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あま~い星のキケンなおさとう  作者: 立川ありす
第3章 パーフェクト・パフェは、最高にあまくておいしい!
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アリサをたすけて!

「な、なに!? どうしたの!?」

 見やると、シュークリームの地面に大きなあなが開いていた。


『巨人の足は地面にうまってたでしょ!? そいつが消えたから、足がうまっていたところがあなになったのよ!』

 スクワールⅡとヘッジホッグは、巨人の消えたあなにむかって落ちている。

 ……というより、引っぱられている?


『ヘンなふうに開いたから、カスタードのカーテンがかかってないみたい! 空気が星の外に流れ出してるわ!』

 アリサはさけんだ。

 あたしもビックリして悲鳴をあげる。

 星の外に出て行こうとする空気がはげしい風になって、あたしたちを引っぱっているのだ。


「そんな! それじゃ、わたしたちも宇宙に放りだされちゃうの!?」

『そうみたいね!』

 シバルバーは大きな大きなシュークリームで、住人はシュー皮の内側にいる。

 だから、シュー皮のあなに落ちて、落ちて、ずっと行った先は、星の外だ。


 あたしはスティックをあやつる。

 スクワールⅡは足のエンジンをあなの方向にふかす。

 引っぱられるのが止まった。

 あたしは一安心した。

 そして、アリサのヘッジホッグを見やる。


「アリサ! エンジンを動かして! あなにすいこまれてるよ!」

『ごめんね、マギー。エンジンがこわれているの……』

 そうだった。

 アリサのヘッジホッグは、さっき巨人につっこんだときに、ワイヤーでエンジンを切りさかれていたのだ。


 ヘッジホッグにはあたしがかけた風の魔法がかかっている。

 でも、あなから空気が流れていると、風の魔力も流れ出してしまう。

 だからヘッジホッグは動けない。

 このままじゃ、ヘッジホッグは身動きがとれないまま、宇宙に放りだされてしまう。暗い、暗い、広い宇宙に!


「妖精さん、宇宙に満ちる魔力さん、アリサをつかまえて!」

 風の魔法の代わりにかけた【ものを動かす魔法】が、ヘッジホッグをつかむ。

 ヘッジホッグの落下がおそくなる。


 あたしはスティックをあやつる。

 スクワールⅡはエンジンをふかしてあなの中に飛びこむ。

 バスケットをはなして、小さなアームでヘッジホッグをつかむ。


「このままスクワールⅡであなの外まで運ぶね!」

 でも、エンジンの出力があがらない。

 あたしは力いっぱいスロットルを引きしぼる

 なのに、スクワールⅡのしっぽからも足からも少ししか光の粉が出ない。

 それどころか、エンジンのあちこちがバチバチ火花をふいている。

 そっか、さっき巨人ににぎりつぶされそうになったときだ。

 あのときに、エンジンがこわれてしまったのだ。


 スクワールⅡは、ヘッジホッグといっしょに、ちょっとずつあなのおくへとすいこまれていく。

 暗くて広くて、とてもさみしい宇宙に向かって。


『マギーちゃ~ん、アリサちゃ~ん。今、たすけるわね~』

「ククル!」

 固焼きクッキーのフックが飛んできて、スクワールⅡに引っかかる。

 機体がガクンとゆれて、落下がちょっとだけおそくなった。

 フックにはカスタードクリームのロープが結んである。

 あなの外からククルが引っぱってくれているのだ。


 それでも、スクワールⅡとヘッジホッグは外へ向かって動いていく。

 スクワールⅡのエンジンはバチバチいっていて、今にもこわれそうだ。


『……マギー。アームをはなして』

「ダメだよ! そんな!」

 はなしたら、ヘッジホッグはアリサをのせたまま、宇宙に放りだされてしまう。

 エンジンがこわれたヘッジホッグは動けない。

 だから、広い、広い、暗くてさみしい宇宙のどこかに飛んでいって、だれにも見つけられなくなってしまう!


