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思春期

今日から衣替えだ。

この体系にとって、暑苦しいあの上着から開放されるのはとても嬉しい。

そう言えば、あの中間テストで驚いたのだけれど、

紺野君は学年トップになっていた。

気になる僕の成績は・・・60人中12位だった。

田中と熊井は勉強してなかったせいか、やはり最下位近辺に居た。

あいつら夏季訓練決定だな。


学校に入ると、夏服に変わった生徒達で賑わっていた。

やっぱり白いシャツは清潔感があっていいな。


教室に入ると、紺野君が既に席に座っていた。

「おはよー」

僕は手をあげながら入室。

周りから「オハヨー、おはようー、オッス」と元気の無い声がこだましてくる。

やっぱり野郎だらけの教室はこんなもんかな?


僕は紺野君の所へ駆け寄ると、借りていたCDを手渡した。

「はい、これ。中々良かったよ。」

「え、もういいの?」

「ちゃんとMP3に落としといたから大丈夫。」

「MP3ってなに?」

先日、彼からカミングアウトを聞いた時、小学校の頃イジメがあって

直ぐにフランスに行ったって聞いていた僕は

「あっそうか、海外生活が長かったから情報遅れてたんだっけ。」


プレーヤーを取り出して彼に見せてみた。

「へぇ、こんなのがあるんだ。知らなかったよ。」

たぶん、彼のハイテクな情報はまだ、平成初期なのかもしれない・・・。


「今度バイトで給料貰ったら、新しいの買ってあげるよ。」

「えー、本当?嬉しいなぁ」

ニコニコと満面の笑みを浮かべるその姿は実に微笑ましい。

最近はこの笑顔を見る為に学校へ来てる感じがする。


実は僕、中学の頃から朝は自転車で新聞配達をしている。

ダイエットの為に始めたんだけど、あまり効果無し。

その代わり、そこそこの給料を貰えるので小遣いが少なくて困るというのが無い。

でも、親から小遣いをもらってないので、バイトを辞めたらどうなるのか

とても不安ではある。


今日の体育はプールの掃除だ。

毎年、この季節になると一年生が掃除担当なのだそうだ。


僕達は夏用の半袖半パンに着替える。

今日は珍しく、紺野君も着替えている。

僕はその姿にしばし見とれていた。


『・・・なんて綺麗なんだろう・・・』

穢れの無い、透き通るような白い肌にしばし見惚れる。

確実に女の子に間違えられても不思議ではない。


「仲原君、なに人の着替え見てるの?」

あ。バレた。

彼は顔を赤らめつつ、恥ずかしそうにしている。

「いやぁ、実に貴重な物を拝見させてもらいました。」

彼の、猫の肉球のようなパンチをお腹にお見舞いされる。

「拝観料千円ねっ。」

と、手の平を差し出す。

「冗談だよー」

彼はくるっと身軽な体を捻らせて教室を飛び出して行く。


本当に彼は子猫みたいで可愛い。

さて、僕も行かないと先生に怒られちゃうな。


プールは既に水が抜かれ、一年間で溜まったであろうゴミが散乱していた。

体力の有る者は、プール内のゴミ拾いと長い柄の付いたプラシでプールを掃除する。

体力の無い者は、ゴミを運んだり、プールの周りの雑草を取ったりしている。


真面目にする者は皆無なんだけど、

先生の目があるので、みんなそれなりに掃除をしている。

ある程度綺麗になった所で、10センチ程水が溜められ、

僕達力自慢は思いっきり水を壁面に当てて掃除する。

『はぁ、草取り組の方が良かったなぁ』


最後にみんな上に這い上がり、綺麗に水が張られていく。

次第に水面が波打ち、キラキラと日の光が反射し始める。


さっき教室で見た、紺野君の体もそんな感じだったかな。


『穢れの無い体』


別に厭らしい感情は無い、彼が許すならちょっとだけ触ってみたいと思った。

