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ハジマリ

今日は入学式に相応しい快晴だ。

先日まで小学生だった僕は、この私立成城(せいじょう)中学に入学する。

僕。仲原卓也はこれからの中学生活に期待を膨らませつつ、桜並木の校門を抜けた。

中学の頃からメタボな体系だけど、そんな事は気にしない。

周りから見れば、かなり愛嬌があるらしいので。持ち前の明るさと

人当たりの良さ(と言うか、世渡り上手?)で乗り切るつもりだ。

ちなみにこの学校は中学には珍しく、

県内優良の企業が経営するエリート男子校だから、当然ここには女の子は居ない。


教室に入ると、そこは既に汗臭い体育会系の野郎だらけだった。

やはり男連中だと教室内は騒々しい。

僕は黒板に張ってある席順を参考に、僕の定位置を示す席へと向かう。

(やっぱり男ばかりだと汗で教室にカビが生えそうだよなぁ・・・)

僕の席は左側窓側の前から3番目だ。

周囲の生徒はスポーツか何かしてたのだろう、髪型は坊主かスポーツ刈だ。

そんな中、右斜め前に座ってる比較的背の低い生徒が居た。

明らかに周りの生徒達とは雰囲気が違った。彼は文庫本サイズの様な

小説らしい本を読んでいた。髪は少し長めで、やけに色白だ。

(変った生徒だなぁ・・・)


これが彼、紺野和美(こんのかずみ)との出逢いだった。

入学式が終わり、僕達は教室へと戻るとお約束のホームルームとなり、

左側から一人一人、教卓に立って自己紹介が始まった。

(あぁ、めんどくさいなぁ・・・)

僕に順番が廻ると、自分の体系を揶揄(やゆ)して自虐的に紹介をする。

教室内はドッと笑いで溢れ返り、自分でも好印象を与えたんじゃないかと思う。

(まぁ、これからの学校生活の為、印象は良くしておかないとね)


そして、あの紺野和美に順番が廻ってきた。

彼はスッと席を立つと、髪を両耳に掻き分けながら教卓へと向かった。

彼が教卓に立った瞬間、教室内がざわつき始めた。

先生の「静かにしろ!!」の合図で教室内は再びシーンと静かになる。

なぜ、みんなが騒がしくなったのか?

その理由は・・・

彼の大きな瞳。子顔な丸っこい輪郭に赤く口紅を付けたかのような唇。

緊張の為か少し赤らめた頬、はにかむ姿は『女の子』そのものだったからだ。

驚きだった。

正しく(まさしく)、美少年とも言うべきその顔立ちにみんなびっくりしていた。


「初めまして、僕は紺野和美と言います。この学校に入る前は病気で

 長い間入院していたので、殆ど友達とか出来ませんでした。

 だからこの機会に色々な人と仲良くなりたいと思っています。

 みんな宜しく。」


彼は一礼すると、席へと戻って来た。

席に戻る時に僕と一瞬目が合ったように感じ、少し微笑んでくれた様な気がした・・・。


その日の学校はお昼で終わり、みんなそれぞれ帰宅の途について行った。

僕はその日知り合った友達2人と、『親睦会』へ行こうとしていた。

そして、あの紺野和美も帰ろうとしている所だった。

僕は挨拶代わりに彼を誘ってみようと声を掛ける。

「ねえ、紺野君。僕達これから親睦会と言う名の『お茶会』に行くん

だけど、一緒にどうかな?」


彼は手で頭を掻きながら少し困った様な顔をして、こう言った。

「仲原クン、ありがとう。

 でもごめんね。これから病院に行かなくちゃならないんだ。」

また、その彼の仕草になぜかドキッとさせられる。


自分で言うのもなんだけど、女の子の前でだじろぐ感じに似ていた。

「ああ、そうなんだ。でもこれから病院って何処か具合でも悪いの?」

僕はそう言って、直ぐに聞いてはいけない事を聞いたようにな気がして少し焦った。

「・・・今は大した事は無いんだけど、今まで貧血が酷かったから

 今日はそのお薬を取りに行かないといけないんだ。」

彼は申し分け無さそうにそう言うと、鞄を持って教室を出て行った。

(貧血?・・・良く判んないけど何か事情があるみたいだな・・・)