『このままじゃ、あなたまで宇宙に放りだされちゃうのよ!』

「そんなの、わかってるよ!」

 アリサの言うとおりだ。

 このままじゃスクワールⅡのエンジンも動かなくなって、あたしもアリサといっしょに宇宙のどこかに飛んでいってしまう。


 でも、アリサを見すてて、自分だけたすかるなんてイヤだ!


「おねがい! おねがい! 魔力さん! アリサをたすけて!」

 そんな都合のいい呪文はない。

 あたしはまだ見習いだから、あたしの魔法じゃアリサをたすけられない。でも、


「だれか、アリサをたすけて!!」

 あたしは力のかぎり、さけんだ。


 そのとき、機体がガクン、ガクンとゆれた。


 見やると、ヘッジホッグにいくつものロープがまきついていた。

 まっ白なバニラクリームのロープだ。

 ロープの先っぽについたフックにはルーン文字が書いてある。


「マーギーさーん。ぶーじーでーすーかー?」

 あなの外から声が聞こえる。

「「「わーたーしーたーちーがー!! ひーきーあーげーまーすーわー!!」」」

 ルーン魔法だ。

 あなの外にクリーム族の魔法使いたちがいて、【道具や機械の魔法】をかけたロープで引っぱり上げてくれているのだ。

 機体の落下が……止まった!


 そのとき、スクワールⅡのエンジンがボンッとはじけて、光が完全に消えた。

 ガクンと機体がゆれて、ふたたび外に向かって引っぱられる。


「みんな! はなして! 引っぱられて、みんなまで落ちちゃう!!」

 あたしはさけぶ。

 あなの外の魔法使いたちは飛行機にすら乗っていないのだ。

 あなに落ちて宇宙に放りだされたら、大変なことになる。

 もういちどガクン、ガクンとゆれる。


『マギーこそ、アームをはなして! あなただって落ちちゃうのよ!』

「イヤだよ! そんなの、ぜったいにイヤだ!」

 アリサをみすてて自分だけたすかるくらいなら……!! 

 あたしはぎゅっと目をつむる。そのとき、


『マギー!! 見て!?』

 アリサの声に、あたしは機体の外を見やる。


「え……? 上に上がってる……?」

「どういうこと?」

 あたしたちは宇宙に落ちて放りだされるどころか、引っぱり上げられていた。


「わーたーしーたーちーもー」

「「「おーれーたーちーもー!! てーつーだーうーぜー!!」」」

 また声が聞こえた。

 そばかすの女の子と、カフェにいたカカオ族だ。

 みんなネコ耳カチューシャをはめている。みんなもナワリ魔法使いだったんだ。

 ナワリたちは【自分を強くする魔法】を使って、すごい力でロープを引っぱる。


 あたしは、うれしくなった。

 たくさんの人たちが、あたしとアリサをたすけてくれているからだ。

 この星で知り合った上品な女の人や、そばかすの女の子、カフェでケンカしていたクリーム族とカカオ族の人たち。

 みんなが、力をあわせて、あたしとアリサを引っぱってくれている。


 さらに、スクワールⅡにベルトがまきついた。

 バームクーヘンをほどいて作ったベルトだ。先っぽにルーン文字が書いてある。

 ベルトをあやつっているのは、青い目と金髪のアリア人の女の子だ。


「パオーン」

 アートマンが大きなダイヤモンドのゾウに変形して、ひとなきする。

 そして、長い鼻でベルトのはしをつかんで引きよせる。


 ワニやライオンの顔をしたアーク人が呪文をとなえる。

 すると、あなの外からふきつける風が弱くなった。

 アーク人たちはさばくの星に住んでるから、あらしをおさめる魔法を使える。


 スクワールⅡとヘッジホッグが、どんどん引き上げられていく。

 ロープやベルトを、みんなで引っぱってくれているからだ。


 おまわりさんも、街の人も、カカオ族の子どもたちも、アーク人のネコも、囲いがこわれて出て来たのかアルパカまで、みんながロープを引っぱってくれている。


 魔法が得意じゃないプリン族も、飛行機を使って引っぱってくれる。そして、


――妖精よ、宇宙に満ちる魔力よ、ピンクと青の太陽を守りたまえ。


 スクワールⅡを、見えない手がそっとささえた。

 あたしはビックリした。【ものを動かす魔法】だ。それも、かなり強い。

 あたしと同じエルフィン人の魔法使いが近くにいる?


