A.I『電卓』の目覚め
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「う~~ん・・・ここは・・・?」
見覚えのない、どこかの病院の部屋で目を覚ましたあべ君。
起き上がろうとして、ズキンッと頭に痛みが走る。
「痛っ!」
二日酔いのように頭の芯から来る痛みだった。
「・・・僕は一体・・・」
頭を抱えながら、ゆっくりとベッドの上に起き上がるあべ君。
その時を待っていたように入口の付近の電燈がパッと明るくなった。
直後にスライドドアが開き、白衣を着た医師のような男たちが数人入って来た。
「お目覚めですか?あべさん。」
身長はあまり高くない初老の男が話しかけてきた。
背後には3名ほどの若い医師らしき男たちが立っている。
初老の男は分厚い丸メガネの下の小さな眼であべ君を注視している。
あたかも『間違い探し』でもしているような目の動きで、あべ君の顔の隅々まで。
「ここは?あ、僕はセミナーの途中で意識がなくなったんだ!」
ようやく思い出したあべ君。
「さすが最優秀者ですね。記憶力も抜群ですか。」
あまり感情がこもっているとは言い難い話し方の眼鏡の男。
「ここはどこなんですか?」
とりあえず現在地を確認しようと考えるあべ君。
「知ってどうしますか?これからはここがあなたの自宅になるんですよ。」
初老の男は、意味ありげにゆっくりと話す。
「え?引っ越した覚えはないんですが?・・・じゃあ妻は?娘は、どこですか?」
あべ君は少し慌てた。
大晦日に引っ越しなんて一言も聞いていなかったし、何よりも目の前の男の話しぶりが気に入らなかった。
妻や娘のことが気になって仕方がない。
「奥様もお嬢ちゃんも家であなたの帰りを待っていますよ。」
意味が分からなくなった。
『ここ』が僕の家だと言い、妻と娘は『家』で待つと言う。
しかしここに妻子が居ないと言うことは、妻と娘が居るという『家』は、いつも帰宅する自宅のことのはずだった。
「心配しなくてもあなたの家には、『生まれ変わったあなた』が帰宅しますよ。今日から。」
ますます話が混乱してきた。
「すいません。こんなところであなたと押し問答する気は有りません。僕、帰りますんで、そこ退いてください。」
いつも冷静で礼儀正しいあべ君でも、今は完全に頭に血が上っていた。
「ですから、ここが今日からあなたの自宅なんですって・・・。」
眼鏡の男が言い終わる前に背後の若い白衣の男たちがあべ君の両腕を拘束していた。
「ぼ、僕をどうする気だ!?」
悔しいが怒りと恐怖で声が微かに震えている。
「そうですね。少し顔を貸して貰いましょうか?」
眼鏡の男が、若い男の一人に目で合図する。
チクッとした痛みが右の二の腕に走る。
「痛っ!何をし・・ら・・て・・」
舌が縺れて上手く話せなくなると同時に全身の力が抜けていく感覚に襲われた。
意識だけは覚醒していたが眼も開けていられなくなり、男たちに両脇を抱えられたまま部屋から引き連れられてしまったようだった。
しかし身体の麻痺とは逆に意識はしっかりしてきたようで、丸メガネの男が暗倉健太博士だとようやく気が付いたあべ君だった。
「あ、野球~す~るなら、こういう具合にしやしゃんせ!!それ、アウト!セーフ!よよいのよい!!」
べろんべろんになったあべ君は野球拳で負け続け、ついに最後の一枚を残すのみのあられもない姿になっていた。
「今夜は金庫番君を潰しますよ!妻帯者のくせに、いくら相手が宇宙人でも独身娘に手を出すとは許せません!!」
自身もほぼ泥酔状態の小野先生はあべ君のコップにどぼどぼっとオニナール溶液を混ぜている。
「焼きもちなんじゃない?あれ。」
小平師匠が笹川さんとコソコソと話している。
『あべ君は今日はオネエになる暇もなく泥酔させられてるから次の手が読めるぞ!これで最後だ!!』
僕は彼の掌を見ながら次の手をゆっくり出すだけで良かった。
彼は次の手をゆっくり用意しながら振り下ろして来る。
「よよいのよい!!勝ったぁ~~~っ!!さあ、脱いでもらいましょうか!!」
僕は勝利の雄たけびを上げた。
「よっ!!いいぞ、友澤!!正義のみかちゃ・・ちゃ・・!!」
呂律が回っていない小野先生も叫ぶ。
フラフラのあべ君にみんなの注目が集まる。
立ってるのも不思議なくらいに泥酔しているあべ君。
「さあ、さあ、さあ、さあさあさあ!!」
皆が詰め寄る。
シュ~~~~~~ッ、プスンプスン・・・
妙な音がしたと思ったらいきなりあべ君の耳の穴から煙が立ち上る!?
一瞬、会場に居た人間全員、凍り付いた!
『やり過ぎた!?』
「あ、あべ君?だ、大丈夫?」
怖くて今にも泣きだしそうな顔の小野先生が恐る恐る尋ねる。
「もしこれで金庫番が死んだら、こんな場合、誰が何年刑務所に入るんだ?」
しこたまに酔っぱらった船長は他人事のように小野先生に尋ねる。
「や、止めてくださいよぉ~、縁起が悪い~~~~」
もうほとんど泣いている小野先生。
独り夜風に吹かれ、バカ騒ぎを遠くから見ていたエーコが騒ぎに気が付いて走って来た。
「・・・あ・・・あ、あべさん?・・・あべさん?・・・」
かなり動揺している。
流石にこれは気の毒になったメンバーたち。
「・・・あべさんて、・・・本当に・・・電卓だったんですね・・・?」
妙な所に動揺するエーコ。
ズルッとみんなこけそうになったが、船長は何かを閃いたようだった。
「そうか!いくらなんでも人間はショートなんかしねぇよ!こいつは偽金庫番だっ!!」
はっと我に返るメンバーたち。
「ほ、本当ですか!?」
まだ涙目の小野先生が船長にすがる様に確認する。
「先生、刑務所は逃れたな!コイツを医務室へ運び込んでくれ!急いで調査しねえと本物の金庫番が危ねぇ!!」
またまたハッとするメンバーたち。
偽物がここに居ると言うことは本物はどこかに監禁されていると考えるのは自然なのだが、みんな泥酔に近い状態なので気が付くのが遅いのだ。
「金庫番!どこにいるぅ~!!」
流石の船長も険しい表情であべ君の身を案じて唸った。
いや、正確にはあべ君が持ち歩いている金庫の鍵の心配をしていたのだが・・・




