新しいお仕事
「アリサ、なに食べよう?」
「そうね……」
そう言って、アリサはテーブルの上に広げたメニューをながめる。
パンケーキのテーブルには、ハチミツのテーブルクロスがかかっている。
カップケーキのクッションは大きめで、あたしは足がつかずにブラブラする。
あたしとアリサは、宇宙港の近くにあるカフェに朝ごはんを食べに来ていた。
カフェのカベはカステラとクリームが何だんも重なったケーキでできていて、まどはイチゴやオレンジの形をしている。
まどの外はたくさんの人たちが行き交っている。
「マギー。今夜はチョコレート祭りなんだから、あんまり食べすぎちゃダメよ」
「わかってるよ。でも、お祭りが始まる前に、ちょっとだけ仕事するんでしょ?」
「ちょうどよく見つかればね」
どんな星でもカフェにはいろいろな人が集まる。
だから、なんでも屋の仕事をさがすにはちょうどいい。
だから、あたしたちは、ごはんのついでにお仕事をさがしてるの。
にぎやかな店内では、宇宙港に用事があるテオトル人や、ほかの星から来た魔法使いたちが、パンケーキのテーブルについて思い思いにくつろいでいる。
カカオ族が、大もりのチョコパフェをガツガツ食べている。
別のテーブルでは、クリーム族が上品にミルクティーをのんでいる。
いっしょにバームクーヘンを食べている女の子は、青い目と金髪のアリア人だ。
その横のテーブルでは、ワニやライオンの顔をしたアーク人たちがジンジャーマンクッキーを食べている。
アーク人はネコをつれている。アーク人はネコがが大好きだからだ。
ネコはご主人様にだっこされながら、魚の形のネコ用クッキーをかじっている。
ダイヤモンドみたいにキラキラ光るアートマンは、コンペイトウをパクリ。
体が石でできたアートマンは人間のごはんを食べられない。
でも、おさとうでできたコンペイトウだけは別なの。
おさとうにはおいしい魔法がかかってるからなんだって。ステキ!
そして耳の長いエルフィン人は……いないみたいだ。ちょっと残念。
あたしたちエルフィン人はふるさとの星【アヴァロン】をめったに出ないから、ほかの星ではほとんど見かけないんだ。
そうやって店のみんなをながめていると、
「ご注文はお決まりでしょうか?」
プリンの服を着たウェイトレスさんが声をかけてきた。
白いホイップクリームのぼうしと、キャラメル色ののリボンがとてもかわいい。
「それじゃ、木いちごクリームのカップケーキと、イチゴチョコのドーナツをいただくわ。それとウーロン茶」
アリサはすらすら注文を言った。
あたしもあわててメニューをにらむ。
でもみんな美味しそうで、すぐには選べそうにもない。
「そちらのお客様はなにになさいますか?」
あたしはこまってしまって、ふとアリサの方を見た。……そうだ!
