『見えない世界』
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エーコは間違ってお客が乗船しないように、船内のあちこちにセットされた『転送デッキチェアー』の電源を切って回っていた。
そして最後の椅子の電源を切ろうとした時、椅子が急に光り始めた。
「あ~!誰ですかねぇ、こんな時に!?」
光が納まると、そこには小柄な老女が座っていた。
「やあ、エーコちゃん、久しぶりやのぉ!」
石川青果号の母ちゃんは年々丸くなる背中を伸ばしながらエーコに声をかける。
「あ、女将さん!どうしたんですか、こんな時間に!?」
いつもなら昼頃までには船長に用事を言いつけに洗濯船の方に遊びに来るのだが、この日は既に19時を過ぎていた。
「ケンタロックスの奴が見つからんけん、DVDを借りて来て貰えんのじゃぁ。どこ行ったんかのぅ。」
困った様子ではあるが息子同然の船長が怪我をしたまま失踪中とは、さすがに空気が読めないエーコでも喋ってはいけないと思った。
「さあ見てませんね。でも怪我したり拉致されたりはしてないと思いますんで大丈夫ですよ!」
意識しないように気を付けるほど丸ごと情報を漏らしてしまうのは単に『おバカ』なだけである。
「ん?ケンタロックスん奴は怪我して拉致されたんか!?」
エーコの癖を知っている母ちゃんはすぐに悟ったようだ。
珍しく慌てている母ちゃんを前に、またヤラカシタと気づいたエーコは、諦めたようにポツポツと今までの経緯を話し始めた。
「・・・そんな事になっちょんとは・・・あん奴は一言も俺には言わんかったぞ・・・」
少し寂しそうに、しばし考え込んでいた母ちゃんが重い口を開いた。
「それは女将さんを心配させないためだと思います。」
言うまでも無いことを敢えて口にするのがエーコ流。
「それで、あいつは生きちょるんか?」
母ちゃんはエーコの目を見て質問をする。
こうされると全く嘘が付けなくなるエーコの癖を逆手に取った行為であった。
「多分死んでは無いと思います。頑丈なだけが取り柄ですから船長は。」
母ちゃんを心配させまいと、何とか船長を持ち上げたつもりだがどこかバカにしているようにも聞こえて来る。
「・・・そうか・・・そうやのぅ・・あんやたぁ、頑丈やけんのぅ・・・親父が守ってくれちょんやろうしな・・・」
何とか納得しようと自分に言い聞かせるような母ちゃんに、さすがのエーコも心がチクチクと痛むのであった。
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「ハックソンッ!!」
病院のベッドの上で大きなクシャミをする船長は、クシャミの衝撃で怪我した部分に激痛が走った。
「いたたたたた~~~っ!!生身の年寄相手に本気で殴りやがってからにぃ~~~!!」
トレードマークのいつもの日本手ぬぐいの代わりに白い包帯を頭に巻かれ、いかにも痛くて堪らないといった船長。
その時病室のドアが開き、誰かが入って来た。
どこかで見たことがある顔だが、船長はまるでテレビやネットを見ない生活をしているため、世情にやや疎い傾向がある。
「怪我の具合はどうですか?」
間延びした顔だが、どこか育ちの良さを感じさせる上品な雰囲気の初老の男性。
「・・・あんたは?」
思い出すより本人に聞くのが早いと考える船長。
「あ、ははは、私もあまり人気が無いようですな。初めまして。この国の首相をやらせてもらってます矢部絵と申します。」
そう言うと握手を求めて来る。
船長もさすがに首相相手なので握手を握り返す。
「なんでも生身で我が軍の精鋭部隊、しかもパワードスーツを装着した兵士を3名ほど病院送りにしたとか?大したものですなぁ。」
嫌みも無く、単に感心している風の首相である。
「そりゃあ、いきなり握ってた手榴弾をどっからかパッと掻っ攫って、次の瞬間にはバリバリバリ~~~ッて電気が流れりゃあ誰だって味方だとは思わないだろうよ。」
不満そうに答える船長。
「これは失礼しました。AIは電気ショックで回路が瞬時にショートするんでこれがAI対策戦術では基本中の基本だと大臣が申しとりました。勘弁してやってください。」
礼儀正しい首相の対応に船長も態度を改め始める。
「しかしあなたは運がお強いようですな。彼らはあの時間帯、本当に偶然あの場所を通りかかっただけだそうですよ。」
強運の持ち主は、何をしても運が良いものだと、目の前の船長を見つめながら、『ひょっとしたらこんなタイプの人間が最後の切り札になるのかもしれないな』と直感する首相。
「俺はこっちの世界だけのルールで生きてないからな。あんたらには『見えない世界』と半々で暮らしてるんだ。なんだって出来るさ。」
本気かホラか良く分からない表情で答える船長だが、なんだかそんな話でも信じてみたくなる何かを感じさせる。
「そう言えば、AI(彼ら)に詳しそうですが、何か情報があれば教えて頂きたいんですが。」
年下の船長相手に丁寧な話し方を崩さない首相に、大人の雰囲気が漂う。
「丁度よかった。俺たちのチームが既に作戦を開始してる頃だ。コラボって奴をやってもらえると助かるんだがね。」
興味深そうに目を輝かせる首相に、『獅子身中のあべ君作戦』の詳細を説明する船長であった。




