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コドウ

午後の短いホームルームが終わり、みんな帰宅の途に着いていく。

今日また、あの二名に部屋に来られるのは本意では無いので、

一人そそくさと帰り支度をして教室を出る。


しかし、調度廊下に出た所で紺野君の声に呼び止められた。

「仲原君、ごめん。ちょっと」

「ん?紺野君、呼んだ?」

僕は振り向きつつ、彼の方に向き直る。


「急いでる所ごめんね。実はお願いがあるんだけど・・・

 これから仲原君の家に行ってもいいかな?」


僕は少し考える。


うーん。あの二人よりは静かになるのは間違い無い。

というか、彼とプライベートで逢うのは初めてじゃないか?

彼は頭良さそうだし、もしかしたら勉強教えて貰えるかも?


僕はそんな邪な思いを抱きつつ、彼の願いを了承した。


帰り道、話していると彼が意外と近くに住んでる事が判った。

プライベートな事は今まで殆ど話した事が無かったので、

ある意味貴重な情報を得る事が出来た。

そして、家に着く頃には既に勉強の事などどうでも良くなっていた。

というか、彼と遊ぶ事しか考えていなかった。

自宅に着き、母親に友達が来た事を伝えると、自室へと彼を案内する。


僕は暑苦しい上着を脱ぎ、彼にも促して衣文掛けを渡す。


「へぇ、いろんな可愛い玩具(おもちゃ)が置いてあるんだね。」


「あのー、これらはオモチャには間違いないんですけどー

 これはフィギュアっていう物でしてー。」

彼は普通の人だから知らないのは当たり前と一人納得する。


「あ、そうなんだ。テレビで良く見かけたなぁって思ったんだ。」

流石一般人。無理に僕の趣味を享受してもらおうとは思わない。


「無理やり押しかけてごめんね。」

彼はもじもじしながら部屋の周りを見渡している。

僕は小さなちゃぶ台を出して、彼に座るように促した。

しかし、立ち位置が悪かったのか、彼は体勢を崩した。


「あっ!危ないっ!」


僕は咄嗟に彼を抱き抱えるようにして、傍のベッドへと倒れ込んだ。

僕が上になるように倒れ、気付くと彼の顔がとても近くにあった。


「ご、ご、ごめん!大丈夫?」

僕は突然の出来事に焦った。

彼の顔を見ると顔を真っ赤にしながらも、優しい笑みを浮かべていた。

そして、こう呟いた。(つぶやいた)


「お願い、もう少し・・・、こうしていてくれないかな・・・」


彼から離れようとする僕のツャツの脇を軽く引きながら

彼は離れるのを拒んだ。


僕の心臓はなぜかバクバクと鼓動している。

あの時、入学した日、

彼を見た時に感じた胸の奥がキュンとなる感覚が感じられた。


『なんなんだ・・・この感覚は・・・』


たしかに彼は女の子らしい感じはある。

入学式に初めて彼を見た時、ドキッとした気持ちもまんざら嘘じゃない。


彼の髪から漂う心地良い香りが、僕の顔の周りを包む。


暫くして、彼の腕が僕の体を捕らえる。

僕が彼を抱きとめるという感じから、

逆に彼が僕に抱きつくという感じが正しいかもしれない。

さながら彼氏が彼女を労わるかの様な・・・


彼の顔に目を移す。

目を瞑り、僕に抱きついたその表情は、

まるで天使のように幸せそうな笑顔に変わっていた。

時折、強く抱きしめるように彼の腕に力が入る。


今まで女の子と付き合った事も無ければ、まともに話した事も無い、

ましてや、初恋なんてものもした事も無い僕は、

彼に、ある種の感情が芽生えた様な錯覚を覚えた。


『・・・まさか彼に、なんだろうこの感情は・・・』


自分が少し信じられなかった。


でも、僕の中で一瞬ではあるけれど、

彼が男であるとか、女じゃないとか、

そんな事はどうでもいいという感じがした。



どれくらい時間が経っただろう・・・



お互い何も話さず、何も交わさず

静かな時間が過ぎていく・・・。


しかし、


もう一人の冷静な自分が囁き(ささやき)、静寂を打ち破る。


『このシチュエーションを親に見られたら不味い。もの凄く不味い。』


と思ったが早いか、ドアが開き母親が茶菓子を持って入って来た。


「・・・。」


「あらあら、お母さん御邪魔しちゃったかしらぁ・・・

 お茶、ココに置いておくわねぇ。」


母親はそう言うと、静かに階下へと降りていった。

彼はそんな空気を悟ったのか、僕から離れる。

「ご、ごめんなさい!! 僕こんなつもりじゃ」


母親に見られたのは仕方無いとして、彼を責める理由は見当たらない。

なぜなら、原因は『事故』だったのだから。


「あははは、母親が・・・なんか誤解しちゃったみたいだね。」


お互い、離れると急に照れくさくなった。


それからは、先ほどまでの出来事を振り払うかのように、


一緒に明日のテスト勉強について教え合った。


帰り際、

お互いどういう感情だったのか、どういう風に思ったのか

確認する間も無く、僕は彼の後ろ姿を見送った。


部屋に戻り、入浴の準備をしてお風呂場へと向かう。

さっと体を洗い、湯船に体を預けた。


あの部屋での出来事が、頭の中でリフレインしている。


『彼に、男に対してあんな感情をもってしまうなんて・・・

 僕は普通じゃないのかな・・・』


僕はザブンッと頭まで一気に浸かった。


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