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あま~い星のキケンなおさとう  作者: 立川ありす
第3章 パーフェクト・パフェは、最高にあまくておいしい!
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交番にて

 カチカチに焼いた固焼きビスケットの通路で、あたしはケーキのソファにすわったまま足をブラブラさせる。

 ケーキのカステラはふかふかで、とてもすわりごこちがいい。

 クリームのせもたれには、かわいくカットされたイチゴとキウイのクッションがくっついている。


 でも、あたしはぼんやりとビスケットのカベを見やる。

 ソファにすわりながらソファを見ることはできないし、テスとおじいちゃんはアリサといっしょに別の部屋に行ってしまった。

 だから、あたしはひとりで待っているのだ。


 通路のはしには、両手でグラムをかかえたおまわりさんが立っている。

 テスが持ってるのより大きくて、てっぽうみたいに長い。

 おたずね者をふっとばすためのグラムだ。


 おまわりさんは、あたしを見ておじぎした。

 あたしもおじぎを返す。


「あーあ、アリサはまだかな」

 ひとりになると、3人組の言葉が頭の中をぐるぐるまわる。

 アリサは3人組や【おさとう】のことをどう思ってるんだろう。


 アリサだって、【おさとう】でズルして魔法を使うなんてイヤだよね?


 男の子をつかまえようとしたあたしをじゃましたのも、理由があるんだよね?


 今日のアリサはいつものぐんじょう色のワンピースを着てるけど、おかしの服がダサいなんて言うのは、あの3人組だけだよね?

 アリサはかわいいって思ってくれてるよね?


 アリサは魔法を使えないけど、魔法がキライなんかじゃないよね?

 そんなことを考えていると、悲しくなって、耳がしゅんとたれる。


「はやく帰って来ないかな……」

 そして、3人組のことなんかわすれて、アリサと楽しく遊びたい。


 そのとき、通路の向こうから足音がした。


「あ、アリサ! どうだっ――」

 ――た? と言おうとしたあたしの笑顔が固まった。

 そこにいたのは、テスに連れられた3人組だった。

 緑色の長髪をなびかせた男の人。

 ワイルドなクセ毛の男の人。

 メガネの男の子。


「なんで、あなたたちが……!?」

「スマン、マギー。アリサの目に【さとう】はうつってなかったんだ」

「そんな……」

「【おかしの魔法】にちょっとだけ返事があったんだが、ポケットにもクツのうらにも持ってないんだ」

 テスは、くやしそうに言った。


「魔法って、かんじんなときには役にたたないんだ! ざまみろ!」

「なにも悪いことをしていないボクたちをつかまえるなんて、ウチュー人のおまわりさんは役に立たないなあ」

 クセ毛の人と、長髪の人が、ニヤニヤ笑いながら言った。

 最初に会ったときとはぜんぜんちがう。

 テスがくやしがるのを楽しんでいるような、いやらしい笑みだ。


「ボクは『悪い人に追われてるからたすけて』って言ったのに、なんで悪い人といっしょになってボクたちをつかまえたんだい?」

 メガネの子はあたしに向かって言った。

「そんなに耳が長いのに、言葉が聞こえないのかい? それともバカなの?」

 あたしはくやしくて、なみだが出そうになった。だから、


「悪い人はあなたたちでしょ!? あたしにウソをついたり、昨日だって、子どもをカタナで切ろうとしたじゃない!」

「ボクたちがウソを言ったなんて【しょうこ】はあるのかい? スーツケースなんて、ボクたちは知らないよ」

 長髪の人は、平気な顔でウソを言った。


「子どものことだって……ああ、そうだ、あの黒髪が子どもをうとうとしたから、ボクがカタナで守ったんだ」

「アリサはそんなことしないもん!!」

 だって、アリサに子どもをうつ理由なんてない。

 カタナなんて鉄のぼうきれなんだから、そんなのでビームは止められない。

 それなのに、この人は自分が悪いことをしたのをごまかすために、アリサのせいにしようとした。


 ゆるせない。くやしい!


 でも【しょうこ】がないから、なにもできない。

 それでもガマンできなくて、思いつくままにさけぶ。


「それに、公園のモンテスマ人形をたおしたでしょ!」

「そ、それは、人形が大きくて手がとどかなかったから……」

「おい!」

 クセ毛の人が、男の子をゲンコツでなぐった。


「ボクたちは、もう行くよ」

「どけよ、ウチュー人!」

 3人はわざとあたしやテスにぶつかると、出口に向かって歩いていく。


 平気でウソをついて、平気で人をきずつける、この人たちがゆるせない。


 でも、【しょうこ】がないから、どうすることもできない。

 あたしも、テスも、おまわりさんも、どうすることもできない。


 あたしは、くやしくて、なきそうになりながら、3人のせなかを見送った。


 今では、この人たちのことをぜんぜんかっこいいなんて思えない。

 こう水のにおいだってクサいし、緑色の髪だって、すごくヘンだ!

