理論馬鹿宇宙人エーコ
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その女は、スルリとデッカイ『餃子』から抜け出すと、壊れた甲板にヒラリと飛び移って来た。
船長は思わず緊張する。
どう見てもこの世の物ではない乗り物で、船にガッツリ体当たりしといて「こんばんわ」と言えば誰でもまともじゃないと思うに違いない。
身構える船長。
『攻撃性のある気は感じられんが、普通じゃない奴だし、油断は出来んぞ・・・』
どんな展開になるか読めない相手に、久しぶりに血が滾るのを覚える船長である。
おおよそ興味のある格闘技は、若い時分に基本は全て体得していたのだ。
そんな船長の思惑とは裏腹にズンズンと無防備に近寄って来る女。
5m・・・4m・・・3m・・・もう2歩も近づけば上段回し蹴りの射程圏内だ。
もう一歩!
バタッ!
突然女はそのまま前に倒れた。
意表を突かれて焦る船長。
「だ、大丈夫か?」
幾ら尋常じゃないとは言え、これだけの衝撃を浴びているのだから怪我をしてない方がおか
しいことにようやく気が付いた。
「・・・った・・」
女は何かを呟いたが良く聞き取れない。
慎重にもう一歩近づく船長。
「どうした?どこが痛い?」
もう攻撃力が残っていないのは明白だった。
むしろ保護してやらなければ危険な状態かもしれなかった。
「は・・・った・・・」
さっきよりは少し聞こえるようになったがまだ十分ではない。
更にもう一歩歩み寄る。
「腹減った・・・」
船長は耳を疑った。
「なにぃ~~~!?」
そこへ誰かが階段を上って来る音が聞こえた。
「何がどうしちゃったんですか~???」
船長はギョッとした。
キッチンなべさんがヨロヨロしながら現れたのだが、船長の目は彼の頭部にくぎ付けになっていた。
真っ直ぐと垂直に大きな刺身包丁が半分くらいまで脳天に突き刺さっていたからである。
「な、なべさん?だ、大丈夫?」
戦慄が走る。
彼が歩くたびに頭部からピュッ、ピュッと血しぶきが上がる。
「え?どうしました?」
まるで普通に話すなべさん。
「腹減った」
女はうつ伏せになったまま顔だけを上げ、髪の毛を振り乱したまま絞り出すように呻く。
さながら地獄絵図かホラー映画の様相を呈している。
「ひえ~~~!お化けは勘弁してくれ~~~!!」
大概の格闘家がそうであるように、実は船長もお化けが怖いのだった。
1にお化け、2に母ちゃん、3、4が無くて5に飛行機の順に怖いものが決まっているのだ。
「こりゃあ交通整理が必要やな。」
いつの間にか母ちゃんが船長の後ろまで来ていた。
「まずは料理をしてくれる子が頭に重傷。もう一人は死ぬほど腹が減って動けん。どっちを先に助けたらいいんか、ケンタロックス?」
母ちゃんは船長にあだ名で呼び掛ける。
過度の緊張を解くための方策である。
船長もそう呼ばれハッと我に返る。
「そうか、これは順列問題か!」
クイズやパズルが大好きな彼は目の前の戦慄を忘れ、途端に思考を巡らせるようになる。
「どちらもどれくらいの重症度か不明。と言うことはリスクをヘッジするには、同程度に助けておけばどちらも死亡と言う事態を避ける可能性が高まるはず!」
そう言うとポケットに忍ばせてあったチョコレートの包みを一つ開け、女の口に運んでやる。
その後、これ以上の出血をさせないよう、なべさんをソファーに座らせ首を固定。
これで今以上に刃物が深く脳を傷つけることは止められる。幸い、彼は自分の状況を理解していないのでパニックは避けられている。
「う・・・う・・・」
チョコを口に入れたまま女は呻き始めた。
『地球の食いものは毒になったか!?』
船長は女の救済を心の中で諦めた。
「う・・・うまい!!」
こけそうになる船長。
「ソイツはこれより旨い料理をするのか?」
震える腕でなべさんを指さす女。
「そうだ。が、お前のせいでこの有様だ。当分は無理だ。救急艇を呼ばなくては。」
船長は、そう言いながら無線機を探している。
「何と下等な・・・これですぐに元通りになる・・・ホレ。」
女はそう言うと緑の目薬容器のようなものをポケットから取り出し、船長の方へ差し出した。




