エピローグ
巨人になってあばれた3人組をつかまえてから、何日かたった。
「ふ~、つかれた~」
あたしは切りかぶのイスにすわる。
アイスキャンディーの木の切りかぶはちょっと冷たいから、カステラのクッションがしいてある。
公園の広場では、テオトル人や、ほかの星の魔法使いたちが、切りかぶのイスにすわって思い思いにくつろいでる。
「おつかれさま、マギー」
「アリサもおつかれさま!」
向こうからやって来たアリサが、あたしのとなりにすわる。
アリサはクリーニングからもどってきたプリンのワンピースを着ている。
「おかしのカフェもかわいかったけど、空を見ながらのごはんもステキだよね」
あたしはパステル色の空を見上げる。
そして、ちらりとアリサを見やる。
アリサは空の下でごはんを食べるの好きかな?
「たまには、こういうのも悪くないわね」
アリサはそう言って笑った。
よかった。
でも、アリサはすぐに口をへの字に曲げて、
「……ただし、アルパカに頭をかじられなければね」
いつの間にか後にアルパカがいて、アリサの長い黒髪を食んでいた。
「アルパカさん、やめて! アリサの髪の毛は食べものじゃないの!」
「ぷぇ~」
「あたしのもダメー!! アリサが結ってくれた髪がムチャクチャになっちゃう!」
「しょうがないわね。いいわ、何回でも結ってあげるわよ」
そう言って、アリサは笑った。
あれから、あたしとアリサはシバルバーでお仕事をしていた。
あたしたちは、おまわりさんや街のえらい人たちから、すごくほめられた。
そして巨人をやっつけたお礼をたくさんもらった。
でもスクワールⅡやヘッジホッグをなおすのにほとんど使ってしまった。
だから、仕事をしないとお金がないのだ。
それでもラッキーなことに、仕事はたくさんあった。
巨人のせいでムチャクチャになった街を、なおさなくちゃいけないからだ。
機械いじりと料理が得意なアリサは、こわれた家や道を作りなおす仕事をした。
あたしは【動物や植物の魔法】を使って、道ばたにアイスキャンディーの木を植えたり、牧場にクレープの草を生やす仕事をしていた。
街のみんなやほかの星の魔法使いたちも、街をもとにもどすために働いている。
仕事が終わったみんながごはんを食べに来るから、カフェは大にぎわいだ。
けどカフェも巨人にこわされちゃった。
だから、みんなが来るのは公園の広場にイスをならべた青空カフェだ。
アルパカの囲いもこわれちゃったから、アルパカたちは公園中をうろうろしながらイタズラばかりしている。
ふと、街を見やる。
チョコやバニラクリームのシートをかぶせた、作りかけの家が見える。
どうせ作り終わったらとっちゃうからって、チョコもバニラもおかまいなしだ。
カカオ族の家とクリーム族の家がならんでいるようにも見える。
「マギー、なに食べようか?」
アリサがメニューを広げる。
テーブルのかわりは、クッキーでできた大きなガレキだ。
「なににしようかなー」
メニューのおかしはみんな美味しそうなので、あたしはなやむ。
あたしたちがメニューを見ていると、ウェイトレスさんがやってきた。
あたしは注文が決まっていなくて、あせる。でも、
「マギーさんとアリサさんですね? こちらをどうぞ」
ウェイトレスさんは、あたしとアリサの前に大きなパフェをおいた。
「あたしたち、まだなにも注文してないよ……?」
首をかしげるあたしに、ウェイトレスさんはニッコリ笑う。
「こちらのパーフェクト・パフェは、店長からのおごりです」
「あら、おごりだなんて気前のいい店長ね」
アリサはニコニコ笑う。
お金もうけが大好きなアリサは、タダでもらうのも大好きだ。
「もう、アリサったら……」
あたしは苦笑いして、ふと気がついた。
「今、パーフェクト・パフェって言った!? ひょっとして、あの伝説の?」
「はい。マギーさんとアリサさんのおかげで、みんながパーフェクト・パフェを味わうことができました。これは、そのお礼です。あのうらないが、こんなふうに本当になるなんて」
ウェイトレスさんは笑顔でそう言ったけど、あたしはわけがわからない。
実は、ずっと前からメニューに出てたのかな?
みんなはもうパフェを食べちゃったの?
あたしたちのおかげって?
それに、なんで、うらないの話がでてくるの?
