再会
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「あの~、誰か居ませんかぁ?」
これは決してデジャビュではない。
データ抽出用の手術椅子に縛り付けられている『身代わりのあべ君』が、『普通に』反応しているだけである。
本人はまだ自分が『すり替わり』であることを知らずに、人間らしく振舞っているのである。
ガチャガチャッ
両手両足首と胸を太い金属のアームがロックして身動きが取れない。
「僕はどうしてここに居るんだ?はっ!!セミナーの途中から記憶が無い!」
そのように記憶を修正されているだけである。
「ぼ、僕はどうなってしまうんだ??はっ!!な、なんだこのロボットの残骸は!!」
いちいち本人と同じリアクションなのは仕方がない。
「やばいよ、絶対このままじゃヤバイ気がする。もう一度全力でこのロックが外れないか試してみよう!」
前向きなところも本人譲り。
バキッ・・バキバキバキッ!!
物凄い音と共に金属のアームがいとも簡単に壊れて外れた。
さすがにロボットである。
「あれ?僕って実は怪力だったの?」
自己肯定力の凄さも本人譲りであった。
電源が入っていない大量のロボットの残骸を部屋に残し、あべ君は恐る恐る通路に出て行く。
背広をきちんと着こなし、背筋をピンと伸ばし、いつものように颯爽と歩き出す。
「確か僕は優勝して・・・そうだ!僕のコピーロボットを貰える話になってたんだ!!」
『全て』を思い出したあべ君は、通路の両側の部屋を覗きながら事情を知る関係者を探す。
「この階はどうなってるんですか?まるで迷路だなあ・・・」
少し心細くなりつつある繊細な「あべ君」。
ふと目を上げると向こうの通路の交差点から誰かがこちらへ向かってやって来る。
実は彼は、極度の近視と乱視のため、コンタクトレンズ無しでは人の区別も出来ないほどなのだった。
どこかぎこちない歩き方で近寄って来るのは、背広を着た若者のように見えるが、顔がはっきり見えない。
『じろじろ見ても失礼だしなあ・・・』
その服装の色合いにはどこか見覚えがあるものの、今時のビジネスマンなら誰でも着ている無難な色合いでもあった。
不自然なまでに真っ直ぐ前を向き、一定の速度を意識して歩いている。
あべ君は直感した。
『そっか!AIロボットの会社内なんだからAIロボットが普通に働いてて当たり前なんだ!!』
そう気がついた時にはもうAIロボットは通り過ぎていた。
振り返り先ほどのロボットを見ると少し早歩きになった気がする。
そして次の角を曲がると突然駆け足の音が聞こえてくる。
「何?何が起こったんだ?ちょっと待ってぇ!!」
慌ててあべ君も走り出した。
先ほどの角を曲がった時、給湯室らしき所へ入ってゆく足先がわずかに見えた。
「なあんだ、人間だったんだぁ!じゃなきゃあお茶なんて必要ないしな!」
ホッとしたあべ君の足取りは軽やかになった。
一方、給湯室内で待ち構える船長は、入り口のすぐ横に体を沿わせ、「あべ君」が入って来たら一気に蹴りで片を付けるつもりである。
徐々に近づく足音に呼吸を整え、全身の力が右足先に集中するよう、構えを取る。
3・・2・・後一歩!
その時、床に誰かが溢していた水で、足音の主は気持ち良い位ツルリッと滑り転んでしまった。
ドシーーーーンッ!!
物凄い重量感のある音を立てて転ぶあべ君。
「あいたたたた・・・恥ずかしいぃ~~・・・」
そう呟きながら腰を摩り、ゆっくりと立ち上がろうとする。
そんな彼を見下ろすように誰かが目の前に立ちふさがっている。
「あたた・・・お恥ずかしいところを見られちゃいまし・・・」
いくら弩級の近眼でも顔の前に自分の顔があれば驚くはずである。
あまりの驚きに口をパクパクさせるあべ君に同じ顔の「あべ君」は、肩に手を乗せてきた。
「大丈夫か?!俺だよ!」
男はそう言いながら首の根っこに指を入れ、グイッと『顔を脱ぐ』。
そこには懐かしい(?)髭面の船長の顔があった。
「せ、船長~~???なんでここに??」
彼からすれば久しぶりの有給休暇を取ってみたら、わざわざセミナー会場に船長が自分のお面を被って来ていた訳だから驚くのも無理は無い。
「お前、金庫番だよな?」
疑わしい目つきであべ君を品定めする船長に、頷くあべ君。
「ど、どうしたんですか?船長もセミナー受けに来てたんですか?!」
今までの経過を考えると、まだ1月1日で頭の中が止まっている「あべ君」は、船長からすれば『怪しさマックス』である。
あべ君は立ち上がり、船長に向かって何か言おうとしたが、口から音声が出なくなった。
パクパクと口を動かしてはいるが何も聞こえてこない。
本人はその事にまるで気づいていない様子。
すると次の瞬間、何かに取り付かれた霊媒師のように表情がカタンと落ちた。
「やあ、ようやく来たんだね?」
声はまるで老婆のものである。
船長はやはりAIロボット、それもプロタイプと呼ばれる感情コピー型のニューモデルであると確信した。
咄嗟に距離を空け、得意技の上段回し蹴りがいつでも出来るよう重心移動をした。
「安心しな。あたしゃ平和主義者だよ。それより皆が待ってるから付いてきな。」
あべ君の顔なのに声は老婆。
その「老婆なあべ君」が通路を先にたって歩いてゆく。
何とも奇妙な状況ではあるが、船長には声の主がなぜか信頼するに足る人物に思われたのだった。




