暗倉博士の苦悩
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電子ロックを解除し外部から完全に遮断された暗く巨大なドームへ入る。
広いドーム内の壁には床から天井に至るまで、びっしりと何かの機器類が埋め込まれている。
ドーム中央の空間には幾種類もの機器類の集合体とでも呼ぶべきソレがあった。
その正面には操作パネルがあり、暗倉博士は真っ直ぐにその前まで歩き右手を上げる。
壁の一点から光の帯が伸び、彼の掌を走査する。
個人認証のようだ。
「ご機嫌はいかがですか?」
古い友人にでも話しかける様に機器類の塊に向かって話し始める暗倉博士。
操作パネルの上に据え付けられたモニターにパッと人影が写る。
「機嫌も何もありゃしないよ。一体ここはどこだい?」
画面に映ったのは『お末』その人だった。
「説明しなくても分かってるでしょ?」
暗倉は暗い表情に多少の皮肉を込めたつもりだった。
「あたしが聞きたいのは、何であたしがこんな奇妙な所にいるんだってことだよ。」
怒っている訳ではなさそうだが、返答次第では昔のように雷が落ちそうな雰囲気でもある。
「お末母ちゃんは今から20年前に身体を失ったんだよ。今はそれまでの記憶を機械の中に閉じ込めて生き続けてもらってるんだ。僕のせめてもの恩返しのつもりだったんだよ。」
暗倉はすっかり『お末の息子』に戻っている。
「それにしちゃあ随分間が開いたもんだねえ。」
好奇心旺盛な昔のまんまのお末がそこに居た。
「ここに至るまでに随分と遠回りしたんだよ母ちゃん。勘弁してください。」
あまりの懐かしさに込み上げる涙を飲み込む暗倉。
『今度こそ成功なのか?このままの母ちゃんで居てくれ!!』
博士は、心の奥底からそう願うのだった。
「どうでもいいけど、あたしがちょっと『居眠り』してる間に人さらいまでするようになったんか?あのイケメンはどうするんや?」
ちょっと声に怒気が混ざり始める。
「彼こそがこの国の救世主なんだ。彼が本当に『本物の最適人材』ならね。どうなんだい、母ちゃん?」
今度は暗倉博士の方も少しお末を疑ったような言い回しをする。
「言われた問題の答えは間違っちゃいないさ。ただ、あの子にはちょっと『特別な』お友達が居ただけさ。」
お末も少し勿体を付ける話し方で答える。
「特別な友達?」
さすがに暗倉博士も興味を示した。
「しかしあんた、いくつになったんだい?老けちゃったねぇ。私より老人じゃないかい!ちゃんとした物食ってんのかい?」
話が横道に逸れる昔のまんまのお末であった。
田螺丸は、ネットワークの社会への浸透と通信速度の高速化に伴い徐々に「あの動画の塊」を見つけるのが難しくなっていった。
彼はどうしても知りたかった。
この「誰かの記憶の塊」とでも呼ぶべきデータ塊が最終的にはどう使われるのか?
ある日、ついに彼は動画内に特殊なウィルスを埋め込むことに成功した。
これで特定のパソコンがこの動画を操作しなくてもネットワークに接続した瞬間に、どこに居るか分かるようになった。
強いては誰がこの動画を制御しているのかも追跡が可能になるのだ。
「絶対知ってやる!こんな動画の塊をどう使うのかを!」
今や執念の塊になっていた。
相変わらず学校では『変人タニシ』と陰口をたたかれ嫌われていたし、嫌がらせも日を追うごとに悪質化していった。
教師たちは見て見ぬふりばかりで誰も田螺丸を庇う者は居なかった。
「ふん、僕は将来この国の頂点に立つんだ。その時は皆まとめて見下ろしてやるさ。」
田螺丸の方もどんどん意固地になっていったのだった。
中学を卒業し、高校へ進学してもそれは変わらなかった。
そしてついに『運命の日』が訪れることになったのだった。




