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あま~い星のキケンなおさとう  作者: 立川ありす
第1章 おかしの街はキケンがいっぱい!?
5/16

追いかけられる1

「ええい! ヤツらめ、にげおったぞ!!」

 2人組のうちのひとりが、大声でどなった。

 ヤギみたいな白いアゴヒゲをはやした、おじいちゃんだ。

 ギョロリとした目で周囲を見わたし、チッとしたうちする。

 白いクリームのローブを着ている。クリーム族だ。


「チクショウ! 完全に見失った!」

 おじいちゃんのとなりにいるのは、あたしと同じくらいの女の子だ。

 みつあみをいっぱいつけたドレッドヘアの髪をしている。

 そしてネコ耳カチューシャをはめている。

 チョコのキュロットをはいて、ジャケットをはおっている。カカオ族だ。


 2人ともカンカンにおこっている。

 しかも女の子は【グラム】っていうビームをうつピストルを持っている。


「じいさん、いったんもどるよ!」

「じょうだんじゃろ、テス!? やっと見つけた手がかりなんじゃぞ!」

 おじいちゃんはオニみたいな顔でさけんだ。

 あたしはコワくてふるえあがる。

 そんなあたしに気づいたのか、おじいちゃんはこっちを見た。


「ちょっと失礼。おじょうちゃん、ここらでスーツケースを持った3人組を……」

 あたしがコワがってたからか、ちょっとやさしい声で言った。でも、


「おおっ!?」

 あたしが持っていたスーツケースを見て、目を丸くする。


「あんた、そいつをどこで手にいれた!?」

 テスとよばれた女の子は、あたしにいきなりグラムを向けた。

 カバの形をしたキャンディーでできた、大きなグラムだ。

 あたしはビックリした。


 グラムはピストルだけど、たまじゃなくてビリビリしびれるビームをうつ。

 だから、うたれてもしびれるだけでケガはしない。

 でも、テオトル人のグラムは大きくて、大きいから強いビームが出る。

 それでうたれると、ものすごくイタくて、しびれて半日くらい動けなくなる。

 ケガはしなくても、そんなのはイヤだ!


――ボクたち、悪いヤツらから追われてるんだ。


 ふと、さっきの男の子の言葉を思いだす。


――最近は治安が悪いらしいから、より道なんてぜったいにダメよ!


 でかける前のアリサの言葉が、頭の中をぐるぐる回る。

 こんなことなら、ククルといっしょにカピバラ号に帰ればよかった……。


「とりあえず、あたしたちといっしょに来てもらうよ!」

「その前にスーツケースをよこすんじゃ!」

 テスとおじいちゃんの2人組が、目をつり上げてせまってくる。

 そのオニのようにおそろしい顔に、あたしは思わずうつむく。そして、


「……風さん、空気に宿る魔力さん、あたしを守って!」

 ペンダントをにぎりしめて呪文をとなえた。

 ゴウッっと風がふいて、女の子とおじいちゃんをふっとばす。


「ヤロウ! 魔法使いか!?」

「追うんじゃ! にがすな!」

 2人のどなり声をせなかで聞きながら、あたしは、一目散ににげだした。


 魔法の風をまとったあたしは、焼きチョコの道を走る。

 道の両横の板チョコのビルやチョコパフェの家が、どんどん後ろに流れていく。


 人が住める星は空気で満ちている。

 人間は空気がないと生きられないからだ。

 エルフィン人の魔法使いは【エレメントをあやつる魔法】を使って、そんな空気に宿る魔力におねがいして、風をあやつることができる。

 あたしの前にある空気はじゃまにならないようにどいてくれる。

 後ろの空気はあたしのせなかをおしてくれる。

 だから、ふつうではありえないほど速く走ることができる。


「これなら、あの人たちも追ってこれな……ええっ!?」

 ちらっと後を見やると、2人はしっかりあたしの後について来ていた。


「にがさんぞ!」

 おじいちゃんの足は動いていない。地面の上をすべるように飛んでいる。

 ローブのすそが、魔法でキラキラと光っている。


「ルーン魔法使い!?」

 ルーン魔法は、ふしぎな文字で魔力をあやつる魔法だ。

 文字の魔法だから、たくさん勉強して魔法の文字をおぼえないと使えない。

 だから、頭のいいクリーム族が得意な魔法だ。

 そんなルーン魔法使いが使える魔法は2つ。

 光や熱や重力をはなつ【エネルギーの魔法】。

 ローブや飛行機に魔法をかけてパワーアップする【道具や機械の魔法】。

 おじいちゃんはローブに魔法をかけて、反重力で飛んでいるんだ。


「まちやがれ!」

 テスはチョコレート色のけむりをあげながら、すごいスピードで走ってくる。

 風の魔法で速く走っているはずのあたしと同じスピードだ。

 それにしても、女の子なのにすごくらんぼうな言葉づかいだ。

 アリサが聞いていなくてよかったと思う。


「ごせんぞさまのテペヨロトルよ、あたしに力をかしな!」

 さらにテスは呪文をとなえて、ネコの形をしたクッキーを口の中に放りこむ。

 走りながらだ。

 アリサが見ていたらカンカンになっておこりそうだ。

 そう思ったとたん、テスの体が魔法の光につつまれる。

 テスは走りながらもう1丁のグラムをぬいて、あたしのせなかに向かってうつ。


 キュイン! キュイン!


 あたしの後ろに集まっていた魔法の風が、ビームを受け止めてゆれる。

 あたしは、せなかをぶたれたみたいになって、転びそうになる。

 あんな大きなグラムを、2丁いっぺんうつなんて!


