おつかいの帰りに
「ククル、おひさしぶり!」
あたしは『ククルカンの店』のおくにむかって声をかける。
「あらあら~、マギーちゃん、おひさしぶり~」
おっとりとした声がして、やさしそうな女の人があらわれた。
落ち着いた色のピーナツバターのワンピースを着て、かたにモンブランのスカーフをまいて、ひとつにあんだ髪を流している。
パーツ屋のククルカンだ。
とてものんびりしているけれど、ひとりでお店をきりもりしている、お母さんみたいな人だ。親しい人はククルってよんでいる。
「アリサちゃんも元気~?」
「うん、元気だよ」
あたしはニッコリ笑って答える。
「てっぽうのたまがなくなっちゃって、買って来てってたのまれたの」
「いつもたまを買ってくれてありがとう」
でも、ククルはこまった顔になった。
「でも、ごめんね~。今、てっぽうのたまがないの~。おまわりさんが、たくさん買っていったから……」
「ええ!? そんな~」
てっぽうのたまがないと、おたずね者をつかまえる仕事ができない。
それに、てっぽうのたまを買って帰らないと、アリサががっかりしちゃう……。
あたしも、ククルといっしょにこまる。すると、
「ああ、そうだわ~」
ククルはポンと手をたたいた。
「マギーちゃんは【宇宙ドルイド組合】のケルト魔法使いだったわよね~?」
「うん! ……見習いだけどね」
「それじゃ、ビリビリベリーをたまのおしりにする魔法も使えるかしら~?」
「うん、使えるよ」
あたしは答える。
「そっか、てっぽうのたまを作るんだね!」
飛行機で使うてっぽうのたまは、3つの部品からできている。
ひとつは、飛んでいく先っぽ。
もうひとつは、先っぽを飛ばすためにばくはつするまん中。
そして、まん中をばくはつさせるおしりだ。
てっぽうのたまのおしりをふつうに作るのは、とてもむずかしい。
でも、シバルバーでとれるベリーに魔法をかけて作ることもできる。
「マギーちゃんがたまのおしりを作ってくれたら、たまを安くゆずるわよ~」
ククルがニッコリ笑ったので、あたしはふたつ返事で引き受けた。
そして、あたしはククルといっしょに店のおくに行った。
「ビリビリベリーさん、ベリーに宿る魔法さん、戦う人に力をかしてあげて!」
あたしは魔法の呪文をとなえて、ペンダントをにぎりしめる。
【〇】と【十】を重ね合わせたケルト十字のペンダントが、キラキラ光る。
宇宙は魔法の力で満ちている。
風にも、地面にも、何もないところにも、動物にも植物にも魔法が宿っている。
あたしたちエルフィン人の【宇宙ドルイド組合】の魔法使いは、そんな魔力におねがいするケルト魔法を使うんだ。
ケルト魔法使いが使えるのは、3つの魔法だ。
宇宙のどこにでもいる妖精の魔力におねがいする【ものを動かす魔法】。
火や氷や風や土に力をかりる【エレメントをあやつる魔法】。
動物や植物とお話ししたり、力をかりたりする【動物や植物の魔法】。
もちろん、ビリビリベリーをたまのおしりにするのは【動物や植物の魔法】だ。
ペンダントをつつんでいた光が、広がっていく。
そして、部屋のゆかにならんだ箱のひとつにふりそそぐ。
『……いいだろう』
『……あんたがそう言うなら』
『……けいやく、せいりつだ』
箱の中にしきつめられていたベリーたちが、ささやくような返事を返した。
魔法はうまくいったみたい。
「マギーちゃん、ありがとう~」
そんなベリーの箱を、ククルが拾い上げる。
「わたしはたまを組み立てるから、マギーちゃんは次の箱をおねがいね~」
「はーい!」
あたしは次の魔法をかけるために、ふたたびペンダントをにぎりしめた。
そうやって、あたしはずーっと魔法をかけつづけた。
そしてお昼すぎに、ようやく全部のベリーに魔法をかけることができた。
