プロローグ
「まちなさい!」
ネズミみたいなしっぽを生やした飛行機が、おしりを向けて飛んでいく。
あたしは飛行機でネズミをおいかけながら、てっぽうの引き金を引く。
タタタタタッ!
2本の点線みたいにならんだてっぽうのたまが、ネズミめがけて飛んでいく。
でも、ネズミはヒラリと、てっぽうをよけた。
点線は、むなしく星空にすいこまれていく。
そう、星空だ。
暗い、暗い夜のような空が、見わたすかぎり、ずっとずっと広がっている。
上も下も、右も左も、ビーズをちらしたような、たくさんの星が光っている。
あたしと、ネズミの飛行機は、宇宙で追いかけっこをしてるんだ。
「もー!! なんてすばしっこいの!」
あたしは、おこる。
ネズミはからかうように、長細いしっぽをフリフリゆらす。
そして、足みたいな2つのエンジンをふかして、ビューッとスピードをあげた。
ネズミのおしりが小さくなっていく。
あたしは運転席のすみに目をやる。
そこにはられた手配書には、オニみたいな3人の男がかいてある。
目の前の飛行機に乗ってる、指名手配中のおたずね者だ。
「ぜったいに、つかまえちゃうんだから!」
足元のスロットルを引きしぼる。
あたしの飛行機【スクワールⅡ】も、リスのしっぽみたいな大きなエンジンから光の粉をふいてスピードをあげる。
体が後に引っぱられて、シートにおしつけられる。
ビーズみたいな星たちが、風よけの後ろに向かって流れていく。さらに、
「妖精さん、宇宙に満ちる魔力さん、スクワールⅡを後からおして!」
あたしは首からさげたペンダントをにぎりしめて、魔法の呪文を唱える。
ピンク色のリスみたいなスクワールⅡを、魔法の光がキラキラつつみこむ。
スクワールⅡは、もっとスピードをあげる。
ネズミはビックリして2つのエンジンをふかけど、もうスピードはあがらない。
ネズミのおしりがどんどん大きくなる。
「こんどこそ、当てるよ!」
引き金を動かして、てっぽうを当てるための【◎】をおしりに重ねる。
ぜったいにはずさないように、てっぽうの引き金を引く。けど、
カチ、カチ。
「たまがない!?」
わたしはビックリした。
そのすきに、ネズミは目の前をぐるーっと回って、後に回りこんできた。
キュイーン!
ネズミの目からビームがはなたれる。
ビームはスクワールⅡのしっぽをかすめる。
ピンク色のペンキが、ジュッとじょうはつした。
どうしよう!
てっぽうをうてないあたしを、反対にうち落すつもりだ!
あたしはスロットルを引いてスピードをあげて、ネズミからにげる。
でも、ネズミはビームをうちまくりながら追いかけてくる。
どうしよう! どうしよう!!
そのとき、目の前に、大きなカピバラがぬっとあらわれた。
とっても大きいカピバラだ。
ネズミより、スクワールⅡより、ずっと、ずっと大きい。
飛行機を100機集めたくらい大きい。
「うわっ!!」
あわてて足のエンジンを動かして、前に向かってふかす。
カベみたいに大きなカピバラにぶつかる直前に、なんとかスピードをおとして止まることができた。
ネズミの飛行機は、ビックリしてどこかに飛んでいった。
小さくなっていくネズミを見ながら、あたしはぷうっとほおをふくらませる。
おたずね者をつかまえられなかったからだ。そのとき、
『マギー!! だいじょうぶ!?』
テレビ電話のモニターに、長い黒髪の女の子がうつった。
大人っぽくて、とても真面目そうな女の子だ。
この子はアリサ。あたしのパートナーだ。
そして目の前のカピバラは、あたしとアリサの宇宙船【カピバラ号】だ。
「アリサ! たすかったよ!」
『無事でよかった。ハンガーのハッチを開けるから、もどってらっしゃい』
カピバラ号のおなかが開いたから、あたしはスクワールⅡをその中に入れた。
キキキキ、ガチャン。
ハンガーのすみにスクワールⅡをとめて、あたしは運転席からおりる。
あたしの名前はマギー。魔法が得意なエルフィン人の女の子。
【宇宙ドルイド組合】で魔法の勉強をしている、魔法使いのたまごなんだ。
好きなものは、あまいものとかわいいもの。
苦手なものはお勉強。
チャームポイントは、ピンク色のツインテールの髪と、エルフィン人のあかしである横向きにとがった耳。
そのじまんの耳も、今はしゅんとなってたれている。
「ごめんねアリサ。おたずね者ににげられちゃった」
あたしは目の前にいたアリサに、小さな声であやまった。
長い黒髪のアリサは、地球人の女の子だ。
あたしよりお姉さんだから、せが高くてすらりとしている。
それに、ぐんじょう色の大人っぽいワンピースがよくにあっている。
機械いじりと料理が得意なアリサは、機械油とバニラエッセンスがまじったような、ふしぎなにおいがする。
あたしとアリサは宇宙船カピバラ号に乗って、いろいろな星でおこったトラブルをかたづける【なんでも屋】をしてるんだよ。
だから、悪い人をつかまえるのも仕事のうちだ。でも、
「マギーったら、なにやってるの!」
アリサは両手をこしにあてて、プリプリおこった。
「わたしが来なかったら大変なことになってたのよ!」
「えっ!? アリサったら、ひどい!!」
ムッとして言い返す。そりゃ、あたしだって悪かったけど!