 アリサのお料理と機械いじりのにおいのほうがステキだ!

 アリサのつやつやした黒髪のほうがずっと、ずっとステキだ!


――みょうちくりんな緑色の髪。

――あんな、スコンブみたいなヘンな色の髪。


 アリサの言葉が頭の中でグルグル回る。


 スコンブっていうのは、アリサのコロニーに昔からあるおかしなんだって。

 海に生えているコンブをすっぱく味つけしたおかしなんだけど、かんでいるうちにあまくなってくる、ふしぎなおかしだ。


 スコンブはおいしいけれど【おかしの魔法】はきかない。

 パティシエさんがひいて粉にしたり、ねったり、こねたりして、元の形がなくなるまで料理しないと【おかしの魔法】であやつれるおかしにはならないのだ。


 そこでふと、あたしは思った。


 さっき、男の子は、モンテスマ人形に「手がとどかなかった」って言ってた。

 それって、手をとどかせたかったっていうことだよね?

 手がとどくと、どうなるんだっけ?


――この頭のかざりにさわると、髪の毛がフサフサになるんですって。


 そう、アリサが教えてくれた。

 でも、なんで髪がフサフサになりたいの?

 今だって3人とも髪はフサフサしてるし、長髪の人はあんなに髪が長いのに?


 あたしは、3人組の緑色の髪を、じっと見やる。

 地球人ではありえない、ヘンな色の髪。

 そういえば、あの色は……。


「まちなさい!!」

 あたしはさけんだ。

 3人組はふりかえる。


「まだなにかあるのかい? ウチュー人のおチビさん」

 いやらしい笑みをうかべる、長髪の人……ううん、ちがう。


「イチゴさん、キウイさん、果物に宿る魔力さん、あたしに答えて!」

 あたしはネックレスにぎりしめて、魔法の呪文をとなえる。

 【〇】と【十】を重ね合わせたケルト十字のネックレスが、キラキラ光る。

 ケーキのソファに向かって魔法の光がほとばしる。


『ハーイ!! ぼくイチゴ! ソファのクッションをしてるんだ!』

『ハーイ!! ぼくキウィ! ぼくもクッションをしてるんだ!』

 ソファのせもたれにくっついていたイチゴとキウイが、ぴょんっと飛びはねた。

 イチゴとキウイはダンスをはじめた。

 つぶしたり、こねたりして元の形がなくなっていない、野菜や果物の形をしたままのおかしは【おかしの魔法】じゃなくて【植物の魔法】であやつれる。

 焼きリンゴのポストに魔法をかけたみたいに。


 でも、これは、こてしらべだ。

 あたしは3人組をにらみつける。


 3人組は、頭をおさえて走りだした。

 あたしがしようとしていることに、気づいたんだ。

 思ったとおり!


「コンブさん! スコンブに宿る魔力さん! あたしに答えて!」

 あたしはにげる3人にネックレスをかざして、さけぶ。

 ネックレスから魔法の光がほとばしり、3人の頭に当たる。


『『『ハーイ!! ぼくコンブ!』』』

 3人組の髪の毛が、おさえる手をはらいのけて、頭の上から飛びおりた!

『『『ぼくたち、スコンブのカツラをしてるんだ!!』』』

 ほそく切ったスコンブでできた髪の毛は、ビスケットのゆかの上でダンスする。


 後に残された3人組の頭はツルツルだった。

 テカテカ光るハゲ頭だった。


 そう。3人組の髪の毛は、スコンブで作ったカツラだったのだ。

 こう水をつけてたのだって、スコンブのすっぱいにおいをごまかすためだ。


「ボクの髪が! ボクの髪がぁぁぁ!!」

「まて! オレの髪!!」

 3人のハゲは、おどるカツラを追いかける。

 でも、スコンブのカツラはイチゴとキウイといっしょになって、楽しそうにダンスしながらにげまわる。


 そして3つのハゲのてっぺんから、小さなふくろがすべり落ちた。


「【キケンなさとう】だ!」

 テスがさけぶ。


「見つかった! クソ! にげるぞ!」

「【ソウイル】のルーンは、お日さまのルーン! 光るんじゃ!!」

 にげようとした3人組の足元が、ジュッとこげた。

「にがさんぞ!」

 通路の向こうから、キャンディーをかまえたおじいちゃんがやってきた。


「なら、そっちの耳長をひとじちにしてやる!」

 メガネの男の子が、あたしにつかみかかろうとする。

 あたしはビックリして目をつむる。そのとき、


 ドンッ!!


