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洗濯船ハイパー日誌  作者: 田子作
第3章 洗濯の時は今!!
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世界は母ちゃんが回す!

第3章の始まり始まり~~

「ほれ、健太!」

お世辞でも綺麗とは言い難いがまだ若い『お末』は学校に行こうとする健太に弁当箱を手渡す。

昨年の大空襲で健太の祖母は戦死していた。

運良く難を逃れた太郎の母『おまつ』は健太を引き取り育てていた。

しかし食糧難は激しさを増すばかりの時代、健太と太郎を女手一つで育てるのは容易なことではなかった。

末たちの家は、都市部の中心地だったために昼夜を問わず闇市があちこちで開かれていた。

夜間にある市場で仕入をした物を日中の別の市場に出荷すると思わぬ高額で売れることもあり、そんなことを繰り返すことで何とかその日その日をやり過ごしていた。

健太はそんなお末を見ていたので腹が減っても弁当が欲しいとは言い出せなかった。

しかし近所でも豪傑で鳴らしたお末が貧乏を理由に3度の飯をケチることは無かった。


「大したオカズは無いけど無いよりはましだよ。」


ニカっと笑った口には前歯が一本無かった。

それがまた不細工さ加減を増していたのだが本人は一向に気にする風でもなかった。


「前歯が一本くらい無くて死んだ奴はおらん!」

近所の誰かがからかうと決まってこう言ってのけた。

またある時など、チンピラ同士の任侠沙汰が家の近くで有り、すぐさま現場に駆け付けたお末は洗濯棒であっという間にチンピラ二人ともを延してしまった。


「子供たちが往来する所で刃物を振り回すとはどう言う了見だい!!」

そう一喝してやじ馬から拍手を浴びていた。

以来、そのチンピラたちは仕方なくお末の家の前を通らなければならない時は会釈して通り過ぎるようになった。


「お末母ちゃんには敵わねぇよ。」

周辺の血の気の多い若衆の間でもこう言われ恐れられていたのだった。

そんな豪快なお末が健太は大好きだった。

実の母とは幼少の時に死別していたので尚更『母ちゃん』に対する憧れは強かったのかもしれない。


そんな健太もやがて中学へと進み、『母ちゃん』に楽させてやりたい一心で勉強した甲斐もあり、優秀な成績を残すようになった。

家計は苦しいままだったがおかげで高校も大学も学費免除で進学できることとなった。

入学の度に、どこからか綺麗な和服を借りて来て入学式には晴々した顔で現れた。

当の実子の太郎は健太の家庭教師のおかげでそこそこの高校へ進学は出来たが卒業と同時に働くこととなった。

二人は本当の兄弟以上に強い信頼関係で結ばれていた。


それから20年が過ぎ、健太は大学の研究所で人工知能の開発に取り組んでいたが、ある大手通信企業から研究所所長として破格の年俸で迎え入れたい旨のオファーがあった。

この頃にはお末も徐々に背が曲がり始め『豪傑』なのは口だけとなっていた。

太郎は子沢山な家庭に恵まれたが嫁とお末のイザコザの板挟みで苦労していた。

それを見かねた健太は小さな家を建てお末と一緒に暮らすことにした。

研究に明け暮れ婚期を逃した健太にはそれが一番自然なことに感じていた。


「俺は子育てに失敗したんかのぅ。」

時々寂しそうに呟くお末だったが、健太は実の息子以上にお末を大事にしていた。

そのうちお末も愚痴を言うと返って健太に心配をかけると考えるようになったのか、昔のように明るく振る舞うようになっていった。


それでも体の衰えは隠せなかった。

ある寒い朝、ついに倒れてしまったのだ。

心配した健太は24時間完全看護の大病院へ入院させた。

が、その時、実はお末は末期の難病に蝕まれ、余命数か月だと医師から告げられたのだった。

しかも保険の対象外のために延命するには大金が必要であるとも教えられた。


健太に大手通信企業からのオファーが来たのは丁度その頃だった。

健太は迷うことなく受けることにした。

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