「じゃあね、あたしは、まっ茶クリームのカップケーキと、まっ茶チョコのもちもちリングドーナツにしようかな。あと、つめたいミルクティー!」
「かしこまりました。少々お待ちください」
ウェイトレスさんはメニューを持っていった。
あたしはアリサを見てエヘヘと笑う。
アリサがすわっていたクッションがまっ茶クリームのカップケーキだったから、同じものを注文したんだ。そんなアリサは、
「いい仕事はあるかしら」
ケータイを見ていた。
カフェにあるアクセスポイントにつないで、なんでも屋の仕事をさがすためだ。
あたしも身を乗りだして、アリサのケータイをのぞきこむ。
「あたしはアルパカの毛をかる仕事がしたいな。カカオ族の街の近くにアルパカ牧場があったんだよ。昨日、見てきたけど、すっごくかわいかった!」
「そうね、マギーは魔法で動物とお話しできるから楽かもしれないわね」
アリサはケータイに『あるぱか』と入力する。
「『その仕事はひとつもありません』だって……」
あたしの耳がしゅんとたれる。そうこうしているうちに、
「おまたせしました」
さっきのウェイトレスさんがやって来た。
テーブルに、ドーナツの皿とドリンクをならべてくれる。けど、
「あれ? アップルパイやクレープなんてたのんでないよ?」
「それはワシらのじゃ」
後から声をかけられた。
そこには2人組がいた。
ヤギみたいな白ヒゲのおじいちゃんと、ドレッドヘアの女の子だ。
「あ! あなたたちは!?」
2人は昨日あたしを追いかけ回した悪者……じゃなくて、おまわりさんだ。
「じゃまするよ」
そう言って、2人は空いているクッションにすわってしまった。
おまわりさんはカンちがいしてただけだから、もう追いかけられることはない。 でも、ちょっとコワイ。
だから、アリサのとなりまで木いちごクリームのクッションをずらした。
「あらためまして。ワシは、ヘルメスたかし。おまわりさんをしておる」
「あたしは、テスカトリポリカはなこ。テスってよんでくれ」
2人が名乗ったので、あたしとアリサもあらためて名前を名乗る。
「この店のアップルパイはさいこうじゃ。なつかしい母親の味がするわい」
ヘルメスおじいちゃんは、かってにたのんでいたアップルパイを食べる。
「チョコバナナクレープもさいこうだ」
テスも大きな口をあけてクレープを食べる。
そんな2人を、アリサがイヤそうに見ていた。
2人はかってにおかしを注文したりして、ちょっとずうずうしかったからだ。
しかたがないので、あたしも、まっ茶のドーナツをひと口かじる。
まっ茶チョコは、しっとりあまくて、生地はもちもちで、とてもおいしい。
「ここのチョコレートは、親せきの子どもたちがとったカカオで作ってるんだ」
「あ。ちっちゃい子たちがカカオ豆をとってるところ、見たことあるよ」
テスにあたしが答えると、アリサは口をとがらせて、
「……地球にもそういう子がいて、無理やりに働かされてるわ」
「この星じゃ、そんなことはしないよ。学校が終わってからお手伝いをするんだ」
「そうですか。それで、なんの用事ですか?」
アリサはムッとした口調で言った。
言い返されて面白くなかったからだ。
それに、テスの言葉づかいがらんぼうなのが気にいらないんだろう。
いつもお姉さんぶってるアリサだけど、ときどき子どもみたいなことを言うのでかわいい。でも、
「アリサくんとマギーくんは【なんでも屋】じゃろ? 仕事をたのみたいんじゃ」
おじいちゃんは平気な顔で言った。
「仕事?」
あたしとアリサは顔を見合わせた。
「今夜、チョコレート祭りがあるじゃろ? そのガードマンじゃよ」
「チョコレート祭りのガードマン、ねえ……」
「どうする?」
あたしとアリサは、もう一度、顔を見合わせる。
たしかに、お仕事はさがしていた。
けどそれは、お祭りが始まるまでの時間でできるちょっとした仕事だ。
お祭りの間じゅう会場の入口に立っていたいわけじゃない。
あたしは「ことわろうか?」とアリサを見やる。
でも、おじいちゃんはアリサにケータイの画面を見せた。するとアリサは、
「このお仕事、受けましょう」
ニコニコしながら言った。
あたしはケータイをのぞきこむ。
画面には、仕事のお礼にたくさんのお金をくれるって書いてあった。
アリサの目は、お金みたいにキラキラかがやいている。
アリサたち地球人は、お金もうけが大好きなのだ。
「もー、アリサったら」
口をとがらせるあたしに、テスが手配書を見せた。
「あー!! この人たち!」
テスがさしだした手配書には、オニみたいな3人の男がうつっている。
指名手配中のおたずね者だ。
そして、昨日、あたしにからっぽのスーツケースをおしつけていった人たちだ!
「こいつらは、持ってちゃいけない【キケンなさとう】をこっそり売ってるんだ」
あたしは手配書を「イーッ!!」とにらむ。
この人たちにだまされて、おまわりさんと追いかけっこするはめになったのだ。
「でもって、今夜のチョコレート祭りで【さとう】の取引をするらしい」
テスはニヤリと笑った。
「あんたも、こいつらに会って話がしたいだろ?」