クリスマス・ドールの悲劇
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「あら、いらっしゃい?」
竹子ママは躊躇い気味にあべ君を迎える。
「あれ?あべ君て結婚してなかったっけ?クリスマスの夜にこんな所に居ていいの?」
今日こそは竹子ママとミッドナイトランデブーを決め込もうと気合の入っている僕は、先制攻撃に出た。
「いやぁ、たまにはこんなクリスマスもいいかなあって。」
皮肉をサラリとかわす、どこまでも好青年のあべ君。
そのユトリが僕を更に苛立たせていることに気がつかないのだろうか?
「あら、小野先生も!いらっしゃい。」
優しい笑顔で迎えるママにいつもとは違った、何かを決意したような表情で返す小野先生。
『これは危険だ。小野先生はみんなの間で告白するかもしれない。そうなると後輩の僕は告白しにくくなる。何とかそれだけは阻止せねば!!』
そう思ったのも束の間、小野先生が急に大きな声を上げた!
「竹子さん、ぼ、ぼ、僕と・・」
『言わせるか!!』
咄嗟にポテトの皿の淵に置いてあったケチャップが乗った小皿を小野先生の股間へ転んだフリをしながら押し当てた。
「わぁお!」
変な声を上げて飛び退く小野先生。
「ど、どうしたんだ友澤君!!」
丁度ズボンの『社会の窓』付近はまるで『血の海地獄』と化していた。
「あ~~っ、先生ごめんなさい!ちょっと着替えに行きましょう!僕がズボンをクリーニングしときますから!!」
作戦成功!!
『クリーニングは明日にして、先生が居なくなった隙に僕が告白させてもらいますよ!!』
「あ、いや、おしぼりで拭くからいいよ。」
そう言うとおしぼりで本当に拭ってしまった。
『友澤め、汚い手を使いやがって!ふふふ、しかし今夜の僕は今までの僕とは違うんだよね~。なんせ『恋愛マスター直伝』だからね~。』
「ほんと、すみません小野先生。」
いかにも申し訳なさそうに謝っておく。
「あ、気にしなくて良いよ。あ、ところでママ、あの話は進めていいですか?」
ワケアリ風に新年会の段取りのことを言ってみる小野先生。
「あの話?あ、『あれ』ね?はいはい、先生にお任せするわ。楽しみね!」
竹子ママも意味ありげな回答をする。
『なんだ?なんか物凄く気になる話ぶりだぞ?!』
心中穏やかではない僕。
「よっこいしょっと。」
いきなり僕の右横にドッカリと船長が腰を下ろした。
『え?船長も独身だったの?』
「あ、いつもの。」
竹子ママは聞く前から準備していたような速さで注文のグラスを差し出す。
着物の袖口から白くしなやかな細い腕が船長の前に伸びる。
思わず吸いつきたくなる欲求を堪える僕。
「お前たち、クリスマス・ドールの話を知ってるか?」
徐ろに船長が話し始めた。
皆、隣同士で顔を見合わせたが、どうやら知る者は誰もいなかった。
「俺からのクリスマスプレゼントだ。聞いときな。」
船長の話は簡単にまとめるとこうだ。
『昔、ある村で起きた本当の話しだそうだ。
その村には可愛い娘が一人居た。
娘は気立てが良く、村中の人に親切だった。
当然、村の男たちは皆、彼女のことが好きになった。
しかし彼女が本当は誰を好きなのか、誰も知らなかった。
若い子には良くありがちな話だが、実は彼女はまだ『自分の本当の心』を知らなかったのだ。
言い寄ってくる男は多いが、皆少しずつ良いところと悪いところがあり、特別な男が居なかった。
そのうちに彼女は男どもの心を弄ぶ楽しみを知ってしまった。
その結果、ある晩、村中の男どもは互いに彼女を求めて殺し合いを始めたのだった。
我が子が殺された親たちは怒り狂い、ついに彼女の家に火を放った。
誰にも親切で誰からも愛されたが、誰も愛せなかった結果がこれだ。
それからというもの、その村では毎年クリスマスになるとどんなに用心していても必ず火事が起きるようになった。
それが彼女の祟りだと気づいた村人は、毎年クリスマスになると彼女に見立てた人形を燃やし呪い封じの儀式をするようになったそうな。』
という話しだった。
「この話の教訓は『自分の気持ちに正直に!』ってところかね?」
船長は話を終えると美味そうに酒の入ったグラスを傾けた。
『何?これって私に対するあてつけ?』
内心穏やかではない竹子ママ。
その時、あべ君がスックと立ち上がった。
「僕、自分の気持ちに正直に言います!!今度の水曜日、有給ください!!」
なんの告白???
船長以外の一同はぽかーんとしている。
「おう、いいぞ!思い切り行ってこい!!」
ますます話が見えなくなった皆であった。