「追いかけてるとちゅうで、てっぽうのたまがなくなったんだよ!」
「マギーがてっぽうをうちすぎるから!」
飛行機のメンテナンスは、機械いじりが得意なアリサの仕事だ。
アリサのおかげでスクワールⅡのエンジンはいつも調子がいい。
それに、いつもならてっぽうのたまもいっぱいに入っていて、たくさんうってもだいじょうぶのはずなんだ。だけど、
「……カピバラ号にあるてっぽうのたまは、あれで全部よ」
アリサは、大きな木箱を指さした。
てっぽうのたまが入っている箱だ。
箱の中をのぞきこむと、中身は空っぽだった。
そして、カピバラ号のせなかにあるブリッジ。
「あーあ、もうちょっとだったのになー」
あたしは丸イスにすわったまま、カベにはられた手配書をにらみつける。
手配書には、3人のおたずね者の絵がかいてある。
緑色の長髪をふりみだしたオニみたいな男。
クセ毛をボサボサにしたオニみたいな男。
メガネをかけて、悪魔みたいないやらしい笑みをうかべた小男。
そして、ネズミの形をした飛行機の写真ものっている。
さっき、あたしが追いかけていた飛行機だ。
「しかたないでしょ。てっぽうのたまがなくなったんだから」
あたしの後ろでアリサがブツブツを言う。
「この近くでてっぽうのたまが買えるのは、【シバルバー】かしら……?」
テーブルの上に宇宙地図をうつして、アリサが言った。
あたしはイスを回してふりかえる。
「あ! その星なら知ってるよ!! おかしの国だね?」
「あら。マギーが星の名前をちゃんと覚えてるなんて、めずらしいわね」
アリサがそんなことを言うから、あたしはぷぅと口をとがらせる。
年上のアリサは真面目で頭もいい。
でも、そうやってすぐあたしをばかにするのは止めてほしい。でも、
「ククルの店なら安く買えるし、ついでにほかのものも買っていきましょうか」
アリサがそう言ってニッコリ笑ったので、あたしもつられて笑った。
そして宇宙地図をのぞきこむ。
そこには、宇宙にうかぶ大きな大きなシュークリームがうつっていた。
これが、おかしの星【シバルバー】。
おいしそうなのは見た目だけじゃない。
街にはクッキーの家がならんでいて、住んでいる人はプリンの服を着ているの。
それに、ごはんのかわりにあまーいパフェやケーキを食べるんだよ。
おかしづくしの星だ。
シバルバーには、パーツ屋さんの友だちが住んでいる。
アリサはそこでてっぽうのたまを買うつもりなんだ。
安く売ってもらったら、あまったお金でおかしを食べれるかな?
「それに、そろそろチョコレート祭りの季節ね。ついでに見ていきましょう」
アリサが言った。
「ひょっとしたら、伝説の【パーフェクト・パフェ】もあるかもしれないわ」
「わーい」
あたしは飛び上がってよろこぶ。
ピンと横にのびた耳が、ひょこひょことゆれた。
「パーフェクト・パフェなんて、まだ食べたことないや! ゴージャスでおいしそう! ほかにもたくさん食べたいよね。ケーキに、プリンに、クレープも食べたいな」
「いちばんの目的は、てっぽうのたまを買いに行くことよ。わすれないでね」
「はいはい。わかってるよーだ」
あたしはアリサに生返事を返して、どんなおかしを食べようかとニコニコ笑う。
アリサは「やれやれ」とかたをすくめて、
「それじゃ、シバルバーにレッツゴー!!」
ブリッジのすみにある運転席に行って、ボタンをおした。
カピバラ号は、おかしの星に向かって飛んでいった。