勇気ある降参
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原田さんは必死に銅線を手元に手繰り寄せている。
一体何が原因で銅線が切れたのか知りたいのだ。
ゴロゴロゴロ~~・・・
遠くで雷が鳴り始めた。
「くそ~~っ!!もうちょっとだったのに!!」
悔しがる小平師匠と小野先生。
「ど、どうなっちゃうんですか僕ら?」
敢えて言葉にしたが、僕以外の皆も同じことを感じていたに違いない。
「もしもの時は降参して連行されるようにって船長は言ってたけどぉ・・・」
タク君が呟く。
本当は誰一人降参なんかしたくはないのだ。
地元の海を破壊されたのだから、出来ればここでAIロボットたちに大打撃を与えてやりたかったはずである。
皆は言葉も無く雨に濡れ、立ち尽くすばかりである。
そうしてる間にもロボットたちは壁を這い上がり、屋上まで数mの所に来ていた。
囮部隊はリーダー小平さんから次の指示が無いか見つめるが、当のリーダーも膝を付き頭を垂れじっとしたまま動かない。
その向こうでは原田さんだけが、納得がいかないのか、いつまでも銅線を必死に手繰り寄せている。
雨とは別に生暖かい水が僕の頬を伝うのを感じた。
悔しいのだ。
ただひたすら、悔しくて悔しくて堪らない。
故郷を汚され、仲間を連れ去られたのに、一矢を報いることすら出来なかった。
僕はそれでも嗚咽を噛み殺して、泣いていることを誰にもバレない様にしていた。
幸い雨が涙を隠してくれてる。
だが、雨音に混ざって微かに、しゃくる様な小さな声が漏れ聞こえてきた。
皆も俯いたまま必死に堪え泣きしていたのだった。
「このままじゃあ気が済まん!!」
羽田さんがそう呟くとポケットからライターを取り出し、上着を脱ぎ始めた。
「ど、どうするつもりですか!?」
流石にこの後の展開に予測が付いたのか温厚な古澤さんが聞いた。
「服に火をつけて奴らに投げてやるに決まってるでしょ!」
もう頭に血が上ってしまっている羽田さんを止められる人は居なかった。
皆もせめてもの最後の抵抗だと言わんばかりに上着を脱ぎ始める。
服の塊に最後の胡麻油をかける羽田さん。
しかしなかなか火は点かない。
「くっそ~~っ!!これくらい・・・これくらいやり返したっていいじゃねぇかよっ!!」
何度も何度もライターをこするが雨に濡れたせいか、火は点かなかった。
屋上の手すりについにロボットの手が掛かる音がした。
「ここまでか・・・」
笹川さんも静かに諦めた。
「みなさん、どうせ降参なんだからせめて最後くらい人間らしく自分から投降しましょうか!」
いつの間にか原田さんがみんなの背後に立っていた。
「さあ、立って。奴らに宣言してやりましょう。これから降りてゆくから下で待て!ってね。」
優しく微笑む原田さんに、みんなも従うことにしたようだった。
しかし、いつの間にか羽田さんは一人で柵に近づき、柵を乗り越えようとしていた一番乗りのロボットを蹴り倒し、突き落としてしまった!
「お前ら~!慌てるな!今から降りて行ってやるから下で待ってろ!!人間様に触れるんじゃねぇ~~っ!!」
これが羽田さん流の一矢だったのかもしれなかった。
ロボットたちは意味を理解したのか、這い上がる動作をピタリと止めた。
僕たちは屋上扉を開け、ゆっくりと学校の階段を降り始めるのだった。
「学校の廊下ってこんな狭かったですかねぇ・・・」
伊東さんが懐かしそうに呟く。
窓の外には山のように重なり合う大勢の「あべ君顔」のロボットたちが僕らを見ている。
やがて山は氷解するように崩れてゆき、僕らが正面玄関前に辿り着いた時には、校庭にズラリとあべ君ロボットたちが立ち並んでいた。
ドアの鍵を回しながら、僕は、なんでドアを壊して入って来なかったんだろうとふと思った。
恐らく、僕らが一切の軍事的行為を仕掛けなかったので出来るだけ現状保存で目的を達成するようにアルゴリズムが判断を下したのだろうと考えた。
「みなさん、勇気ある降参です。決して恥ずかしいことではありません。」
原田さんは噛み締めるようにそう言うと口を固く結んだ。
今になって本当に諦めたような表情に微かな違和感を覚えたが、きっと気のせいだと思った。
原田さんがそのまま静かに扉を開け始めた。
ピカッ!!
一瞬辺りが真っ白になった!?
ドッカーーーーーーーンッ!!
間髪居れずに物凄い轟音と衝撃が校舎に走る。
僕たちは下駄箱のところまで吹き飛ばされていた。
しばらくの間、何が起こったのか分からず、誰も動けなかった。
「か、かみなり・・・ですか??」
なべさんがゆっくりと床から立ち上がりながら誰に聞くとはなく呟いた。
「間に合った~~~~!!!ひゃっほ~~~っ!!」
原田さんが歓喜の雄たけびを上げる。
「え?何がどうなったの??だって凧は・・・」
小平さんも訳が分からずキョトンとしている。
原田さん一人が舞踊る。
「いや~、最後の一個の『ブヨブヨ』がポケットに残ってたんで、天灯作ったんですよ!」
嬉しくて堪らない原田さんは手短に説明してくれた。
タイという国の伝統で、天灯を空に飛ばす習慣があるということ。
それを真似て銅線とライターで黒いブヨブヨを気球代わりにして銅線をつなげたまま空に放ったこと。
ロボットに気づかれないために彼らの視線を自分たちに集めるように敢えて降参したふりをしたこと。
それであんなに必死に銅線の端っこを手繰り寄せていたんだと納得の行く僕。
「あんな時に良くそんなこと思いつきましたね!?」
感心しきりに小野先生が賞賛の言葉を投げる。
「いやぁ、偶然だったんですよ。前の年に僕たち夫婦でタイに旅行に行ってコムロイを見てたんですよ!」
本当に偶然かもしれないが、そんな些細な記憶を元に機転を利かせた原田さんには皆も感動すら覚えたのだった。
校庭のロボットたちからは白や黒の煙が立ち昇り、身動きする者は一体も無かった。
周囲にはゴムが焦げたような異臭が立ち込めていたが、やがてそれも雨が押し流してくれるだろう。
「まずはサンダーボルト作戦完了!!」
小平師匠が締める。
「オ~~~~~~~~~ッ!!」
皆は拳を突き上げ勝利の雄たけびを上げのだった。




