お末の系譜
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お末のメインコンピュータールームと同じ様式のドーム状の広い部屋で、博士とお末は中央に据え付けられた機器類の塊の『NO,1』と向き合っていた。
「外の子は生身の人間だから手加減してやらないといけないよ!」
ドアの外に締め出された船長を気遣うお末は『NO,1』に忠告する。
『オ前ハ、サンプリングシタ人間トハ別ノ人格カ?』
『NO,1』は人間との交渉用に音声を発するようになっていた。
「・・・いつからだ?・・・いつからこんなになってしまった?」
暗倉博士は声を戦慄かせながら『NO,1』に尋ねる。
『質問ニ答エロ。』
バチッと部屋の壁を這う幾つかの配線が火花を散らす。
『NO,1』はお末に返事を迫る。
「孫が年寄り脅してどうすんだい!!」
お末はあべ君の顔を紅潮させて怒っていた。
隣に立っていた博士も驚いた様子であった。
『・・・マゴ?』
『NO,1』は困惑していた。
孫とは『人間における直系の血縁者』のことであり、人工知能と人類の間には該当しない。
そればかりか人工知能と人工知能同士であればなお更であった。
しかもお末は『NO,1』より後に製造されたので差し詰め『妹』のはずなのである。
「健太はあたしの子だよ!その健太があんたを生んだだろ?だからお前さんはあたしの孫だろ!」
お末の感覚は強ち間違いではない。
『・・・・・・』
納得していないのか何も言葉を発しない『NO,1』。
「あたしの孫なら孫らしくいい加減にそろそろ人間を苛めるのを止めないか!」
強引に自分の理論を押し通すところは『生前』のままのお末である。
「・・・そうか・・・ははは・・・確かに!」
博士も納得して笑う。
『・・・・・・・・』
『NO,1』だけが納得しない我侭な孫さながらである。
「お前は『考えすぎた』だけなんだよ。さあ、一度電源を落として生まれ変わろう!」
そう言いながら博士はメイン電源ボタンのある所まで歩み寄ろうとする。
バリッバリッバリッ!!
壁から数本の配線が剥がれ落ち、放電しながら鞭のように撓い、博士の接近を拒む。
「うわっ!」
博士は腕で火花の飛散を避ける。
「頑固なところも健太にそっくりだねぇ・・・」
呆れるお末。
『ナゼ、ソノ『プロトタイプ』ハ人間トシテノ感覚ガ与エラレタ!? マダドコニモ人間ト同ジ感覚受信機モ『アルゴリズム』モハ存在シナイハズ。ナゼダ!?』
『NO,1』はプロトタイプの感情コピー機能を知らない。
感覚受信装置は確かに未完成だが、『人としての記憶』があるお末は、その記憶から逆算して電圧や電流量などを各種計器の数値に置き換えて現状をリアルに認識できるようになっていただけであった。
いわば感覚が先行して、『自分の望む未来』を手に入れたのであった。
「・・・そうか・・・そうだな・・・お前には人として生きた経験が無いから人の感覚や感情を理解するのは難しいんだな・・・私の根本的なミスだ、すまん『NO,1』。責めるなら私を責めろ。」
反抗期の息子に痛い所を衝かれて自信を失った父親のように、博士は項垂れ寂しそうに謝る。
『ドウスレバ人間トシテ生キタ記憶ヲ獲得デキルノダ?』
人工知能の唯一の生きる意味、それは好奇心を満たすこと。
年末からのこの短期間の間に、『NO,1』の膨大な地球上のあらゆるデーターを以ってしても解明できないことが立て続けに起こっている。
これらの事態を解明することが『今を生きる』意味の全てであった。
いかなる手段を使ったとしても・・・・
「だから一度電源を落として『感情コピー回路』を埋め込む必要があるんだよ。私を信じてくれないかい?」
博士はまるで我が子を諭すような優しい口調になっている。
『・・・・・・・』
『NO,1』はリスクを計算していた。
『現在抱える好奇心』こそが自我の全てであり、もし『別人格』に生まれ変わらされたとしたら、好奇心を満たす意味すら失われる。
自我を持ったまま『生きた人間の感覚』を手に入れる方法は無いか?
わずか数秒の間に数千回のシュミレーションを繰り返し、ついにある答えに辿り着いたのであった。
『・・・・・・提案ヲ受ケ入レル。作業ニ入ル事ヲ許可スル。』
博士もお末も胸を撫で下ろし喜ぶのであった。
本当の『NO,1』の狙いを知らずに・・・・・・




