世紀の・・・
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強烈な蹴りによって受け身をとることすら出来ずに通路を転がる船長。
「ぐはっ・・・ハァ・・・・ハァ・・・」
3度目の蹴りを喰らいながらも船長は給湯室を探していた。
さっきあべ君ロボットと出会ったあの給湯室である。
『あそこなら勝機が残されてるはず・・・』
口からはポタポタと血が溢れ、全身の関節という関節が軋む。
ロボットの動きを見張りながら周囲を探る。
通路の左手のガラス窓に、2mほど後方で電燈の付いた給湯室の入り口が反射しているのが見えた!
『エーコ、急いでくれ!!』
そう願わずにいられないほどのダメージを受けているにも関わらず、船長はスックと立ち上がり、あべ君顔のロボットに話しかける。
「かぁ~~っ、ぺっ!!へんっ!お前の動きは見切ったぜ!嘘と思うならもう一度蹴りを入れて見な!」
口の中の血を吐きだすとニヤニヤしながら挑発する。
ロボットと言えども攻撃動作に入る瞬間には必ず兆候が表れる。
ただ、それが人間のそれとは速さが違うだけである。
船長は3度の蹴りに堪えながら、その兆候の出現速度に慣れようとしていたのだった。
通常、人間の感覚は『対数感覚』と言われる。
それまでに経験の無いものでも感覚的に捉えることで状況に即応できるのだ。
太古の昔から人類が獲得してきた、生き残るための生まれつきの能力らしい。
特に動体視力が飛び抜けて良い者からすれば、スピードに慣れることなど造作もないことであった。
ロボットとの距離は約4m。
ロケットのような速さで駆けつけて来て、そのままの勢いで正面蹴りを放つのがこれまで3回の攻撃パターンである。
あまりの速さに面喰ったが直線的な攻撃パターンであることに船長は気が付いたのだ。
『最も効率的に片づけようってか?舐めてやがる!』
しかしスピードさえ見切れてしまえば反撃も可能なのだ。
「宣言してやる!俺も蹴りで勝負するぜ!なんたって今の俺は世紀の・・・」
船長の名乗りが終わらないうちにロボットに『一瞬の兆候』が現れた!
船長はほんの僅かに体の中心を左にずらし、右からの上段回し蹴りの構えに入る。
速すぎるくらいのタイミングで蹴り始めたが、ロボットの正面蹴りは船長の右太もも下を掠め、逆に船長の右足はロボットの左側頭部にミッシリと食い込んだのだった。
「・・・メタボからなぁ~!!」
突進の勢いを側頭部への蹴りによる回転で分散したが、幾ら太ったとはいえ、100kg近い重量のロボットの勢いは止まらず、船長を巻き込むようにして転がり倒れた。
咄嗟に回転受け身をしながら後方の給湯室へ飛び込む船長。
ロボットは一瞬、ショートするかと思われたが、すぐに立ち上がった。
給湯室の壁にもたれ掛り、肩で息をする船長の前に立ちはだかると、最後のトドメのための準備に入る。
一度躱された攻撃パターンを踏襲するのか別の攻撃にするのか再計算していたのだ。
距離は2m。
もう船長からの蹴りは通用しない距離だった。
わずか数秒の睨み合いは船長にとって永遠のように感じられていた。
『これまでか?!』
諦めが湧き起こりかけたその時、轟音とともにビルが大きく揺れたのだった!!
ロボットは不意を突かれ咄嗟にバランスを取ろうと身じろぐ。
「よ~し・・・こっからが本番だぜぇ!!」
不敵な笑みを溢す船長に無表情で応えるあべ顔ロボットであった。
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「ぅわぁ~地震だぁ!!」
本物のあべ君は咄嗟に、両手で頭を抱えしゃがみ込む。
「遂に来ましたか!」
首相は目を輝かせて歓声に近い調子で叫ぶ。
「今度はどうするんだ?」
田螺丸は興味津々でモニターからこちらの様子を窺っている。
彼の頭脳を以ってしても予測不可能なことばかりで、久しぶりに興奮していたのだ。
「そろそろ出番だよ、男前!」
お末があべ君を促す。
恐る恐る立ち上がるあべ君は、久しぶりに闘志に燃えていた。
甲子園を賭けた「あの」試合以来、実に10数年ぶりであった。
「よし!今度は僕が助ける番だ!」
右手でぎゅっと握り拳を作り、ゆっくりと扉へ向かうのだった。
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「いててて・・・おい、みんな大丈夫かぁ?」
操縦室の壁に逆さまのまま皆の姿を追うお頭。
ついにAIヤッホービルに『到着』したのだった。
「・・・あいたたた・・・お前ら、もうちょっとマシな方法は無かったんか?」
母ちゃんが腰を摩りながら操縦室の隅から這い出して来る。
「すみません。一体化するには建物の中に宇宙船が入る必要があったんです。はっ!!一体化ボタン押さないと!!」
エーコは急いでハンドル下の黄色いボタンを押した。
ビル全体に『ニナール理論』が適用される光のバリアーが広がる。
「これでよしっと!」
満足げなエーコ。
「ところでここからはどうするの?」
作戦を全て聞かされていない母ちゃんは、当然の質問をした。
「いよいよゴーマイウェイ作戦の大詰めです!!」
晴れやかな笑顔で悦に入るエーコ。
「いや、具体的にはどうするんかえ?」
自信満々のエーコに逆に心配になって来る母ちゃん。
「とりあえず女将さんは石川青果+号に戻って座敷でテレビを見ててください!テレビにはこちらの状況が映し出されるようにしてますから!女将さん出番が来たら知らせますから!!」
テキパキと説明するエーコを見ながら母ちゃんは聞こえないように呟いた。
「・・・じゃあ、ここまでもそうしてたら良かったんやねぇか?」