 すぐ横で、グラムの音がした。

 目を開けると、男の子はふっとんでいた。

 ゴンッとカベにぶつかって、ドサリとゆかに落ちる。

 動かない。

 ビームでしびれたみたいだ。


 あたしの前に、すらりとしたワンピースのせなかが立ちふさがった。

 長い黒髪はつやつやで、ワンピースはぐんじょう色。

 両手には動物のレミングの形をした大きなグラムをかまえている。

 おまわりさんのグラムだ。


 ガチャリ!


「だれをひとじちにするんですって? 毛なし!」

 アリサはグラムを動かして、次のビームがうてるようにした。

 グラムの音と、アリサのせなかと、アリサの声で、あたしはほっとして、体の力がぬけそうになった。


「スコンブのカツラの中に【さとう】をかくしてたのね。気がつかなかったわ」

 アリサはニッコリ笑う。

「でも、マギーがそれを見つけるなんて。スゴイわ! これが【しょうこ】よ」

 アリサが笑ったから、あたしも目元をごしごしとこすってエヘヘと笑う。


 アリサはおまわりさんにグラムを返す。

 テスとおじいちゃん、おまわりさんたちが3人を取り囲んで、グラムを向ける。

 3人組は、もうにげられない。でも、


「おまえら、なにしてやがる!?」

 テスがビックリした声をあげる。

 元長髪と元クセ毛が、目をまわした男の子の口を開けて、なにかをザーッと流しこんでいた。


「【さとう】を、一度にぜんぶのませたじゃと!? ムチャクチャじゃ!」

 おじいちゃんもビックリする。


 男の子はガクガクとふるえる。

 そして体じゅうから、ヌメヌメするなにかがにじみだした。

 白くにごった、さとう水だ。


 あの2人は、友だちにムチャクチャな量の【おさとう】を飲ませた。

 ヤケッパチになったの?

 それとも、友だちになにかして、自分たちだけたすかろうとしたの? ヒドイ!


 さとう水はどんどん広がって、男の子をつつみこむ。

 それでも、まだまだ広がって、にげようとした元長髪と元クセ毛をのみこんだ。

 さとう水は、どこまでも広がる。どんどん、どんどん広がる!


「【スリサズ】のルーンは大男のルーン! あいつをつかまえるんじゃ!!」

 おじいちゃんが魔法を使って、3人組を飲みこんださとう水をとじこめる。

「ワシの魔法でヤツをおさえる! みんなは交番の外ににげるんじゃ!」

 そのスキに、あたしはアリサに手を引かれながら交番からにげた。


 そしてカカオ族の街とクリーム族の街のまん中にある、交番の外。


 交番から、たくさんのディルバーンが飛びたった。

 交番の近くのおかしの家からも、飛行機や魔法使いが飛びたった。

 アリサとあたしも、ディルバーンの後の席にのせてもらって、飛びたった。


 おまわりさんや街のみんながにげたすぐ後に、交番がふっとんだ。


 その中から、白いなにかがあらわれた。

 それは大きかった。

 それは人の形をしていた。

 それは白くて、大きくて、とても大きい、おさとうの巨人だった。


「【さとう】を一度にのんだから、魔法があばれて巨人になったみたいね」

「そんな!? どうすればいいの……?」

 でも、アリサはニヤリと笑った。


「巨人をやっつけるのを手伝ったら、きっと、たくさんお礼がもらえるわね」

 あたしも「アリサったら!」と笑った。

 あたしも巨人をやっつけたかったからだ。

 あたしたちがつかまえた悪者が、あたしたちの目の前で巨人になって、あばれている。そんなのはゆるせない!


「おまわりさん! 宇宙港まで飛ばしてください!」

 あたしたちをのせたディルバーンは、宇宙港へと飛んでいった。


 そしてカピバラ号のところにつくと、すぐさまスクワールⅡにのりこんだ。


 シートにすわって、レバーを動かしてガラスの風よけをしめる。

 運転席のまん中についている大きなモニターを見やる。

 モニターに地図がうつってて、3人組だった巨人の位置がチェックされる。


『エンジンの調子はどう?』

 モニターに、アリサからのテレビ電話がうつる。

「バッチリだよ!」

 あたしは答える。アリサのメンテナンスはいつもカンペキなんだ。


『わたしも、おまわりさんとすぐ行くわ。気をつけてね。ムチャはだめよ!』

「もー、わかってるってば!」

 スクワールⅡは足のエンジンを下向きにふかして空へ飛び上がった。

 そして宇宙港のビルより高くのぼったところで、しっぽのエンジンを全力でふかしてかっとばす。

 交番をふっとばしてあばれる、おさとうの巨人を目ざして!


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