まぁ結局は怒られるんだろうけどね。


「おーい、仲原ー」

熊井が大きな声で僕を呼ぶ。


「なんだよ大声で、ちゃんと聞こえてるって。」

熊井は少し首を傾げた

「あれっ、さっきから何度もお前の事呼んだんだぞ。」

「あ、ああ。ごめん。考え事してたんだよ。」

「考え事〜、お前悩むような性格と体型じゃないだろ?」

言われる事は、強ち間違ってはいない。

「ところで何の用だよ。」

熊井は申し訳なさそうな顔であるジェスチャーをする。

「それ、なんの真似だよ。どじょうすくいか?」

「鈍感だなぁ、草取りした雑草を焼却炉に持って行って欲しいんだ。」

「なんで僕なんだよ。」

「これ持ってみろって、土が付いてるから結構重いんだよ。」

「しょうがないなぁー」

僕は山盛りに積まれた大きなリヤカーを引っ張りながら

焼却炉のある場所へと向かった。


道中、紺野君のあの姿が頭から離れなかった。

『なんなんだ?別に欲求不満って訳じゃないのに・・・』


途中、紺野君が走ってやって来た。


「おいおい、走って大丈夫なのか?」

「ちょ、ちょっとだけなら大丈夫だよ。」

完全に息を切らしている。

「無理しちゃダメだよ。何かあったら僕が怒られるんだから。」

「ごめん、ごめん。もう大丈夫。」

前かがみになって息つきながら、髪を揺らす姿はまるで女子高生みたいだ。


焼却炉に着いた僕達は、草を乾燥させる倉庫にそれを流し込んだ。

「ふぅーっ、終わったー」

僕は汗だくになっていた。

リヤカーをあるべき場所に戻し、プールへと向かう。


「疲れたでしょ?」

紺野君が僕の疲労困憊した顔を見て心配している。

「疲れたってもんじゃないよ。あれだけプールでゴシゴシした後にあの荷物だよ?」


三歩先を両腕を後ろに組んだ紺野君が歩く。


ふと、彼の腰に目が行ってしまう。

体は凄く疲れているのに、なぜか無性に彼を抱きたいという衝動に駆られる。

『いかん、いかん、なんでこんな時にそんな事思うんだ?』

自分の中で訳の判らない葛藤が始まる。


やっとの思いで葛藤との戦いを終え、プールへと到着。

紺野君は着替えがあるからと、先に教室へと戻って行った。

プール掃除組の僕達は、先生の許可をもらいシャワールームで汗だくになった体を洗う。

上から滴り落ちてくる冷たい水を勢い良く顔に当てる。


頭の中はなぜか紺野君の体でいっぱいになる。

すると体全体が萎縮した感じになり、

お腹から下から電気でも走ったかのような衝撃があった。


「ウッ・・・」


下半身が脈打つ感覚と共に、快感が体を走った。

『・・・とても気持ちいい・・・』

僕はこの時初めて紺野君に対して欲情し、生まれて初めて精通した。


ふと我に返り、例え頭の中であってもあの紺野君に対して欲情した事に

汚らわしさと罪悪感で頭の中が満たされてくる。


「ぃったい僕は何を考えてるんだ・・・」


シャワーを終えた僕は着替えを済ませ、教室へと向かった。

教室へ戻ると紺野君は隣の席の生徒とお喋りをしている所だった。

僕に気づいた彼は向き直り、

「お帰り、シャワーどうだった?」


僕は彼の顔をまともに見れなかった。


『ボクハオマエニヨクジョウシ、アタマノナカデミダラナコトヲシタンダゾ』


「ああ・・・、汗流したらスッキリしたよ。」

僕は変な罪悪感に苛まれながら、席へと着いた。

お昼休みは疲れもあって、席で熟睡していた。

シャワーで精通するという精神的なショックと、

彼に欲情したというダブルショックで、立ち直るのに時間を要した。


午後の授業はなんとか持ち応えたけど、紺野君の顔が未だに直視出来ないでいた。


「おい、仲原。な か は らッ」

背中をポンッと叩かれる感触で我に返る。

田中と熊井だった。