僕はその後『お茶会』を行うべく、友達と近くのファミレスへ向かった。

ファミレスでは既に同じ事を考えてたと思われる学生集団が何組かあった。

この街はそんなに都会ではないので、お喋りする場所と言えば

ファミレスか、中規模くらいのショッピングセンターくらいしかない。

当然、カラオケなんて言う娯楽施設も無い。

端的に言うと、「市」なのにその人口は2万人にも達していない街だ。

僕はカフェオレ3つを頼むと、いかにもオタク風な彼らとお喋りに興じる。

別に隠す事は無いんだけど僕たち3人は、無類のアニメオタクという共通点で

構成されている。類は共を呼ぶとは言うが、正にこの事を言うのだろう。

「やっぱり女の子は二次元だよね〜、○○最高!!○○俺の嫁〜!!」

と言ってる彼は僕によく似た体型でメガネの熊井君。

普通に一般人が聞くと『きもい』んだろうけど、そんな事は割愛する。

自分の世界にどっぷり浸かってるところを見ると、かなりの筋金入りだな。

「ここからメイドカフェに行くには電車を乗り継ぎ、2時間掛けないと

 行けないとは、悲しいよね〜」

この無類のアニメ好きは田中君。柔道をしてた割には妙にデレデレしている。

僕は次の土日にオタクグッズやコミックを扱うショップへ行こうと思っていたので、

彼らを誘ってみる事にした。

「所でさぁ、せっかくだから今度の週末にショップに行かないか?」

「おぉ〜、ショップかぁ。」

ショップと言って通じる所がオタクらしい。

「いいなぁ、それ。ついでにメイドカフェにも行ってみたいよな。」

田中君はどうやらそっち系がお好みらしい・・・

「じゃあ、土曜日に待ち合わせして行こうよ。」

「さんせ〜い。」

僕達はその後、自分達が所有しているコレクションについて語り合うのであった。


◆友達◆

今日の二時限目は体育だ。でも、あの紺野和美は見学だった。

(やっぱり何かの病気なのかな?ちょっと気になるなぁ)

体育は昔から苦手だ。

なんであんなに一生懸命走らなきゃならないんだ。

自分のメタボな体系をちょっぴり悔やむ。

僕はあの自己紹介の一件以来、クラスのムードメーカー的な存在になっていた。

もちろんお陰様で友達も増えた。

しかし、紺野和美だけはなぜか誰とも打ち解けられないようで

休憩時間や昼食時は1人で居る事が多かった。

「少し可愛そうな奴だな・・・・・・」

授業が終わると、僕は纏わりつく野郎共から逃げるようにして

紺野和美の所へと向かった。

僕はスタンドを勢い良く駆け上がったおかげで、息が切れ切れになった・・・

「・・・ハァハァ・・・紺野君、教室・・・戻ろうよ」

彼はそんな僕を見て笑った。

「あハハ、仲原君。授業であんなに走ったのに、

 無茶してスタンド駆け上がるからだよ」

ん?なんで知ってんの?

あ、そうか。スタンドから見てたんだっけ?