アリサもわけがわからないらしい。
「うらないっていうと『ピンクと青の太陽が重なる時に星が集まってひとつになるだろう』ってやつよね? それがどうしたのかしら……?」
でも、ウェイトレスさんはもういなかった。
お店がにぎわってるから、ウェイトレスさんもいそがしいのだ。
「それより、はやく食べようよ」
あたしはそう言って、食べごたえのありそうな大きな大きなパフェを見やる。
大きなグラスに、グラスいっぱいくらい大きなシュークリームがはまっている。
シュー皮の上には、チョコとバニラの2色のアイスがそびえ立っている。
その横には、ぷるぷるのプリンがそえてある。
アイスのまわりにはホイップクリームがたっぷりかかっていて、たくさんのフルーツがならんでいる。
イチゴにキウイ、バナナにリンゴ。
モモにメロンにミカンにチェリー。
そして、チョコレートとホワイトチョコのメッセージプレート。
プレートには、こんなことが書かれていた。
『チョコとバニラとプリンをいっしょに食べると、とてもおいしい』
あたしは2色のアイスをスプーンですくって、プリンといっしょに口に入れる。
コクのあるチョコのあまさと、さっぱりしたバニラのあまさが、口の中でまざりあう。アイスで冷たくなった口に、プリンのやさしいあまさがしみわたる。
とっても、あまくておいしい。
まるでチョコとバニラとプリンが、口の中でなかよくダンスしているみたい。
――ピンクと青の太陽が重なる時、たくさんの星が集まってひとつになるだろう。
――白い星も、黒い星も、黄色い星も、ひとつになるだろう。
あたしは、ふと気づいた。
ピンク色のスクワールⅡは、ぐんじょう色のヘッジホッグをたすけようとして、アームでつかんだ。
太陽と同じ魔法のエンジンをつんだ、ピンクと青の飛行機だ。
そしてあたしたちは重なったまま、宇宙へ放りだされそうになった。
それを、みんなが力を合わせて引っぱり上げてくれた。
白い服のクリーム族も、黒い服のカカオ族も、黄色い服のプリン族も、みんな、ひとつになって。
あのうらないは、そういう意味だったんだ。
だからウェイトレスさんは、あたしとアリサのおかげでみんながパーフェクト・パフェを味わえたなんて言ったんだ。
あたしはカフェを見わたす。
チョコの家とクリームの家がならんだような街をバックに、お祭りの時に会ったクリーム族の女の人と、そばかすの女の子が、なかよくごはんを食べていた。
ほかのテーブルでも、カカオ族とクリーム族がいっしょにごはんを食べている。
アリア人の女の子はコンペイトウをめずらしそうにつまんでいて、同じテーブルのアートマンはバームクーヘンをながめている。
アーク人は魚のクッキーを食べていて、アーク人のたてがみやウロコをアルパカが食んでいて、アルパカのせなかでネコがあそんでいる。。
あたしたちを引っぱり上げるときに協力したから、なかよくなったのかな?
みんな、とても楽しそうだった。
チョコだけより、バニラだけより、いっしょに食べたほうがおいしい。
あたしだって、ひとりでいるより、アリサといたほうがずっと、ずっと楽しい。
あたしはアリサを見て、ニッコリ笑った。
でも、そのとき、
「みんなで食べるアップルパイに、かってにシナモンをかけないでくださいな!」
「うまいんだから、いいじゃねぇか!」
大きな声がした。
見やると、クリーム族とカカオ族がケンカしていた。
せっかくなかよくなったのに。
それでも、あたしは、あの人たちもだいじょうぶだなって思う。
あたしとアリサだって、すれちがっちゃうことはあるけれど、ぜんぶ終わった後はいっしょにごはんを食べている。
この街の人だって、何度もケンカしたり協力したりするうちに、いつか友だちになれると信じたい。
だってパーフェクト・パフェは、とってもあまくて、おいしいんだもん!
「あら、テレビでこの前の巨人のことをやってるわよ」
アリサが言った。
アイスキャンディーの木には、ワッフルのテレビがかけられている。
テレビにはニュースがうつっていた。
『みなさんが知っているとおり、数日前に街であばれた巨人は、おまわりさんにやっつけられました。巨人に変身していた3人組もつかまりました』
テレビには、おまわりさんにつれられた太っちょ3人組がうつっていた。
ジャンパーをかぶって歩いている。
でもハゲも顔も横に大きくて、ほとんどかくれていない。
人間がこんなになっちゃうなんて。
あたしはブルッとふるえあがった。
3人組のこんなにすがたを見たら、だれも【キケンなおさとう】でズルして魔法を使おうだなんて思わないよね。
テレビがかわいいアナウンサーさんに変わったので、あたしはほっとした。
『このとき、なんでも屋の2人の女の子が、おまわりさんといっしょに巨人をやっつけました。えらい人たちは、2人のグミ人形を作ってかざることにしました』
「あ、この前、えらい人から言われたやつだよね」
あたしはエヘヘと笑う。アリサも笑う。
何日か前に、えらい人からグミ人形の話を聞いたの。
そして、人形のモデルになる仕事を受けたんだ。
たくさんお礼をもらえたから、アリサはおおよろこびだ。
それに、ずっと昔のえらい人といっしょにピラミッドの横にならぶんだよ。
あたしたちも、えらくなった気がして、うれしい。
『こちらが、そのグミ人形です』
「できあがったのね、どんなかしら」
あたしとアリサは、ワクワクしながらテレビを見つめる。
……その目が点になった。
テレビにうつっていたのは、耳の長い、ムキムキマッチョの女の人だった。
かかげた手の上で火がメラメラもえていて、ツインテールはヘビのおばけみたいにうねっていて、目をカッと見開いて、空に向かって巨人みたいにほえていた。
そのとなりにうつっているのは、長い髪をふりみだしたおばさんだった。
大きなてっぽうをふりあげて、つり上がったギラギラした目でこっちをにらんでいた。
ゆめに出てきてうなされそうな、それはおそろしいグミ人形だった。
「そういえば、テオトル人の絵や人形って、こんなだったわね……」
アリサは、つかれた声で言った。
あたしはアリサを見やる。
長い黒髪のアリサは、あたしよりお姉さんだから大人っぽくて、せが高くてすらりとしていて、ワンピースがよくにあう。
あたしはテレビを見る。
マッチョの女の人と、おばさんがにらんでいた。
「この人たち、だれ……?」
あたしも、つかれた声でひとりごちた。