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カミングアウト

やっと長かった三日間のテスト期間が終わった。

あの日から、紺野君と『あの事』についてはお互い一切触れる事は無かった。

しかし、僕が彼を見る目線は少し変わったような気がする。

彼の表情や行動がとても気になるのだ。

他の生徒と話しているのを見ると、なぜか嫉妬心にも似た感情がしたり

一緒に話している時は、なぜか嬉しくなったり。


女の子が好きな男の子を見る目っていうのは、

たぶんこんな感じなのかもしれないな・・・。


うーん。僕はこのままでいいんだろうか?

あれは本当に事故で、これは一時の感情に過ぎないのではないのか?

あの時、彼が言った


『もう少し・・・、こうしていてくれないかな』


あの言葉の意味は、本意はなんだったのだろう。

自分の都合の良い様にしか解釈出来ない。

でも、直接彼に聞くのはなんだか恥ずかしい。

教室に居る時は、彼はいつもの様に接してくれるし、

なんだか変わりは無いように見える。

ひょっとしたら僕の思い違い?勘違いなのかもしれない。


『えーい、考えても埒があかない!

 思い切って聞いてみるか!』


僕は放課後、思い切って彼に声を掛けた。


「紺野君ごめん、ちょっといいかな?」

彼は直ぐにやって来た。

「今日は一緒に帰らないかい?」

ニコッと微笑むと、彼は鞄を取りに戻ってきた。


「やっと、テストが終わったねー。」

彼の方から話しかけて来た。


「そ、そうだね。結果が心配だけどね。」


それからの道中は他愛も無い会話を交わしながら、歩いていた。

中々切り出すタイミングが難しい・・・

割と小心者なんだったという自分が歯がゆい。


なんとか僕の家に来てもらえるように話を持っていく事が出来た。

嗚呼、疲れる・・・。

彼はまた僕の家に来れるというので、小動物の様に喜んでいる。

家に到着し、タイミング良く今日は母親が趣味の会合で居ない事を確認すると、

一緒に部屋へと向かった。


「ごめん、ちょっとお茶持ってくるから、楽にしてて。」


僕は台所で紅茶を煎れる準備をしながら、茶菓子になるような物を物色する。


「おっ、あったあった。」


老舗の煎餅屋さんのお菓子発見。

お湯が沸き、それぞれを御盆に乗せて階段を昇っていく。


「お帰りー」


僕が到着するのと同時に部屋のドアが開いた。

「サンキュー」


そして暫くの間、テレビゲームで対戦してから束の間の休憩をとった。

僕は中々言い出すタイミングが無いので、凄く焦っていた。

ふと、彼はティーカップを置くと彼の方から切り出した。


「先日はごめんね。お母さんに見られて大変だったでしょ?」

ちょうど彼の方から切り出してくれたので、ホッとする。

「いや、コケそうになってたのを庇ったって言ったら素直に納得してくれたよ。」

「そうなんだ、でも良かったね。」

「まぁ良かったのは良かったんだけどね。アハハ・・・」

僕は頭を掻きながら照れ笑いするしかない。

「今日は居ないから大丈夫だね。毎回コケる度に母親に見られたらたまらないよ。」

ふと彼の表情を見る。

なぜか真剣な表情になっている。

「紺野君、どうしたの?」

僕は何か不味い事でも言ったと思い、慌ててフォローする。

「ごめん、僕。何か変な事言っちゃったかな?」


すると彼は真面目な顔で答えた。

「・・・変な事言ってないよ。この間、変な事したのは僕なんだから」

うっ、気まずい。

なんて話したらいいんだ・・・

僕の心臓は早鐘の様に鳴り響いている。

こんな緊張した空気は心臓に悪い。この空気をなんとかしなくちゃ・・・


「仲原君は僕の事、怒ってる?」


「い、いや、全然怒ってなんかないよ。ほんと。」

極度の緊張の為か、声が裏返ってしまう。


「仲原君は僕の事・・・、どう思ってる?」


彼のほうから聞いてくるとは予想もしていなかった。

「ど、ど、どうおもってるもなにも、アハハ・・・」

声がまともに出ない。だめだ、まともに喋れない。

どうすればいいんだ?

なんて答えればいいんだ?