「僕。体育は苦手なんだよねー、このカモシカの様な足には堪える(こたえる)よ。」

僕は短パン姿の大根足を指差しながら彼と笑いあった。

教室へ戻る間、彼の体調の事や、中々友達が出来ない愚痴?を聞くことが出来た。

「仲原君はいいなぁ。元気そうで、すごく羨ましいよ。」

彼は少し俯き加減(うつむきかげん)にそう言うと、

自分の胸を擦るような仕草をした。

僕は言葉を一つ一つ選びながらこう応えた。

「個人的に何か事情があるんだとは思うけど、僕はそれを聞いたからって

 気にしたりしないし、無理に聞こうとは思わないから安心していいよ。」

すると彼はニコッと微笑むと静かに話始めた。

「僕は小さい頃から体が弱くって、中学の頃はほとんど病院で過ごしてたんだ。

 どんな病気なのかは今は言えないけれど、あと少しで治るって病院の先生が

 言ってたから。たぶん大丈夫。

 友達が出来ないのは内向的な自分が悪いんだって思ってるし。」

彼はそう話すと申し訳なさそうな顔をした。

「そんな事は無いと思うよ? 何も恐れる事なんてないし、

 本当はみんな君と話たがってるんだよ?」

彼は少し驚いた様な顔をした。

「でも、僕にはその勇気が無いんだ・・・・・・。」

「大丈夫だって、こうして僕と話てるじゃない。だったら

 まずは僕が最初の友達になるからさ!!」

そう言いながら、彼の肩をポンッと叩いた。

すると、あの入学式の時見せた微笑を返してきた。

それを見た僕は一瞬、ドキッとする。

「ありがとう、実は僕も仲原君と友達になりたかったんだ。」

「うん、これからの三年間。宜しく!!」

僕達は、教室に戻る長いようで短い5分間を、お喋りで楽しんだ。


教室に戻ると早速着替えに入る。

彼のあの微笑む顔が脳裏を過ぎる・・・

上着を脱ぎ、上半身裸になった僕は、ちらっと彼の方を見た。

一瞬目が合うと、彼はハッとしたような顔でクルッと教壇に向きを変えた。

「あれっ?なんで目を逸らしたんだろ?」

なんでかなぁと思いつつ、僕は着替えを済ます。

暫くして、オタク衆が教室に戻って来た。


「おいおい〜、仲原く〜ん。なんで先に戻って着替えてんの〜」

田中が背筋をスーッとなぞりながらジャレてくる。

「ヒェーーッ、田中。ヤメローッ」

僕は振り向き様に斜め45度チョップを彼に見舞った。

彼はサッとそれを交わす。

僕と同じくメタボな癖に俊敏な奴だ。

「おまいら、いちいちちょっかい出すなーっ!!」

相変わらずこいつらには参る・・・・・・。


お昼休みになると、みんな仲の良い者達で席を囲い、

それぞれの弁当箱を広げあう

というか、お互いのおかずを奪い合う。

僕はいつも1人で弁当を食べている紺野和美の所へと向かった。

「紺野君、こっちにおいでよ。一緒に弁当食べよ。」

彼は少し困ったような顔をしたものの、僕の強引な呼びかけに根気負けしたようだった。

そして、その光景は周りから見ても異様だった。

僕。田中君。熊井君。紺野君。

三人のメタボな野郎に囲まれた席にポツンと少女っぽいのが一人。

なぜか、呼んでもない野郎が一人、二人と椅子を持ってきて中に加わる。

「おまい達、なんで入って来るんだよ。」

「仲原ク〜ン、いいじゃないか〜。こういう時間こそ親睦を深める時じゃないか?」

どうみてもみんなこの機会を伺ってたとしか思えん。

実は紺野君と仲良くなりたいと思ってるのはみんな同じなのだ。

ただ、紺野君の纏う(まとう)そのオーラに、みんな圧倒されて近付けなかっただけ。

『フッ、小心者達め』

気が付けば、五人増えとる・・・・・・。

仕方ないので、お互いの弁当を広げて獲物を奪い合う。

可愛そうに、紺野君の弁当はご飯だけになっている。

「おいおい、おまいら!!紺野君のおかずを取るなー!!」

でも、彼はニコニコと微笑んでいた。

「明日はもうちょっと大きいお弁当箱にした方がいいかな?」

それを見た僕は、自分の残っていた出汁巻き玉子を彼の弁当箱へと入れる。

「仲原クン、ありがとう。頂くね。」

彼は嬉しそうな顔をしながら出汁巻き玉子を頬張る。

そんな彼の表情を見てると、こっちまで嬉しくなってくる。

よし、明日はおかずを多めにしてもらおう・・・・・・。

お昼休みが終わるまでの間、みんなで騒ぎつつお弁当を突付き合った。

紺野君は終始笑顔だった。

こういう時間は本当に楽しい。

彼もやっとみんなと打ち解けたようで、ホッとする。


感想を頂けると、作者は小動物の様に喜びます。

また、連載の励みともなりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

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