「お前、プール掃除からおかしいぞ。」

「あー、疲れたんだよ。」

僕は何とか悟られまいと必死になっていた。

「これからファミレスで涼んで、コミケの計画立てようと思ってるんだけど

 一緒に来ないか?」

コミケ・・・そうか、もうそんな季節なんだな。

すっかり忘れていた。

「チケットもう取ったんだし、どう巡るか計画しとかないと

 お目当てのグッズが取れなくなるぞ?」

田中は勉強そっちのけでその事しか頭に無いらしい。

「今日は勘弁してくれ、帰って寝たい。その話なら明日にしてよ。」

僕がテコでも動かないと悟った彼らは

ブツブツと文句を言いながら教室を出て行った。


周りを見渡すと、教室は僕一人になっていた。


さて、帰ろう・・・。


玄関の下駄箱まで来た時、僕の靴箱の横で紺野君が立っていた。

「あれ、先に帰ったと思ってたよ。」

相変わらず直視出来ない。

「なんで僕の目見てくれないの?あれから全然かまってくれないじゃない。」

まるで機嫌を損ねた女子高生みたいで、不謹慎にも笑いが込み上げる。

「プッ、一瞬JKかと思った。」

「コラッ、それ失礼だよ。」

と言いつつ、彼も笑い始める。


「ごめん、今日はいろいろあり過ぎて疲れたんだよ。」

「怪しいなぁ。正直に言わないと一週間口聞いてやんないの刑だからね。」



『ボクハオマエニヨクジョウシタンダゾ』



あんなこと言える訳ないじゃないか・・・。


彼の顔を見た瞬間、またあの感情が蘇ってきた。

ああ、やめてくれ、僕に近づかないでくれ・・・


「何も無いよ、ほんと。本当に疲れただけだって。」

「じゃあ、帰ったらちゃんと休んでね。」

「うん、判ってるって。」

「僕はこれから病院へ行くから、夜にでも電話するね。」

「病院って、まだ何かあるの?」

「大丈夫、薬を取りに行くだけだよ。」

「うん、了解。夜なら大丈夫だと思うよ。」

彼は病院ヘ向かうバス亭へと向かって行った。


『今日の僕はどうかしてるな・・・』


部屋に帰った僕はベッドに倒れ込んだ。

どれだけ寝てたんだろう。

携帯電話の鳴る音で目が覚めた。

「・・・もしもし、」

「あ、ごめんなさい。起こしちゃったかな?」

紺野君からだ。

「大丈夫、さっき目が覚めた所だよ。」

「あのね、夏休みは一緒に海に行ってみたいなぁ。」

「そっかー、海かぁ、みんなで行くのも悪くないな。」

「えー、二人きりじゃないのー?」

「おいおい、二人はマズイだろ。あいつら連れて行かなかったら二学期は文句タラタラだよ?」

「そうだね。じゃあ計画立ててみんなでキャンプとかするっていうのもいいよね!」

「キャンプか、いいねぇ。よし、明日お昼に話してみよう。」

「うん。一緒に思い出作ろうね。」

「あはは、なんか照れるなぁ。でもあいつらと一緒だったら変な意味で思い出に残るかもね。

 あ。でもちょっと待て、紺野君泳ぐ気なの?」

「泳ぐなんて無理だよ、みんなの前で水着姿になれる訳ないじゃない。」

「それはそうだ。バレたら大変な事になるよね。」

「じゃあ、決まりだね。仲原君も今日は疲れたと思うから、ゆっくり休んでね。」

「ありがとう、飯食ったら大人しく寝るよ。」

「じゃ、おやすみー」

「おやすみー、また明日ね。」


僕は彼が受話器を置くと同時に電話を切った。


今日は顔を見なかったらちゃんと話せたのにな・・・


やっぱり僕は変だ・・・。


僕は食事をしに階下へと降りていった。


感想を頂けると、作者は小動物の様に喜びます。

また、連載の励みともなりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

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