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洗濯船ハイパー日誌  作者: 田子作
第4章 本物のお宝
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首相の器

この話のイラスト付き本サイトはこちら↓

http://ideanomi.jp/index.php?%E9%A6%96%E7%9B%B8%E3%81%AE%E5%99%A8

新型機が完成し、お末の記憶を流し込むことに成功して間もない頃、突然暗倉博士の携帯電話が鳴った。

それは首相官邸からだった。

だが、その電話を素直に信じるには抵抗があった。

既に社内の重要ポストの者たちは、『すり替わり』になっていたのだから、無理からぬことだった。


「しかし、まさか国のトップまですり替えるなんてことはまだ無理だろう・・・」


一抹の不安はあったものの直接二人きりで面会するという条件でオファーを受けた。

このまま手を拱いていても、近い将来、自分もAIマシンに人格をコピーされ、自身の肉体はコールドスリープさせられるだろうと言うことはほぼ確実だった。


待ち合わせの場所に黒塗りの高級車が滑るように音もなく近づいて来くると、彼を乗せて見知らぬ街を徘徊した。

どうやら尾行が無いかを確認しているようだった。

やがて安全を確認できたのか、とあるビルの地下駐車場へ入っていった。

そこで無表情の運転手から部屋の鍵を渡され部屋番号が伝えられた。

その日からそこが我々の隠れ家となった。


「お忙しい所、申し訳なかったですな。」

まさしく首相本人だった。

人懐っこい笑みを浮かべ握手を求めてきた。


「いえ、しかし、これは一体・・・」

暗倉博士は戸惑いを隠さなかった。

そもそも嘘が下手な性格でもあったのだ。


「実は国家を揺るがしかねない由々しき事態が発生しましてね・・・」

とはいえ首相自らがここへ来る必要とは何なのか?


「と申しますと?」

博士は興味深そうに、物静かに尋ねる。


「実はある国会議員がコピーAIロボットを使って国会へ侵入していたのですよ。」

眼から笑みが消えた。

博士を見据える眼には深い疑念の色が見えた。


「はぁ、まあ可能かもしれませんね。最新式は性格もコピーしますから。」

他人事のように答える博士に少し苛立ちを見せる首相。


「そのコピーロボットてのが、君の会社のロボットなんだがね。」

いかにも不愉快そうに続ける。


「当社としましても規制をクリアして市場に出荷しているので、それについては個人の運用モラルとしかお答えできませんが・・・」

こんな尋問がいくら首相とはいえ、許されるのか?

今更正直に社内の『すり替わり事件』を話せば、開発者の自分もこの場で逮捕されかねない。


「私が聞きたいのはそこじゃあないんだよ。」

急に話し声がトーンダウンし、穏やかになる。


「は、はあ・・・」

首相の本当の狙いを掴みあぐねている博士は、ポケットからハンカチを取り出し額を拭く。


「私が聞きたいのは、『彼らをいざと言う時に遠隔操作で思い通りに操作できるか?』と言うことなんだよ。」


まるで方向が違う話になった?!

そう言えば首相は『軍隊へのAIロボット投入』に向けて積極的だとマスコミが騒いでいるのを思い出した。


「例えば、いざ!と言うのはどんな時ですか?」


暗倉は内容が内容だけに慎重に聞く。

秘密漏洩防止法も制定された今、ある日突然『それは秘密扱いだったので逮捕する!』と言われかねないのだ。


「例えば、件の国会議員のように、国民がAIロボットにすり替えられて、クーデターやテロを起こそうとしたときに、彼らのロボットをこちら側が遠隔操作で乗っ取り、逆に逆賊を一斉逮捕するような時だよ。」

そうか!

その手があったのだ!

現在市場に出回っているロボットの大半は、複雑な判断が必要な際は自社の『NO,1』による遠隔操作で対応しているが、新型機が稼働すれば『自分たちの軍隊』を持つことも可能だ!!


『これならNO,1に対抗できるかもしれない!』


「ただ、それには現行のAI中央制御マシンに気づかれないように『自軍の兵隊』を増やす必要があります。」

我が意を得たりと自信ありげに答える博士。


「誰が『兵隊』という言葉を使いましたかな?私は緊急時の対応が可能かどうかを聞きたいだけなんだがねぇ。」

さすがに政治家である。

ボイスレコーダーによる録音か盗聴を意識しているのか、慎重に単語を選ぶ。


「これは失礼いたしました。私の勘違いでしたか。一つのたとえ話、として『可能です』とお答えしておきましょうか。そのための準備は最終段階を除いて整っております。」

一筋の希望の光が差し込んできたように感じ、勇気が湧いて来る暗倉であった。


「最終段階とは?」

すっかり乗り気の首相である。


「まずは浸透価格で市場を寡占化にするためには税制優遇をお願いしたいのですが。」

お末に連れられて通った闇市で培った商魂のおかげか、なかなか商売上手な博士でもあった。


「いいでしょう。そちらは何とかしましょう。他には?」

すんなりと条件を飲む首相。


「そうですね。一番難しいのは『誰からも愛されるキャラクターであり、顔や体形などのインターフェイス』ですかね。」

博士は、最近の消費者が機能だけでは購買欲求が起きにくいことを営業会議に参加して知っていた。


「どうすれば良いのですかな?」

興味深く尋ねる首相に軽く手を上げ、『そこはお任せを』と言わんばかりの合図を送る。


「こちらで用意しますのでご安心ください。」

それからすぐに新型機『M.A.I』によって最適人材の探索が始められたのは言うまでも無かった。


首相の器かどうかは分からないが、とにかく現状では暗倉博士にとっては重要な人物であることには変わりは無かった。


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