おまわりさんのたのみ
「おまたせしました。こちらがご注文のクリームブリュレになります」
「わーい、おいしそう!」
プリンの服のウェイトレスさんが、カウンターにブリュレの皿をおいた。
カフェのカウンターは、マロンクリームをあみあみにした四角いモンブランだ。
木いちごクリームのカップケーキでできたクッションは大きめで、あたしは足がつかずにブラブラする。
アリサはまっ茶クリームのクッションにすわっている。
カウンターでは、あたしたちのほかにもたくさんの人たちがくつろいでいる。
「昨日のお仕事でたくさんお金が入ったから、いくらでもおかわりできるわよ」
「やったー」
昨日食べたケーキがおいしかったから、今日もカフェで朝ごはんだ。
シバルバーのおかしは、栄養まんてんだ。
だから、この星では、ごはんやおかずのかわりにおかしを食べる。
「いただきまーす」
今日の朝ごはんは、ブリュレっていう焼きプリンだ。
クリームじたてのやわらかプリンの上が、カラメルになってるんだよ。
スプーンでカラメルをパリパリッてくだいて、プリンといっしょに食べる。
プリンはしっとりなめらか、カラメルはカリカリあまくて、ほっぺがおちそう。
「このカラメルがおいしいよね」
「マギー知ってる? カラメルって、おさとうなのよ」
「え? こんなにカリカリなのに?」
「そうよ。プリンの上におさとうをかけて、バーナーで焼くの。そうすると、おさとうがとけて、固まって、カリカリのカラメルになるの」
「あんな白くてサラサラしたおさとうが、こんなカチカチになっちゃうんだね」
あたしは食べかけのブリュレをまじまじと見つめる。おさとうってスゴイ!
でも【キケンなおさとう】はコリゴリだけどね。
そんなことを考えていると、
「あら、テレビで昨日の3人組のことをやってるわね」
アリサがテレビを見ながら言った。
カウンターの後のカベにかかっている、ワッフルのテレビだ。
テレビにはニュースがうつっている。
『昨日、地球人の3人組が、【キケンなさとう】をこっそり売ろうとしたうたがいで、おまわりさんにつかまりました』
プリン族のかわいい服を着たアナウンサーさんが言った。
『クリーム族のおじさんも、3人組から【さとう】を買おうとしたうたがいで、つかまりました』
「ねえ、アリサ。テレビで言ってる『うたがい』って、なに?」
「『かもしれない』ってこと。3人組が本当に【さとう】を売ろうとしてたのかわからないってことよ」
「えっ!? おじさんと待ち合わせてたの、アリサだって見てたでしょ? にげるときに、自分たちも【おさとう】で魔法を使ってたよね?」
「それをみんなに信じてもらうには、あの3人がぜったいに悪いっていう『しょうこ』がいるのよ。カンちがいで悪くない人をつかまえたら大変しょ?」
アリサに言われて、あたしは「そうだよね……」と苦笑いする。
あたしもカンちがいでつかまえられそうになったからだ。
「まあ、【キケンなさとう】が見つかれば『しょうこ』になるわ」
「見つかってないの……?」
「そうみたいね。かくし持ってるのか、にげながらどこかにすてたんだと思うわ。
でも、おまわりさんたちがさがしてるはずだから、そのうち見つかるわよ」
「はやく見つかるといいよね」
そう言いながらテレビを見ると、おじさんがうつった。
てっぺんツルツルで、きたない色のせびろを着た、クリーム族のおじさんだ。
3人組を追いかけるのに集中してて、すっかりわすれてた。
でも、アリサとほかのおまわりさんがつかまえてくれていた。
『アレを使えばカカオ族にまけないくらいすばやくなれるって言われて、ほしくなってしまったんだ』
おじさんは、おどおどした様子で言った。
「ヒドイ! ナワリは【自分を強くする魔法】を使えるように、たくさん練習するんだよ! それなのに、ズルして魔法を使おうとするなんて!」
あたしはプリプリおこった。
「まったく、そのとおりだ!」
カウンターのとなりにいたカカオ族がさけんだ。
「クリーム族はズルいヤツばかりだ!」
別のカカオ族もさけぶ。
テオトル人がテオトル人の悪口を言うのを見て、あたしの耳がしゅんとたれる。
「どうせ、カカオ族にも別のことを言って売ってたんでしょ。『クリーム族みたいにいろんな魔法が使えるようになる』とかなんとか」
アリサはかたをすくめて言った。
すると、反対側のとなりのクリーム族が、
「地球人のおじょうさんは、物事の道理がよくわかってますわ。バカでたんじゅんなどこかの茶色いのとちがってね!」
アリサの味方をした。
