表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

プロローグ

「まちなさい!」

 ネズミみたいなしっぽを生やした飛行機が、おしりを向けて飛んでいく。

 あたしは飛行機でネズミをおいかけながら、てっぽうの引き金を引く。


 タタタタタッ!


 2本の点線みたいにならんだてっぽうのたまが、ネズミめがけて飛んでいく。

 でも、ネズミはヒラリと、てっぽうをよけた。

 点線は、むなしく星空にすいこまれていく。


 そう、星空だ。

 暗い、暗い夜のような空が、見わたすかぎり、ずっとずっと広がっている。

 上も下も、右も左も、ビーズをちらしたような、たくさんの星が光っている。

 あたしと、ネズミの飛行機は、宇宙で追いかけっこをしてるんだ。


「もー!! なんてすばしっこいの!」

 あたしは、おこる。


 ネズミはからかうように、長細いしっぽをフリフリゆらす。

 そして、足みたいな2つのエンジンをふかして、ビューッとスピードをあげた。

 ネズミのおしりが小さくなっていく。


 あたしは運転席のすみに目をやる。

 そこにはられた手配書には、オニみたいな3人の男がかいてある。

 目の前の飛行機に乗ってる、指名手配中のおたずね者だ。


「ぜったいに、つかまえちゃうんだから!」

 足元のスロットルを引きしぼる。


 あたしの飛行機【スクワールⅡ】も、リスのしっぽみたいな大きなエンジンから光の粉をふいてスピードをあげる。

 体が後に引っぱられて、シートにおしつけられる。

 ビーズみたいな星たちが、風よけの後ろに向かって流れていく。さらに、


「妖精さん、宇宙に満ちる魔力さん、スクワールⅡを後からおして!」

 あたしは首からさげたペンダントをにぎりしめて、魔法の呪文を唱える。


 ピンク色のリスみたいなスクワールⅡを、魔法の光がキラキラつつみこむ。

 スクワールⅡは、もっとスピードをあげる。


 ネズミはビックリして2つのエンジンをふかけど、もうスピードはあがらない。

 ネズミのおしりがどんどん大きくなる。


「こんどこそ、当てるよ!」

 引き金を動かして、てっぽうを当てるための【◎】をおしりに重ねる。

 ぜったいにはずさないように、てっぽうの引き金を引く。けど、


 カチ、カチ。


「たまがない!?」

 わたしはビックリした。


 そのすきに、ネズミは目の前をぐるーっと回って、後に回りこんできた。


 キュイーン!


 ネズミの目からビームがはなたれる。

 ビームはスクワールⅡのしっぽをかすめる。

 ピンク色のペンキが、ジュッとじょうはつした。


 どうしよう!

 てっぽうをうてないあたしを、反対にうち落すつもりだ!


 あたしはスロットルを引いてスピードをあげて、ネズミからにげる。

 でも、ネズミはビームをうちまくりながら追いかけてくる。


 どうしよう! どうしよう!!