「こっちはナワリ魔法使い!」

 カカオ族のナワリ魔法使いは、動物の魔力をかりて魔法を使う。

 こちらも、使える魔法は2つ。

 おかしとお話したり、おかしを使って魔法をかける【おかしの魔法】。

 動物の力をかりてパワーアップする【自分を強くする魔法】。

 だからジャガーのクッキーを食べて、速く走れて、2丁のグラムをうったのだ。


(2人ともが魔法使いだなんて、どうしよう!?)

 あたしは手にしたスーツケースをちらりと見やる。


(これをわたしてあやまったら、あの人たちは見のがしてくれるかな?)

 だいたい、あたしはこれがなんなのか知らない。

 わけもわからずおしつけられたからだ。

 そんなもののためにコワイ人に追いかけられたって、なんの得にもならない。


(でも、あの人たちは「キミだけがたよりなんだ」って言ってくれたもん)

 あの3人は、あたしを信用してスーツケースをあずけたのだ。

 そして、あたしは【なんでも屋】だ。

 悪いヤツなんかに負けて、信用してくれた相手をうらぎるのはイヤだ!

 だから、あたしは魔法に集中して、たつまきみたいなスピードで走る。


「ごめんなさい!」

 向かいから歩いてきたそばかすの女の子をふっとばしそうになって、よける。

 テスとおじいちゃんが追いかけてくる。


「ギャングだ!」

「じゅうげきせんだ!」

 道ばたで遊んでいたカカオ族の子どもたちが、板チョコのかげにかくれる。

 なんだか楽しそうだ。ここではよくあることなのだろうか?

 あたしは必死なのに!


 追手をまくために、わき道へ飛びこむ。


「アリサ! たすけて! 悪い人たちに追われてるの!」

 走りながらケータイをかける。

 でもアリサはでない。かわりに、


「ぷぇ~」

「ぷ~。ぷ~」

 横からのんきな鳴き声が聞こえた。

 固焼きビスケットの囲いの中で、たくさんのアルパカがくつろいでいる。

 白や茶色の毛がもしゃもしゃしたアルパカたちが、生チョコの地面に生えた野生のクレープをのんびり食んでいる。

 アルパカ牧場だ。

 あたしはアルパカたちに笑いかける。エルフィン人の魔法使いは動物と友達だ。

 そんなあたしのせなかをビームがたたく。


 キュイン! キュイン!


 にげるあたしに向かって、テスはピストルをうちまくる。

 おじいちゃんもうちまくる。


 キュイン! キュイン! キュイン!


 あたしは魔法の風をバリアにしてふせぐ。

 でも、こんなに何度もうたれたら、バリアがもたない。あせったそのとき、


 キュイン!


 ビームがアルパカの毛をかすめた。

 アルパカはビックリして「ぷぅ~」とさけぶ。

 もしゃもしゃの毛がちょっとこげていた。

 このままじゃ、アルパカがケガしちゃう!


「……風さん、空気に宿る魔力さん、アルパカたちも守って!」

 あたしは風のバリアを広げてアルパカを守る。

 アルパカに当たりそうだったビームが、魔法の風にはばまれてジュッと消えた。


「ぷぇ~」

 アルパカがあたしに向かってひと鳴きする。ありがとうって言ったみたい。


 そのかわり、ムリして広げた魔法の風も、はじけて消えてしまった。


 でも、テスもグラムのおしりを外して電池を入れかえはじめる。

 うちまくっていたから、電池が切れたらしい。

 おじいちゃんもうってるけど、ぜんぜんあたらない。

 もうおじいちゃんだから、ねらいがちゃんとつけられないのかな?


 にげるチャンスだ!


 そう思ったとたん、テスがグラムをすてて、とびかかってきた。


「大地さん、生チョコに宿る魔力さん、あたしを守って!」

 あたしは地面に手をついて、呪文をとなえる。

 すると生チョコの地面がもり上がり、カベになってあたしの前にそびえ立った。

 テスは、いきなり生えてきた生チョコのカベに頭からつっこむ。

 へへーんだ。【エレメントをあやつる魔法】は、チョコの地面におねがいしてカベになってもらうことだってできるんだよ!


 でも、すぐに、あまいコクのあるホットチョコのにおいがした。

 チョコのカベにあなが開いて、あなはどんどん大きくなる。

 おじいちゃんが【エネルギーの魔法】で熱を作ってチョコをとかしているのだ。


 テスも顔のまわりのカベを食べている。

 食べられない生チョコの地面は、ものすごくにがいけど、かみくだいて飲みこむことができないわけじゃない。

 やがてチョコのカベはすっかりとけて、2人はまた、あたしをおいかけてきた。


 あたしは、いそいでにげる。

 もうちょっと走ったら空港につくはずだ。

 空港にはカピバラ号とアリサがいる。

 アリサのところまでにげのびれば、きっとなんとかしてくれると思う。


 でも、さっきかけたケータイに返信はない。

 それに、あたしはアリサとの約束をやぶっちゃっている……。


 あたしは走って、走って、走りまくった。

 そしてアイスの家が立ちならぶクリーム族の街までたどりついた。

 ショートケーキをいくつもかさねたような、高い高いビルの横を通りすぎる。


 あたしは息を切らせながら、ビルの角をまがって大通りに出る。そのとき、


「きゃ!?」

「あら、ごきげんよう」

 だれかにぶつかりそうになって、あわてて止まる。

 そこには、ドレスを着たクリーム族の女の人がいた。


「このヤロウ! まちやがれ!」

「にがすな!!」

 曲がり角のすぐ後で、2人組のどなり声がした。


 もうだめだ! つかまっちゃう!!


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