たたかう2
『おまわりさんにたのまれて調べてたんだけど、あいつらは【キケンなさとう】で手にいれたニセモノの魔法で、カラメルのワイヤーを作っていたの』
テレビ電話のモニターの中で、アリサが教えてくれた。
あたしたちは、巨人からはなれた場所を飛びながら、アリサの話を聞いている。
おまわりさんたちはみんなやられてしまった。
だから、飛んでいるのは、あたしのスクワールⅡとアリサのヘッジホッグ、後ろに下がっていたククルのヘッジホッグだけだ。
『ワイヤーは見えないくらい細くて、固いから、なんでも切りさいてしまうわ。それをカタナみたいにふりまわして切ったり、アミみたいにして身を守ってたの』
アリサが言った。
「それじゃ、おまわりさんのディルバーンがやられたのは……」
あたしはさっきのこと、昨日のことを思いだす。
『そう。見えないカラメルのワイヤーで切られてたのね』
巨人にやられたおまわりさんの飛行機も、スーリーにやられたテスとおじいちゃんの飛行機も、いつの間にかエンジンやコンピューターを切りさかれていた。
『そして、マギーくん、キミもじゃ』
1機のディルバーンが飛んできた。
ひとつだけになったエンジンで、よろよろ飛んでいる。
『ほかの3機は落とされた。……乗ってたおまわりさんがにげるのでせいいっぱいだった。あたしのディルバーンも、これ以上は飛べそうにない』
『じゃが、ワシらのちゅうしゃ器だけは、なんとか無事じゃ』
おまわりさんたちは無事だったんだ。
ほっとしたあたしは、おじいちゃんにたずねた。
「あたしもワイヤーで切られてたって、どういうこと……?」
『昨日、マギーくんは公園で男の子をつかまえようとしたじゃろ?』
「え? 昨日って……?」
あたしは思いだす。にげる男の子をつかまえようと手をのばした。
でも、アリサに足をつかまれた。
『そのとき、ヤツらはカラメルのアミで身を守っていたんじゃ。カラメルがキラッと光るのが、アリサくんの左目にうつっておった』
「それじゃ、あの時アリサは……!?」
『おじさんに話を聞いて、おいかけてるわしらがしんぱいになったんじゃろうな』
だから、走ってきてくれたんだ。
スピードアップする魔法なんて使えないのに。
近道を見つけて、息が切れてしゃべれなくなるくらい走ってくれた。
足を引っぱって止めてくれた。
あのとき、あたしはキケンなカラメルのアミに、頭からつっこんでいくところだった。そんなあたしを、アリサはたすけてくれた。
アリサが3人組のスーリーをボコボコのボロボロにしたのも、バカにされたからだけじゃなくて、あたしが大ケガをするところだったからなんだ。
それなのに、あたしはアリサにバカって言ってしまった。
あたしの耳がしゅんんとたれる。
「あのね、アリサ……」
……ごめんね。
そう言おうとしたそのとき、テレビ電話にアリサがうつった。
『カラメルが見えるようになるプログラムを送ったわ。巨人を見てみて』
言われて、ガラスの風よけごしに巨人を見やる。
「巨人のまわりに、赤い糸が見えるよ?」
『そう。それがプログラムで見えるようになったカラメルのワイヤーよ。このプログラムを作るのに時間がかかったから、来るのがおくれたの。もう少し早く来られたら、おまわりさんたちも使えたんだけど……』
アリサはしょんぼりした。
おまわりさんたちはみんなやられちゃって、のこっているのはあたしとアリサとククルだけだ。
『反省は後でもできる。アリサくんたち3人と、ちゅうしゃ器がのこっておるんじゃ。まだ、負けたわけではない!』
テレビ電話におじいちゃんがうつって、はげましてくれる。
『じゃが、問題がひとつある』
「問題って?」
『ちゅうしゃ器が1本だけじゃと、弱点にちゅうしゃしないときかんじゃろう』
「そんな! 弱点って、どこなの……?」
『巨人のどこかに3人組がうまっとるはずじゃ。そいつらが弱点なんじゃが……』
『それなら、だいじょうぶです。あいつらのひとりに発信機をつけてあります。近くまで行けばわかると思います』
『おお! さすがはアリサくんじゃ!』
「アリサってば、発信機なんて、いつつけたの?」
『ほら、お祭りであいつらと話した時よ』
首をかしげるあたしに、アリサは答えた。
『おかげで服にヘンなにおいがついて、クリーニングに出さなきゃならなくなったわ。あたしもマギーみたいに、おかしの服をもう1着、買おうかしら?』
あたしはアリサのしたかったことが、わかった。
わかったから、思わず笑った。
お祭り会場で、アリサは長髪の人にだきついた。
すごくショックだった。
でも、あれは、発信機をつけるためだったのだ。
3人組となかよくしたいからじゃなくて、お仕事をがんばっていたのだ。