おまわりさんが3人組をつかまえるのを手伝ったから、あたしたち2人はちょっと有名人になっていた。
だから、今日は知らない人に話しかけられたり、あいさつをされたりした。
それはうれしいんだけど……
「こちらのかしこいおじょうさんは、わたくしたちの味方ですわ!」
ほかのクリーム族もやってきて、アリサのまわりに集まった。すると、
「だが、こっちの耳の長いおじょうちゃんは、どっかの白いのじゃなくてオレたちの味方みたいだな!」
カカオ族たちは、あたしのまわりに集まった。
「『耳が長いおじょうちゃん』じゃなくて『エルフィン人のおじょうさん』ですわよ! まったくカカオ人はバカですわね!」
「なんだと!」
「なによ!」
陽気で元気いっぱいなカカオ族は、真面目で頭のいいクリーム族と仲が悪くて、ケンカばかりしている。
ちょっとはなれたテーブルで、青い目と金髪のアリア人がかたをすくめた。
ダイヤモンドみたいなアートマンは、コンペイトウをバリバリ食べている。
動物の顔をしたアーク人たちは、ペットのネコと遊んでいる。
みんなテオトル人どうしのケンカに関りたくないし、いつものことなのでなれっこだからだ。
もちろん、あたしたちだって、ケンカなんてしたくないよ。
でも、あたしはカカオ族に、アリサはクリーム族にかつぎ上げられてしまって、どっかに行くこともできない。
「こうなったら、どっちが正しいか勝負だ!」
「のぞむところよ!」
「えーヤダよ。昨日はあんなに走ったんだから、今日はゆっくり遊びたいよ……」
でも、だれもあたしの話を聞いてくれなかった。そのとき、
「おまわりさんはー、セイギの味方だぞうぞうぞう!!」
大声でヘンな歌を歌いながら、テスがやってきた。
後からヘルメスおじいちゃんもついてくる。
ちょっとイヤそうな顔をしているのは、歌がはずかしいからかな?
「おお、いたいた。マギーちゃんに、アリサちゃんじゃあないか」
テスがあたしに声をかけた。
すると、カカオ族とクリーム族のみんなはあたちたちを放して、おまわりさんたちに道を開けた。
さすがはおまわりさん!
「……ここの人たちも、あの2人にカンちがいでつかまったり、なにかこわされたりしたのかしら?」
アリサがボソリと言った。
「ところで今日はなんのご用ですか? 昨日の仕事は終わったはずですが」
「そのことなんじゃが、ちょっと手伝ってもらいたいことができてな……。交番までつき合ってもらえんじゃろうか?」
そう言いながら、おじいちゃんはあたしたちの食べたお金をはらってしまった。
だから、あたしは目をキラキラさせたアリサに引きずられて、交番に行くことになった。
おまわりさんは、街のみんなを守らなくちゃいけない。
だから交番はカカオ族の街とクリーム族の街のまん中にある。
そんな交番に行く道すがら、あたしたちはテスから話を聞いていた。
「ええ!? あの人たちが悪くないことになるって、どういうこと!?」
「いや、だからな……」
テスが言うところによると、3人組は「オレたちは【キケンなおさとう】なんて知らない。おまわりさんがウソをついてるんだ!」って言いだしたらしい。
そして、取引相手のおじさんは、まだ【おさとう】を買っていなかった。
3人組が持っているはずの【おさとう】も見つからない。
だから、ほかのおまわりさんたちも「テスとおじいちゃんが、また悪くない人をつかまえたんじゃないか?」って思い始めたのだ。
「でも、あの人たちは子どもをカタナで切ろうとしたよ?」
「それも、あたしたちが追いかけたせいだって言いだしたんだ」
テスはくやしそうに言った。
「あと、モンテスマ人形にのぼろうとしてたおしたらしいけど、そんなんじゃつかまえられないし、ほんとうにピンチなんだ」
おまわりさんはみんなのお手本にならなきゃいけない。
だから、相手が悪い人だっていう【しょうこ】がないと、つかまえられない。
「でも、あたしは、ウソを言ってるのはあの人たちだと思うな。かっこいいからみんなだまされちゃうのかもしれないけど」
「あたしもそう思うわ。でも、かっこいいとは思えないわ。あのヘンな服も、みょうちくりんな緑色の髪も!」
「アリサ、ひょっとして、あたしの髪の色もヘンに見える?」
「そんなことはないわ。マギーのピンク色の髪は、とってもステキよ」
「そこで、アリサくんの力を借りたいんじゃ」
あたしの髪をなでるアリサに、ヘルメスおじいちゃんは言った。
「機械の左目がビデオカメラになっとるじゃろ? そこに【さとう】がうつってないか、見せてほしいんじゃ」