのドレスだったんだろう。


「だめでしょ? キミたち。スカートがよごれちゃったじゃないの」

 アリサがあたしにするみたいにおせっきょうを始めると、


「ごめんなさい!」

 そばかすの女の子が走ってきた。

 小さい子たちは女の子の後にかくれる。お姉ちゃんかな?


「あ、あなたは!? ……この前はごめんなさい」

 あたしを見て、女の子は頭を下げた。

 なんであやまるんだろう? ……と考えて、思いだした。

 この子たちは、昨日、カカオ族の街を歩いていたときにぶつかりそうになった子たちだ。……前を見ないで走るとあぶないって、教えてあげたほうがいいかも。


「ううん、あたしこそ」

 でも、その後に、あたしもぶつかりそうになったから、おあいこだ。

 だから、2人してエヘヘと笑う。そばかすがかわいい。


「あら、マギーはこの街にいっぱいお友だちができたのね」

 アリサは口をへの字に曲げてあたしを見る。

 あたしの耳も、しゅんとたれた。

 あたしは昨日、アリサの約束をやぶってより道をしていたからだ。一方、


「なんてしつけのなっていない子どもなんですの!」

 女の人はそばかすの子をにらみつけた。

「人が集まるところで走ったらあぶないって、お父さんやお母さんに教わらなかったんですの!? これだからカカオ族は!」

 ものすごいけんまくでどなった。

 そばかすの子は、ビックリしてちぢこまる。

 女の人はプリプリとどこかに行ってしまった。


「おこりんぼおばさん!」

「べーだ!」

 あかんべをする子どもたちに、そばかすの子は「コラ!」とおこる。

 子どもたちは走ってにげだして、そばかすの子は追いかけていった。


「この星も、こういうところは、あいかわらずね」

 アリサがため息をついた。

 陽気で元気いっぱいなカカオ族は、真面目で頭のいいクリーム族と仲が悪い。

 みんないい人たちばかりなのに、なかよくできないのはちょっとさみしい。


「そうだよね。いくらなんでも、あんな言い方することないよね。ちゃんとあやまったのに、あの子たちだってワザとぶつかったわけじゃないのに」

 でも、アリサは口をへの字に曲げて、

「いや、あれはわたしだっておこるわ。あのドレスすごく高いのよ! まっ白なクリームを固めて服にするのって、すごくむずかしいんだから!」

「ええ!? もう! アリサったら、お金のことばっかり!」

 あたしも口をとがらせる。


「お金のことだけじゃないわ。カカオ族に品のない人が多いのは本当のことよ。あのテスって子だって――」

「アリサったら! そうやってほかの星の子の悪口を言うのはやめて!」

 あたしは悲しくなって、さけんだ。

 そのとき、アリサのせなかにだれかがぶつかった。


「いたっ! もうっ、こんどはわたし?」

「アリサ、だいじょうぶ?」

 ぶつかってきたのは3人の地球人だった。

 後ろを見ながら走ってたみたいだ。

 もう! 人が集まるところで走ったらあぶないってママにおそわらなかったの!


「ああ! あの人たち!」

 緑色の長髪をなびかせた男の人。

 ワイルドなクセ毛の男の人。

 メガネの男の子。

 それは、例の3人組だった。


「や、やあ。この前のキミじゃないか」

 3人はあたしに気づいて、長髪の人がぎこちなく笑いかける。


「やあじゃな――」

 ――いわよ、あなたがウソをついたせいで、たいへんな目にあったんだよ!

 そう言おうと思ったのに、後から口をふさがれた。アリサだ。

 え、なんで?

 アリサは(ちょっとしずかにしてて)と目で合図する。


「お話はこの子から聞きましたわ。悪者からはにげられたんですが、スーツケースを落してしまったそうなんですの。なんとおわびしたらいいか……」

 アリサがいつもは使わないようなおじょうさま口調でそう言った。

 アリサまでウソをついたりして、どうするつもりだろう?

 でも、男の人はアリサの言葉を信じたみたいで。安心したように笑った。


「いや、あんなものはどうでもいいんだ。それより、いきなり無理なことをおねがいしちゃって、ごめんね。悪者たちにヒドイことされなかったかい?」

 よく言うよ! 指名手配中の悪者はあなたたちのクセに!

 あたしが思わずにらむと、男の人はギョッとしてあたしを見やる。

 アリサはごまかすように、


「そういえば、みなさんはプリン族の服はおめしにならないんですの?」

 すると、3人組はクスクス笑った。


「その茶色いダサい服は、子どもっぽくてボクたちにはにあわないと思うんだ」

 男の子が、あたしをちらちら見ながら言った。

 あたしの耳がしゅんとたれた。

 せなかのアルパカがかわいくて、アリサもほめてくれた服。

 だけど、子どもっぽくてダサいのかな?


「オレたちににあうのは、コロニーの最新ブランドの服だけさ」

 クセ毛の人が言った。

 3人組は黒いジーンズに黒皮のジャケットをはおって、ベルトから銀のチェーンをさげている。

 たしかに、ちょっとワルっぽくてかっこいい。

 それに、おしゃれなこう水をつけているのか、ふしぎなにおいがする。


「だいたい、この星に来たのだって、ウチュー人相手にお金をかせぐためなんだ。オレににあうクールでイケてる服を買うお金をな!」

 クセ毛の人がバカにしたみたいに言ったので、あたしはますますしゅんとなる。

 地球人の一部は、ほかのいろいろな星の人たちをひとくくりにして『宇宙人』だなんてよんでバカにするんだよ。自分たちだって宇宙に住んでるのに!

 あたしはとても悲しかった。

 なのに、アリサはあたしの口をおさえたまま楽しそうに笑って、


「これからおヒマなら、地球人どうし4人でランチでもどうですか? イケてるみなさんとごはんを食べられたら、とってもステキだと思いますことよ」

 ちょっとヘンな言葉使いで言った。

 そして、あたしをはなして、長髪の人のせなかにだきついた。


(え!? アリサ……)

 あたしの耳が、またまたしゅんとたれる。

 一方、長髪の人はあせった様子で、


「いや、その、ボクたちはこれから用事があるんですよ」

「あら、どちらへ行かれますの? いっしょに行ったらダメですか?」

「それは、その……あ、こんな時間だ! またね、おじょうさんたち!」

 アリサのうでをふりほどいて、そそくさと言ってしまった。


「アリサったら、ヒドイ! なんであたしに何も言わせてくれなかったの!?」

 あたしは悲しかった。

 あんなにヒドイことを言われたのに、アリサは楽しそうにお話していた。

 それに、長髪の人に……。


 やっぱりアリサは、あたしより、自分と同じ地球人とお話したいのかな?

 アリサは、3人組が去っていった方向を見やったまま、


「お話なら、後でたっぷりできるわよ」

 そう言って笑った。

 でも、さっきまでのニコニコ笑顔とはぜんぜんちがう。

 冬と氷の魔女ダーナさまみたいに冷たい笑顔だ。そして、


「それより、マギー。あの3人にイケてる横しまのしゅうじん服をプレゼントしたら、きっとよろこぶと思わない?」

 あたしのほうを見てニヤリと笑って、ケータイを取りだした。


「ヘルメスけいぶ。こちらアリサです。3人組を見つけました。ピラミッド横のえらい人のグミ人形の近くです」


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