『首相 田螺丸』誕生?!
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半月でも初冬の空は澄みきり、高く、どこまでも透明だった。
ささやかな月光を浴び、街は仄暗く、まるで水墨画のような輪郭と濃淡で彩られていた。
そんな深夜2時を過ぎた頃、ようやく好奇心を睡魔が凌駕し、パソコンの前でコックリコックリし始める田螺丸。
部屋の明かりは卓上スタンドとパソコン画面からだけだったが、タイマーが作動し、いつの間にか卓上スタンドは消えていた。
こんな風に眠ることが珍しくない田螺丸が自分で作ったセンサー付きタイマーだった。
動くものが無くなってから5分で明かりが消える設定にしていたのだった。
やがてパソコン画面もスリープモードに入り、いよいよ彼の部屋は暗くなった。
次に彼が目を覚ましたのは小一時間も経った頃である。
知らぬ間に、パソコン画面が明るくなっていたのだ。
そこには誰かがテレビカメラを携えて、どこかへ侵入していく様子が映し出されていた。
「あ・・ん?・・・なに?」
寝ぼけ眼を擦りながら画面で起こっていることを確認しようとした。
高い塀を、どうやったのか分からないが、ひょいっと飛び超え、どこかの豪邸の庭先に入る。
気配に気づいた番犬が、低く獰猛な唸り声を上げ距離を縮めながら侵入者を威嚇する。
プシュッ!!
何かが小さく炸裂したような音がした。
ドサッ・・・
大きな体の番犬は無言でその場に倒れた。
家人はまだ誰も気がついていないようだ。
「なんだ? これって、犯罪動画じゃないか!? え? 動画サイトなんかアクセスしてないぞ?!」
田螺丸は焦る。
あたかもどこかの国の大統領が、テロリストを追い詰める兵隊のヘルメットに装着されたカメラを通じて、現場をリアルタイムで見ているような状態である。
「一体誰がこんなことを?!・・・僕じゃない・・・僕じゃないとしたら??」
イタズラにしては悪趣味である。
「わかった!奴らだ!蛭河傭平!!」
これが不良グループの蛭河たちの仕業だとすれば、この『犯行の黒幕』として自分に罪を着せる算段だろうと考え、すぐにネット回線のプラグをパソコンから外した。
しかし、画面は一瞬ノイズで乱れはしたが、変わらず『犯行現場』を写している。
「え?!なんで?」
秀治にしては珍しく混乱した。
「だって、うちのパソコンは無線LANは引いてないのに!?」
こんな仕業を蛭河傭平達が出来る訳がないと直感した。
他の、『もっと大きな力を持つ誰か』がこの事態をどうしても自分に見せたいのだと理解した。
「何者か知らないが、僕を罠に掛けるにしては手が込みすぎてる。・・・いいさ、見てやるよ。」
ついに秀治は腹を決めたのだった。
気づけばいつの間にか、『侵入者』は家の中に入っていた。
「何をする気だ?」
秀治は固唾を呑んで食い入るように画面を見つめる。
『侵入者』は足音を潜め、まるでホテルのように大きな廊下を行く。
ある部屋の前まで来た時、不意に歩みを止めた。
慎重にドアノブを回し、ドアの軋みさえも計算に入れたかのごとく、無音のまま扉をゆっくりと開く。
ゴクリと喉を鳴らし、ハッと慌てた秀治だが、こちらの音声が現場に届いているはずもないことに気づく。
どうやらそこは寝室らしかった。
秀治の部屋同様、ほの暗く月光に照らされていた。
間違いなく、これは『今』起こっていることなのだと自覚する秀治であった。
と同時に、これは暗視カメラの画像であることが判明した。
これだけの暗闇を薄暗く映し出せるとすれば当たり前に気づくべきところだったのだが、ベッドに眠る人間の顔が薄い緑色になっていることでようやく実感したのだった。
その人物は中年を過ぎた、そう、最近では『壮年』などと呼ばれる60代の男性だった。
さらに、秀治にはその顔に見覚えがあった。
「あれ?だれだっけ?知ってるよね、この人?」
まだ高校生ではあるがあらゆるジャンルの情報に長けていた彼は、その人物が誰なのか、必死に思い出そうとしていた。
「えっ!!まさか・・・首相???」
まさにこの国を代表する人物、『矢部絵首相』その人であった!!
カメラの人物は、眠る首相の口を押さえ、首に針のようなものを刺そうとする。
さすがに驚いて目を覚ます首相は声を出すまもなく、針の餌食となった。
「こ、こ、殺したのか!?」
椅子から転げ落ちる秀治。
全身を戦慄が走る。
「・・・やべえよ・・・」
ダジャレではない。
思わず口にしていただけである。
秀治は恐る恐ることの顛末を確認しようとパソコンを覗いた。
驚いたことに部屋の明かりが点けられ、『意識のない首相』が死体袋に入れられていた。
カメラの人物は袋のファスナーを締めると立ち上がり、部屋の壁の方へ歩み寄る。
豪華な鏡台が備え付けられているのがチラリチラリとカメラに映る。
「(゜A゜)ヤメロ!!」
秀治は目を閉じるチャンスを失っていた。
鏡に映った人物を見てしまったのだった。
通常、誘拐事件などで犯人が人質に顔を見せる場合、生きたまま返す確率はほぼゼロであることを知っていたのだが、止められない好奇心が一瞬の判断を鈍らせた。
片目を閉じてはいるが、もう片方ではしっかりと鏡に映る『犯人』の顔を見てしまったのだった。
『首相~っ!?』
深夜であることを忘れ、思わず絶叫した秀治。
階下で両親がゴソゴソっと声に反応して起きたような音が聞こえた。