ワンピースも、クリーニングに出していたから着れなかっただけだ。
おかしの服がイヤなわけじゃなかった。
『ならば、ちゅうしゃ器はアリサくんにまかせよう』
ヘッジホッグは長いアームを使って、ちゅうしゃ器を受けとる。
かわりに、持っていたバスケットをスクワールⅡのアームにつけてくれる。
『ねえ、マギー。知ってる?』
「なあに? アリサ」
『このちゅうしゃ器も、ガトリング先生が考えたものなのよ』
グミ人形にもなった、えらい地球人の先生だ。
『ガトリング先生はとても発明好きだったそうよ。地球にいたときから、おいしゃさんが使う道具をたくさん発明していたんですって』
アリサが、自分と同じ地球人のことを楽しそうに話す。
でも、今はそのことがイヤじゃない。
あたしの知らないアリサのこと、アリサの星の人のことを聞くのが楽しい。
アリサがあたしのことを考えていてくれるって、すごくわかった。
だから、あたしもアリサのことをもっと知りたい。
アリサをもっと信じられるように。だから、
「ねえ、アリサ」
モニターの中のアリサにむかって、問いかける。
「もしラクチンにだれでも使える魔法があったら、アリサは使いたいって思う?」
『そうね……』
モニターの中のアリサは少し考える。そして、
『べつに、使えなくてもいいわ。今のままで』
そう答えた。3人組みたいによくばりじゃないからかな。
それとも、機械いじりが得意だから、魔法はどうでもいいのかな?
もし、そうなら、ちょっとさみしい。でも、
『だって、魔法のことならマギーにたのめばいいじゃない?』
アリサはそう言って笑った。
あたしも笑う。
『まって。やっぱり、ひとつだけ使いたい魔法があるわ』
「え、どんな魔法? あたしじゃ使えない魔法……?」
『そうよ。わたしが使いたいのは【マギーがちゃんと勉強する魔法】だもの』
「もう! アリサったら! そんな魔法なんかなくても、たくさん勉強して、りっぱな魔法使いになってやるんだから!」
『ふふ、楽しみにしてるわ』
アリサとあたしは、テレビ電話のモニターごしに笑いあう。
あ、そうだ。
「ねえ、アリサ」
『こんどはなによ?』
「【ロッテ戦法】って、知ってる?」
それは、あたしを追いかけたテスとおじいちゃんが使った戦法だ。
先頭の人がこうげきして、相手がビックリしたら次の人がこうげきするの。
2人のタイミングがピッタリあうと、相手はとてもじゃないけどよけられない。
そんなこうげきをするのは初めてだ。
でもアリサは、あたしのことを大事に思って、いつも見ていてくれる。
だから、できると思った。
『もちろんよ。マギーこそ、そんなの知ってるなんてめずらしいわね』
「アリサったら、すぐそういうこと言う!」
あたしはぷぅと口をとがらせて、でも思わず笑う。
いつもと同じように言い合いをして安心しちゃったからだ。
するとアリサも笑顔になった。
『じゃ、先頭はマギーね。ムチャはだめよ』
「もー、わかってるってば!」
『こんどは、わたしも手伝うわね~』
ククルのヘッジホッグがやってきた。
たたんであった固焼きプレッツェルのたいほうをのばして、かまえる。
昨日、アリサが使ったミスティルテインだ。
これならワイヤーがとどかないくらい遠くからこうげきすることができる。
『ククル、わたしたちに当てないでね。それじゃ、マギー、行くわよ!』
「うんっ!!」
あたしはスロットルを引きしぼる。
スクワールⅡが、大きなエンジンから光の粉をふいてスピードをあげる。
あたしの体が、加速Gに引っぱられてシートにおしつけられる。
でも、まだまだ。
「風さん、空気に宿る魔力さん、力をかして!」
スクワールⅡはすごいスピードで巨人につっこむ。
白いおさとうの巨人が、ぐんぐん大きくなる。
巨人のむねに向かってつっこむ。
弱点がここにある『かくりつ』がいちばん高いって、アリサとおじいちゃんが言ったからだ。
グオオオォォォォォォォ!!
巨人がさけぶ。
巨人のまわりに赤い糸があらわれて、あたしに向かって飛んでくる。
巨人はわめくように何度もさけぶ。
赤い糸が次々にはなたれる。
でも、見えてさえいれば、よけるのはカンタンだ!
あたしはスティックをかたむける。
スクワールⅡはヒラリ、ヒラリと糸をよける。
ヘッジホッグも、あたしの後にピッタリついてくる。
さすがアリサ!
今度は近づいたあたしたちにパンチしようと、巨人がこぶしをふりあげる。
でも、その手は何発ものたいほうにうたれて、バラバラになってふっとんだ。
ククルのねらいうちだ。
あたしはゲイボルグはっしゃのボタンをおす。
ミサイルが飛んでいくたくさんの【◎】が、巨人の体じゅうにあらわれる。
シュボボボボボボッ!