突然、ベッドに腰掛けていた僕の右隣に彼が座ってきた。

いかん、だめだ、

すでに僕の思考回路は完全にショート寸前だった。


すると彼は静かに話し出した。


「僕の病気の事、まだ話してなかったよね?・・・」


急に訪れたシリアスな展開に思わず片唾を飲んだ。


「そ、そうだね。僕は貧血か何かかと思ってたんだけど。」


「驚かないで聞いて欲しいんだけど・・・、聞いてくれるかな?」


「うん、判った。でも『余命幾ばくか』、なんて話は無しだよ。」


「アハハハ、そんな事ないよ。」

彼はいつもの笑顔でおどけて見せた。

それを見た僕は少し気持ちが落ち着いた気分になった。


「それじゃ、話よりこっちで説明した方が早いよね。」

彼はスッと立ち上がると、上着を脱ぎ始めた。


「ちょ、ちょっと紺野君、何してんの?」


「いいから、そのまま見てれば判るよ。」

僕は彼の一言で制止させられる。


肌着の状態から、一気に脱いだ彼の胸には、なぜかサラシが巻かれていた。

彼のその透き通るような白い肌に驚く。


彼は後ろに手を廻すと、胸に巻いたサラシを取り始めた。

そして、最後の一枚を胸に当てた状態になると、念を押すように僕に話す。


「恥ずかしいけど、絶対に目を逸らさないでね。」


彼は残された一枚を取り除いた。


「え!?、・・・・・・」


そこには、男の子には無いモノが胸にあった。

いや、女の子にあるべきモノがそこにあった、と言うほうが正しいかもしれない。


僕は吃驚(びっくり)すると言うより、

見てはいけないモノを見てしまったような罪悪感を覚えた。


その二つの隆起したものは、明らかに女性の乳房であり、およそ男には有り得ないモノだ。


「おどろかせちゃった・・・かな?」

彼は恥ずかしそうに、こちらを見ている。


「いや、驚くとかの前にこっちが恥ずかしくなっちゃうよ!」

彼の目には、僕の顔がトマトの様に赤くなっている姿が映ってるに違いない。

僕のは心臓は早鐘のように鳴っている。

寿命が少し縮まったかもしれない。


彼はもう一度サラシを手に取ると、胸に巻き始めた。

そして、まるで人事の様に話し始めた。


「僕は半陰陽(はんいんよう)、『はんおんよう』とも言うんだけど、

 簡単に言うと、男と女ふたつの性を持った体なんだよ。

 僕が生まれた時には、男の子と認識出来るくらいのモノがあったから

 そのまま『男』として戸籍に登録されたんだけれど、

 でも、時が経つにつれて体は女の子になっていったんだ。

 体育の授業に参加しないのは、別に体が弱いとかそんなことではないんだけど・・・

 着替えの時って、誰かに見られる事があるからね、

 病弱を装うしか方法が無かったんだ・・・。


 子供の頃、自分でも良く判らなかったんだけどね。

 五年生の時に胸が大きくなり始めて、気が付いたんだ。

 その時みんなに気付かれてね。それで結構苛められたりしたんだよ。」


サラシを元の様に巻き終えると同時に、彼からの「カミングアウト」が終わる。


「僕は仲原君が信用出来る人だと思ったから、全てを話そうって思ったんだ。

 これで友達解消されても仕方が無いと思ってる。」


彼の顔は、いつになく真剣な表情に変わっていた。


今まで女の子と接した事の無い僕は、彼の姿を目の当たりにして頭の中が混乱していた。

どう話せばいいのか、正直判らない・・・

でも、こんな事で友達解消なんてのは有り得ないよな・・・。

むしろ理解してあげる事が先決なんじゃないか?

前回、この場で起きた『事件』以来、彼の事が気にかかっているのは自分も認めるとしても

彼を女の子として見ればいいのか、男の子として見ればいいのか・・・


暫く考え込んでしまった僕に気付いたのか、彼は補足する様に言葉を僕に投げ掛ける。


「体は女の子に近いかも知れないけれど、僕は僕だって思ってる。

 心はまだどっちなのか自分でも正直判らない。

 今まで通りに接して欲しいと思うのは僕の我侭(わがまま)かもしれない。

 ただ、こんなの僕の体を理解してくれる友達が欲しかった・・・それだけなんだ・・・」


彼は目に涙を浮かべ、俯き(うつむき)加減に僕の隣へ腰掛ける。


そして・・・僕は一つの結論に達した。

ここで彼を受け入れなかったら、傷つけてしまう。


「僕は今見た事を他の生徒達には絶対に話さないし、

 君を見下すような事は決してしない。約束する。

 それから、君の秘密を知ったからって、僕は今まで通り何も変わらないよ。」


僕はそっと彼の肩を叩いてあげた。


「ありがとう・・・

 本当は仲原君にずっと隠し事してるのがとても辛かったんだ。

 でも、今日言えて良かったと思ってる。」


彼は僕の方を向くと、あの笑顔を見せてくれた。

またもドキッとする自分に焦る。

なぜか体が女の子だって言うことにホッとしたような、妙な安心感があった。

この時、彼を女の子として見てしまっている自分が居た。



ご意見をお待ちしています。

メッセージを頂くと小動物のように喜びます。

また、続編への意欲が増しますので、

どうぞ宜しくお願いいたします。

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