 そして、ついにスクワールⅡとヘッジホッグは、あなの外へ引っぱり出された。


 すぐさまパティシエさんや大工さんの飛行機が飛んで来た。

 あなに向かって、おさとうの糸をふきだす。

 おさとうの糸はわたがしになって、あなをふさぐ。


 あたしは急いでガラスの風よけを開ける。

 エルフィン人の長い耳をさがすけど、それらしい人はいなかった。

 はずかしがり屋なのかもしれない。

 あるいはエルフィン人なんていなくて、頭のいいクリーム族のだれかがルーン魔法のかわりにケルト魔法を勉強してたのかもしれない。


 ま、いっか。


 あたしは街を見わたす。


 ヒドイありさまだった。

 ケーキのビルはへし折れて、家のやねはひとつ残らずふっとんで、おかしのガレキやなぎたおされた木が、そこらじゅうにちらばっている。


 でも、あまり悲しくはなかった。

 街のみんなが笑っていたからだ。

 みんなが、スクワールⅡとヘッジホッグのまわりに集まってきていた。


 先にヘッジホッグをおりたアリサが、みんなにお礼を言っている。

 アリサも元気に笑っている。


 あたしはうれしくなって、運転席から飛びだしてアリサにしがみついた。

 機械油とバニラエッセンスがまじったアリサのにおいが心地いい。


「もうっ! マギーったら、あぶないじゃない」

 しりもちをついたアリサがブツブツ言う。


 でも、アリサは笑っていた。

 みんなも笑っていた。

 あたしたちを引き上げてくれた街の人たちが、あたしたちが無事なのをよろこんでくれていた。

 あたしも思わず笑った。


「マギー!! アリサ!!」

「おう! ぶじじゃったか!」

 テスとおじいちゃんもやってきた。

 あたしとアリサを見て、テスはニッコリ笑う。

 おじいちゃんもニコニコ笑う。


「ワシらもバッチリ3人組をつかまえたぞ!」

 3人組が【キケンなおさとう】で巨人になったのも、あばれまくったのも、みんな知っている。もう言いのがれはできない。でも、


「あのね、おじいちゃん。その人たちは、ちがう人なんじゃないかな……?」

 おじいちゃんの後ろでしょんぼりしているのは、おまんじゅうみたいに丸々と太ったハゲの男たちだった。

 黒皮のジャケットはピチピチだ。

 おなかが大きすぎて、ズボンのチャックがこわれている。

 あの悪いけどかっこいい3人組とはぜんぜんちがう。

 そんなの、ちょっと見ればわかる。


 いくらおじいちゃんだからって、こんなときにボケるのはやめてほしい。

 カンちがいでつかまった太っちょハゲさんたちがかわいそうだ。でも、


「この人たちで合ってるわよ」

 アリサまで、そんなことを言った。


「……え? だってアリサ」

 あたしはビックリした。

 アリサは顔をしかめながら、太っちょさんのせなかに手をのばす。


「あったわ。ほら、わたしがお祭りの時につけた発信機」

「え……?」

「そういえば、マギーには言ってなかったわね。【キケンなさとう】を使いすぎると、こんなふうにブクブクに太っちゃうのよ」

 アリサが言った。


「キケンでしょ?」

「うん。キケンだね……」

 あたしは、まじまじと3人組を見やる。

 黒ずんだおまんじゅうみたいな3人組は、ちっともかっこよくなかった。


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