バスケットのフタがパカッて開く。
エクレアたちが、クリームのけむりをあげながら飛んでいく。
エクレアは巨人の顔ではじけて、ビックリさせる。
「アリサ! 弱点の場所はわかった?」
『おしりよ!』
「カゼをひいたときに。ちゅうしゃをうってもらうところだね」
もうっ、『かくりつ』なんて、ぜんぜんあてにならない!
『でも、だいぶ下におりないといけないわね』
「それなら、あたしが巨人の気をそらすね!」
あたしは引き金をひく。
タタタタタッ!
てっぽうをうって、巨人をまたまたビックリさせる。
そのスキに、ヘッジホッグはあたしの後ろから飛びだす。
そして巨人のおしりに向かって飛んでいく。
あたしはスティックをかたむける。
スクワールⅡは巨人の頭のまわりを飛びまわって気をそらす。
巨人は両うでを元どおりにして、スクワールⅡをたたこうとする。
けど、あたしはスティックをあやつって、スクワールⅡは足のエンジンをすばやくふかしてよける。
ワイヤーの魔法を使ってこないのが気になる。
まさかアリサがねらわれてる?
頭のカメラを動かして、ヘッジホッグが飛んでいった下のほうを見る。
「あっ、アリサ!」
巨人のおなかのあたりにあらわれた赤い糸が、ヘッジホッグを追いかけていた。
反重力でふわふわうかぶヘッジホッグは、速く飛ぶことができない。
でも、ヘッジホッグののまわりで風がふいた。
アリサをのせたヘッジホッグはスピードを上げて、赤い糸を引きはなす。
「風さん、ありがとう!」
あたしがさっきかけた風の魔法は、自分じゃなくてヘッジホッグにかけたんだ。
ヘッジホッグは速く飛べないけど、風に手伝ってもらうのなら話は別だ。
前にある空気はどいてくれて、後ろの空気はヘッジホッグの丸い大きなせなかをおしてくれる。
だから、今のヘッジホッグは速く飛ぶことができる。
あたしは安心した。そのとき、
「きゃっ!?」
スクワールⅡがはげしくゆれた。
前に進まない。
エンジンをフルスロットルでふかしても動かない。
あたしがアリサを見ているスキに、巨人につかまっちゃったみたい。
タタタタタッ!
巨人の手をうとうと頭のコンピューターを動かすけれど、ぜんぜんあたらない。
ククルのたいほうが巨人の頭やおなかにあたる。
でも、巨人の手にはあたらない。
ククルはアリサほどたいほうをうつのが上手じゃないから、巨人の手をうとうとするとあたしに当たっちゃうからだ。
『マギー!?』
ヘッジホッグのカメラが、あたしのほうを向く。
あたしが巨人につかまったのはアリサからも見えているらしい。
でも、ヘッジホッグはそのまま進む。
スクワールⅡがミシミシ音をたてる。巨人がにぎりつぶそうとしてるからだ。
ヘッジホッグにかけた魔法をといて別の魔法を使えば、巨人の手をふりほどくことができる。
でも、あたしは魔法をとかない。
アリサを信じてるから。
いつだって、アリサはあたしを守ってくれるから。
巨人のおしりにおちゅうしゃをするのが、あたしをたすけるいちばんの方法だって知ってるから、アリサはぜったいにやってくれる。
グオオオォォォォォォォ!!
巨人のおしりに回りこんだヘッジホッグに、赤い糸がおそいかかる。
ヘッジホッグは器用に動いて糸をよける。
でも、機体の下側にある反重力エンジンが切られてしまった。
「アリサ!?」
それでも、ヘッジホッグは飛ぶ。
あたしの魔法を使って、巨人のおしりに飛びこむ。
スクワールⅡがミシミシ音をたてる。
「風さん! おねがい、アリサを守って!!」
『この、くされ巨人! マギーをはなしなさい!!』
あたしとアリサのさけびとともに、ヘッジホッグはつっこむ。
巨人のおしりの前に止まって、ちゅうしゃ器をつきつける。
キイィィィィィィィン!
ズダダダダダダダダダッ!!
ちゅうしゃ器はモーターの音をたてて、ものすごいスピードで回る。
回りながら、するどくとがった大きなハリを、てっぽうみたいにうちまくる。
1秒間に100発だ!
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!
巨人のおしりに、たくさんのハリがつきささる。
ささったハリは、おさとうの巨人に魔法のインスリンを流しこむ。
やがて、白い巨人はあばれるのをやめた。そして、
「やった! 巨人がとけていくよ!」
頭からゆっくりとさとうにもどって、風にふかれて消えていった。
あっという間だった。
『ふう、なんとか終わったわね』
モニターの中で、アリサが笑う。そのとき、
「な、なに!?」
機体が下向きに引っぱられた。