玉虫色の思惑
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「はぁっはぁっはぁっ・・・」
塀を越え、家屋の屋根を飛び渡り、ビルの壁を駆け上がる。
もはや人間業ではない。
それでもあべ君は優しげな微笑みを絶やさず、息も乱さず、爽やかにエーコにぴったりと付いて来る。
エーコはそもそも生身ではない。
この星での活動を楽にするためにパワードスーツに身を包んでいる。
誰よりも怪力で誰よりも速く、そして誰よりも強固に。
それなのに『生身の』あべ君はいつにも増して爽やかに軽やかにシナヤカにエーコに付いて来る。
『おかしい!!絶対におかしい!!ひょっとして・・・』
ある考えがエーコの脳裏をよぎった。
パワードスーツを着てはいるが、流石にエーコの脈拍は上がって来た。
ドクンッ、ドクンッと心臓が大きく鼓動する。
久しぶりの自分の『本気』にピッタリと寄り添うように付いて来る男。
『もしかして・・・これは・・・』
エーコは確信が持てずにいる。
どうすべきか?
誰にも言えない。
なぜか?
『だって、これは恋かもしれない~~~~っ!!』
エーコは、「関アジ関サバ」で有名になった港町『佐賀関』の関崎灯台の崖っぷちまで来たところで急に立ち止まった。
あべ君もピタッと立ち止まる。
徐にエーコは振り返り、あべ君を上目づかいに睨み上げる。
「私、不倫は嫌ですから!!」
こんな真剣な表情は、カットされたケーキのどちらが大きいかを見比べる時以外に見せたことは無かった。
「はあ~~?????」
流石のあべ君も意味不明に陥ったようだった。
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僕は一抹の気まずさを感じていた。
クリーニング長を怒らせ、結局そのまま笹川さんの弟子を『卒業』したことに。
『でもあれは船長命令で急にそうなった訳で・・・』
笹川さんはそんなことは気にもしていない素振りで一生懸命にテントウムシを探している。
『笹川さんて、いつもこうなんだよな。結構要領が良くて、面倒くさいことはサラリと避けてるように見えて、実はいつも誰かのために見えないところでは必死になってたりするんだよな。僕の教育の時も・・・』
申し訳ない気持ちが込み上げて来た。
そりゃあ、頭ごなしに怒鳴って来たクリーニング長には腹が立つけど、確かに僕が手抜きしたんだから反省すべきことは分かっていた。
いや、分かっているつもりだった。
だが笹川さんが僕を庇ってくれたことや指導してくれたことの重要さに比べれば、僕は自分の言い分ばかりを主張していたと、笹川さんの首筋に光る汗を見つめながら気づかされた。
『やっぱりちゃんと謝ろう!』
「笹川さ・・・」
ドボンッ!!
僕は側溝の泥水の中に右足を踏み込んでいた。
気配に気づいた笹川さんが振り返る。
一瞬の『間』が二人の間に生まれた。
次の瞬間、
「あはははははは~~~!!何やってるんですか?!バカじゃないの?!あははははは~~!!」
執拗に笑い転げる笹川さん。
『謝るのは今度にしよう・・・多分、謝らないと思うけど・・』
そう確信した僕だった。
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「船長、船長ってば。」
小平さんが何か閃いた様子で船長を呼び止める。
「ん?どうしました?」
年齢的には小平師匠の方が上なのでそれなりに丁寧語で話す船長。
「ふと思ったんですけどね、もし、もしですよ、テントウムシが見つかったらやっぱ仲間で取り分を分けちゃいます?」
何か意味ありげな小平さんに不思議そうな顔をする船長。
「あ、何も言わなくても結構です!船長なら分けちゃいますもんね、いつも。あ、でもですよ、もし100万円が手に入ったら、いつも船長の足ばっかり引っ張ってる連中にお金を分け与えたら、それこそ『甘え』を助長しないですかね~?どう思います?」
船長は少し考えた後で口を開いた。
「いや、実際、努力しない奴に分け与えるとそれはそれでいけませんね。確かにそうだなぁ。う~ん。」
腕組みして本気で悩み始める船長。
「でしょ?そうですよね?こうしてる間にもテントウムシを本気で探してる人って何人くらいだと思います?私が考えるには笹川さんとなべさん、それにあべ君くらいのもんですよ。」
小平師匠は自慢げに分析して見せる。
「確かに!他の連中が本気で探すとは考えにくい・・・。」
ますます気難しい顔になる船長。
「そこで、私考えたんですけど、我々の取り分は『隠して』おいて、その分は我々が必要な時に機動的に出す資金源としてプールするってのはどうでしょう?」
誠実そうに目をキラキラさせて提案する小平師匠。
『いや~、今月服買いすぎて支払いが苦しいのよね~。1か月だけでも時間稼げれば助かるんだけどな~。』
どうやら小平師匠は服の支払いのために『機動的資金』を確保したいようだ。
「そうですね!!一定期間何も機動的な事案が発生しなかったら後から皆にボーナスとして振り分けてやればいいし。そうしますか!」
『助かった~!今月飲み代が行き過ぎちゃったんだよな!来月まで誤魔化せれば大助かり!!』
すっかり船長もその気になっている。
手揉みしながら喜ぶ小平さん。
傍から見れば『狸と狐の化かし合い』の様相を呈していることに本人たちは気づいていなかった。