 そのとき、目の前に、大きなカピバラがぬっとあらわれた。

 とっても大きいカピバラだ。

 ネズミより、スクワールⅡより、ずっと、ずっと大きい。

 飛行機を100機集めたくらい大きい。


「うわっ!!」

 あわてて足のエンジンを動かして、前に向かってふかす。

 カベみたいに大きなカピバラにぶつかる直前に、なんとかスピードをおとして止まることができた。

 ネズミの飛行機は、ビックリしてどこかに飛んでいった。


 小さくなっていくネズミを見ながら、あたしはぷうっとほおをふくらませる。

 おたずね者をつかまえられなかったからだ。そのとき、


『マギー!! だいじょうぶ!?』

 テレビ電話のモニターに、長い黒髪の女の子がうつった。

 大人っぽくて、とても真面目そうな女の子だ。

 この子はアリサ。あたしのパートナーだ。

 そして目の前のカピバラは、あたしとアリサの宇宙船【カピバラ号】だ。


「アリサ! たすかったよ!」

『無事でよかった。ハンガーのハッチを開けるから、もどってらっしゃい』

 カピバラ号のおなかが開いたから、あたしはスクワールⅡをその中に入れた。


 キキキキ、ガチャン。


 ハンガーのすみにスクワールⅡをとめて、あたしは運転席からおりる。


 あたしの名前はマギー。魔法が得意なエルフィン人の女の子。

 【宇宙ドルイド組合】で魔法の勉強をしている、魔法使いのたまごなんだ。

 好きなものは、あまいものとかわいいもの。

 苦手なものはお勉強。

 チャームポイントは、ピンク色のツインテールの髪と、エルフィン人のあかしである横向きにとがった耳。

 そのじまんの耳も、今はしゅんとなってたれている。


「ごめんねアリサ。おたずね者ににげられちゃった」

 あたしは目の前にいたアリサに、小さな声であやまった。


 長い黒髪のアリサは、地球人の女の子だ。

 あたしよりお姉さんだから、せが高くてすらりとしている。

 それに、ぐんじょう色の大人っぽいワンピースがよくにあっている。

 機械いじりと料理が得意なアリサは、機械油とバニラエッセンスがまじったような、ふしぎなにおいがする。


 あたしとアリサは宇宙船カピバラ号に乗って、いろいろな星でおこったトラブルをかたづける【なんでも屋】をしてるんだよ。

 だから、悪い人をつかまえるのも仕事のうちだ。でも、


「マギーったら、なにやってるの!」

 アリサは両手をこしにあてて、プリプリおこった。

「わたしが来なかったら大変なことになってたのよ!」

「えっ!? アリサったら、ひどい!!」

 ムッとして言い返す。そりゃ、あたしだって悪かったけど!


「追いかけてるとちゅうで、てっぽうのたまがなくなったんだよ!」

「マギーがてっぽうをうちすぎるから!」

 飛行機のメンテナンスは、機械いじりが得意なアリサの仕事だ。

 アリサのおかげでスクワールⅡのエンジンはいつも調子がいい。

 それに、いつもならてっぽうのたまもいっぱいに入っていて、たくさんうってもだいじょうぶのはずなんだ。だけど、


「……カピバラ号にあるてっぽうのたまは、あれで全部よ」

 アリサは、大きな木箱を指さした。

 てっぽうのたまが入っている箱だ。

 箱の中をのぞきこむと、中身は空っぽだった。


 そして、カピバラ号のせなかにあるブリッジ。


「あーあ、もうちょっとだったのになー」

 あたしは丸イスにすわったまま、カベにはられた手配書をにらみつける。


 手配書には、3人のおたずね者の絵がかいてある。

 緑色の長髪をふりみだしたオニみたいな男。

 クセ毛をボサボサにしたオニみたいな男。

 メガネをかけて、悪魔みたいないやらしい笑みをうかべた小男。


 そして、ネズミの形をした飛行機の写真ものっている。

 さっき、あたしが追いかけていた飛行機だ。


「しかたないでしょ。てっぽうのたまがなくなったんだから」

 あたしの後ろでアリサがブツブツを言う。


「この近くでてっぽうのたまが買えるのは、【シバルバー】かしら……?」

 テーブルの上に宇宙地図をうつして、アリサが言った。

 あたしはイスを回してふりかえる。


「あ! その星なら知ってるよ!! おかしの国だね?」

「あら。マギーが星の名前をちゃんと覚えてるなんて、めずらしいわね」

 アリサがそんなことを言うから、あたしはぷぅと口をとがらせる。

 年上のアリサは真面目で頭もいい。

 でも、そうやってすぐあたしをばかにするのは止めてほしい。でも、


「ククルの店なら安く買えるし、ついでにほかのものも買っていきましょうか」

 アリサがそう言ってニッコリ笑ったので、あたしもつられて笑った。


 そして宇宙地図をのぞきこむ。


 そこには、宇宙にうかぶ大きな大きなシュークリームがうつっていた。

 これが、おかしの星【シバルバー】。

 おいしそうなのは見た目だけじゃない。

 街にはクッキーの家がならんでいて、住んでいる人はプリンの服を着ているの。

 それに、ごはんのかわりにあまーいパフェやケーキを食べるんだよ。

 おかしづくしの星だ。


 シバルバーには、パーツ屋さんの友だちが住んでいる。

 アリサはそこでてっぽうのたまを買うつもりなんだ。

 安く売ってもらったら、あまったお金でおかしを食べれるかな?


「それに、そろそろチョコレート祭りの季節ね。ついでに見ていきましょう」

 アリサが言った。

「ひょっとしたら、伝説の【パーフェクト・パフェ】もあるかもしれないわ」

「わーい」

 あたしは飛び上がってよろこぶ。

 ピンと横にのびた耳が、ひょこひょことゆれた。


「パーフェクト・パフェなんて、まだ食べたことないや! ゴージャスでおいしそう! ほかにもたくさん食べたいよね。ケーキに、プリンに、クレープも食べたいな」

「いちばんの目的は、てっぽうのたまを買いに行くことよ。わすれないでね」

「はいはい。わかってるよーだ」

 あたしはアリサに生返事を返して、どんなおかしを食べようかとニコニコ笑う。

 アリサは「やれやれ」とかたをすくめて、


「それじゃ、シバルバーにレッツゴー!!」

 ブリッジのすみにある運転席に行って、ボタンをおした。

 カピバラ号は、おかしの星に向かって飛んでいった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