「はぁ、はぁ、やっとおわった……」
「マギーちゃん、おつかれさま~」
ククルがくれたマグカップのアイスココアを、くいーっと飲みほす。
カラカラになったのどに、コクのあるココアのあまさがしみわたる。
魔法をたくさんかけると、ものすごくつかれる。
「カピバラ号は宇宙港よね~? マギーちゃんも、いっしょに乗ってく~?」
ククルが言った。
魔法をかけたお礼に、ククルは持ちきれないほどのたまをおまけしてくれた。
だから、宇宙港まで飛行機でとどけてくれるんだって。
いっしょに乗って帰るとラクチンだ。でも、
「ううん、あたしは歩いて帰るー」
あたしはそう答えた。
そしてククルの店を出たあたしは、焼きチョコの道路をてくてく歩く。
歩きながら、食べられるおかし屋さんで買ったチョコバナナクレープをかじる。
クレープのパリッとした食感に、たっぷりつまったチョコクリームとバナナのあまさがたまらない。
ククルがたまの代金もおまけしてくれたから、あまったお金で買い食いだ。
アリサに「より道なんてぜったいにダメよ!」なんて小言を言われたから、ちょっと散歩をして帰りたくなっちゃったんだ。でも、
「あますぎて、のどがかわいちゃったね」
となりに話しかけて、しまったと思った。
あたしはひとりで買い食いしてるんだった。
耳がしゅんとたれる。
ひとりでクレープをほおばっていると、すぐになくなってしまった。
あそこのお店のクレープはすごくおいしくて種類もたくさんあるんだけど、ちょっと小さいかも。
そうだ、こんどアリサといっしょに食べに来よっと!
半分づつ食べっこしたら2つの味を楽しめるし。
いいアイデアを思いついてニコッと笑う。そのとき、
「うわぁ!!」
「きゃっ!」
いきなり、なにかにつきとばされた。あたしはたまらずひっくり返る。
「いたた……。もうっ、なにするのよ!!」
あたしは飛び起きながら、ぶつかってきただれかをどなりつける。
「ゴメン! キミ、だいじょうぶ?」
目をやると、緑色の長髪をなびかせた男の人がいた。ちょっとかっこいい。
おかしじゃない服を着ているから、ほかの星の……たぶん地球人の旅行者だ。
ふしぎなにおいがする。こう水をつけているのかな?
「わりぃ!」
となりにいたワイルドなクセ毛の人が、あたしの足元を見やる。
「いたたたた……」
メガネの男の子が起き上がった。
なかよし3人組かな?
それにしても、緑色の髪なんてめずらしい。おそろいで髪をそめているのかな?
「ケガとかしてないかい?」
「だいじょうぶだよ」
気づかってくれる長髪の人に、ニッコリ笑って答える。
なんでも屋が、これしきのことでケガなんてしてられない。
「よかった。キミ、身が軽いんだね」
長髪の人もニッコリ笑う。
ステキな笑顔でほめられて、思わずエヘヘと笑う。
そのとき、長髪の人がふりむいた。
つられて見ると、通りの向こうがザワザワしている。
だれか大さわぎしながら走ってくるみたいだ。
「ヤバイ!! 追いかけてきた!」
「そうだ、この子に……」
メガネの子は、クセ毛の人とヒソヒソとナイショ話をする。
そして、持っていたなにかをあたしにおしつけた。スーツケースのようだ。
メガネの子は後を気にしながら、
「ボクたち、悪いヤツらから追われてるんだ。このケースを持ってにげて!」
「え? ……え!? どういうこと!?」
あたしはわけがわからずビックリする。けど、
「おねがい、キミだけがたよりなんだ」
男の子に目をウルウルされて、思わずスーツケースをうけとってしまった。
すると3人は、風のようにすばやくわき道ににげていった。そして、
「ええい! ヤツらめ、にげおったぞ!!」
入れかわりに、オニみたいな顔でカンカンにおこった人組が走ってきた。