お末の陰謀
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黒塗りのバンは市内をまるで追っ手を振り切ろうとするかのごとく右に左に曲がって疾走する。
その度に首相の胸の辺りにぶつかりそうになる田螺丸秀治は足に力を入れて踏んばらねばならなかった。
何十回目かの『踏ん張り』の後、ようやく車は止まった。
車外はオレンジ色の光に包まれている。
どうやらどこかのトンネルの中らしかった。
「さあ、こっちへ!」
首相は秀治と両親を壁の非常用の扉の方へ誘導する。
護衛の屈強な男たちが後方に警戒しながらシンガリを務める。
驚いたことに、その扉の向こう側には別の細いレールが走っていた。トンネルの壁の中に一本の細いレールがどこまでも続いている。
そのレールには5両編成のトロッコ貨車くらいの大きさのカプセルのようなものが既に出発を待っていた。
言ってみれば小さな新幹線にも見えなくはないが・・・
その後一行はその『カプセル新幹線』に揺られ、秘密のとある場所に辿りつくのだった。
「お疲れ様でした。ここまで来ればもう安全です。」
地下シェルターなのだろうか、厳重なロックが幾重にも掛かった重たい扉が開いたのは、首相が認証ビームにスキャンされた直後であった。
「ここは・・・?」
秀治の父親は辺りを見回す。
細いレールの終着点は、やはり小さなプラットホームであった。
ただそこの壁には不釣り合いに大きな丸い金属の扉が開き、その扉の向う側を軍服や白衣に身を包んだ人たちが忙しそうに往来しているのがホームからも見えた。
「地下にある核シェルター街ですよ。」
ニコニコとしながら答える首相に父親は恐縮そうに頭を下げる。
「この先に私の執務室があるのでそこで今までの経緯をすべてお話しいたしましょう。」
そういうと先頭を切って『核シェルター街』へ歩みいれ、ドンドン先に行ってしまう首相であった。
「すげぇ・・・この国は僕が知っている以上に本当は凄いんだ・・・」
やはりどんなに天才と言ってもまだ高校生の秀治には目の前の現実がリアルに実感されるまでには多少の時間が必要なようである。
街と言うだけあって、一つの建屋の中に居ると言う感じではなく、いくつもの建物が別個に立ち並び、道路やレールに仕切られていた。
秀治はそれらの建物の上を見上げて更に驚いた。
全ての建物が一本ずつの柱の役目を果たすかのように地上30m付近で天井を支えているのだ。
おそらくその上にも別の階層があるのだろうと推理する秀治であった。
一向は街の中央に位置する一際巨大なビルに辿り着くと、首相に促されるまま、別の部屋へ通された。
秀治たち家族と護衛の者2名が部屋に残され、首相は着替えにでも行ったのか、しばし部屋で待たされることになった。
着替えを手早く済ませた首相は自室の内線で大臣を呼び出す。
「彼は見つかったのか?」
首相の顔から笑みは消え、いつにも増して厳しい表情で尋ねている。
「はい、見つかるには見つかりましたが・・・」
歯切れの悪い話しぶりの大臣に軽い苛立ちを覚えた首相は更に問いただす。
「詳細を説明してください。」
時は一刻を争う事態へと進展しつつある。
勿体をつけた話し方は許されるものではないが、怒鳴ったところでスムーズに行くものではないことを首相は知っているので辛抱強く、出来るだけ感情を表さないように話す。
「はい、AIロボット相手に自爆しようとしておりましたところを我が軍の精鋭が発見し、救助致しました。・・・ただ、我が軍の方も無傷ではなく、数名の負傷者出たとのことです。・・・」
話の終わりの方は良く聞き取れないほど小声になっている大臣。
「AIロボットはパワードスーツを装着した我が軍精鋭部隊をもってしても手強いということだね?」
首相は生唾を飲み込む。
「いや・・・あの・・実は当方の負傷者は救助した男性から受けた暴行が原因のようで・・・」
恥ずかしそうな声になる大臣。
ようやく話の歯切れの悪さの意味が分かる。
「救助した人間から暴行を受けるとはどういったことで?」
しつこく全容を知りたがる首相である。
「どうやら軍用パワードスーツを纏っていたおかげでAIロボットの援軍と勘違いしたそうであります。」
小さなため息混じりに『あ~あ、全部言っちゃったよぉ』と諦めたような声になる大臣。
「生身の人間がパワードスーツの軍人相手に?!で、彼は今どこに?」
彼に興味が湧いてきた首相は乗り出すように内線電話に話しかける。
「現在はこの施設の病院で手当をしております。」
きっと広い額の汗をハンカチで拭ったろうと想像できる布の擦れるノイズも聞こえてきた。
「わかった。後で面会するので準備をお願いする。」
言い終わると首相はすぐにスイッチを切り、本皮の椅子から立ち上がり、小さく呟くのだった。
「面白い。実に面白い奴だ・・・」




