獅子身中のあべ君
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地上から遥か上空。
地球の軌道上を周回する軍事衛生『マーヤ』。
もちろんこの国の物ではないが、残念ながら通信回線を『NO,1』にジャックされ、今や無国籍の恐るべき兵器と化している。
衛生の高感度カメラは、例えば直径5mmの石に誰かの名前が書かれていても読める程の性能を有している。
元々は軍事偵察衛生だったのだが、『NO,1』によってスペースデブリと呼ばれる廃棄された人工衛星の破片などをかき集められ、巨大なパラボラアンテナ状の反射板を作ってしまった。
この反射板と対峙してセットされているのは、他国の人工衛星を攻撃するためのキラー衛星のレーザー砲である。
もちろんこのキラー衛星も『NO,1』によって吸い寄せられた物であった。
つまり、『NO,1』が一度標的の座標を指示すれば、正確に地上のその場所に宇宙空間から火柱上のレーザー砲が照射され、そこにある物は全て消し飛んでしまうのである。
既にここまで人類支配の準備は完了していたのだ。
そして今夜、『NO,1』は拉致された他のプロトタイプ諸共、洗濯船を消滅さすべく座標を計算している最中だった。
通常なら数秒と掛からない作業のはずが、何時間経っても正確な位置が弾き出されることはなかったのだ。
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前回の夜襲を踏まえて、夜間の視界が悪くなる間は別府湾へ移動し夜を過ごすことにした洗濯船。
デッキに出て、『東洋のナポリ』と称される別府の煌く街の明りを眺めるエーコ。
片手にアルコールの入ったグラスを持ち、エーコの横に並ぶ船長。
「綺麗だなぁ。」
船長は別府の夜景に見とれて呟く。
「私にはあべ君(弟)が居るんで!」
計算通りの的外れのエーコに、鼻で笑って何も言い返さない船長。
「もしこんな綺麗な国がAIなんかに乗っ取られたらどうなるんだろうなぁ・・・」
船長の眼差しはいつになく真剣なものだった。
エーコもこれには何も言えなかった。
そもそもエーコは宇宙人であり、この星の乗っ取りのために調査士として送り込まれていたのだ。
少し間を置いた後、考え直したエーコはこう返した。
「誰も乗っ取らせませんよ。」
涼しい笑顔でエーコは微笑む。
「へ?お前が?・・・そりゃあ頼もしい。」
気休めでも嬉しかった。
はっきり言って、今回の作戦は人工知能相手にどこまで通用するか、まるで計算できず、責任の重さを一人感じていた船長にとっては、嘘でも嬉しい言葉だったに違いない。
『こんな美味しい食べ物だらけのこの星を、私以外の者に渡すわけには行かない!!特にこの国は!!おーマイ、スイーツハーレムぅ~~~!』
そんなふたりの間を冷たい夜風がぴゅ~っと吹き抜ける。
「頼もしいソルジャーに風でも引かれては困る。見張りは俺たちでするから、お前は少し寝ておけ。いつ襲撃されるか分からんし。監視衛星からはおそらく丸見えだろうからな。」
そう言うと船長は自分の上着をエーコに掛けてやろうとしたが、ワナワナと肩を震わせているのに気がついた。
「わ・・・私・・・まだ・・・言い忘れてたことが・・・あった・・・」
エーコは震えながら搾り出すように声を出す。
「な、何を言い忘れていたんだ!?重要なことか!?」
船長は慌てた。
もう今更作戦の変更は不可能だった。
「基本過ぎて完全に忘れてました・・・実は」
そう言いかけたエーコの遥か遠くの岬の辺りに暗闇を切り裂く一筋の光が天空より落ちてきた!?
チュドーーーーーーーーーーーーーンッ!!
辺はまるで昼間のような明るさに包まれた。
キノコ雲が立ち上るのと引き換えに明かりは徐々に収束してゆく。
船を波が揺さぶる。
船長達は船のヘリに掴まり転落しないよう腰を落とす。
「な、なんだぁ~~!?」
さすがの船長もこれには肝を潰した。
「あ~、やっぱり!」
エーコが頭を抱えながら叫ぶ。
「どうしたんだっ?!」
事情を知ってるエーコを問いただそうとする船長。
「私の船は元々宇宙船なんで衛生カメラもレーダーも何も捕捉出来ないんですよぉ!あんまり当たり前過ぎて言うのを忘れてましたぁ~っ!!」
おかげで命拾いしたのだが、もう待ってる時間がないことは明白だった。
「目視だけは見えるんだな?」
船長は慎重に確認する。
静かに頷くエーコ。
「もう時間はないみたいだ。まだ準備が整わんが仕方が無い。『獅子身中のあべ君作戦』決行だ!!」
船長にもう迷いのかけらも見る事はなかった。
エーコも初めて見せる引き締まった表情で強く頷き船長に続いて階下へ急ぐのだった。
『私のスイーツハーレムをよくもぉ~~~っ!!』
復讐の鬼とかした女性ほど怖いものは無い。
それが特に『食い物の恨み』となれば、いかばかりか・・・




