あべ君の葛藤
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「う~~ん、トーナメント方式のセミナーってのは初めてだしなぁ・・・。でも大手A.I企業だからこそ何か特別なことを得られそうな気もするし・・・。」
A.Iヤッホーバンク主催のセミナー募集広告をテーブルに広げ、腕組みしながらブツブツと思案するあべ君。
今日は祝日なので仕事は休みなのだが、共働きの奥方は休日出勤が入ったとかで朝から居ない。
娘は両親が預かってくれるということになり、いよいよ一人の自由を満喫中のあべ君。
「ん??最優秀参加者は自分のコピーAIロボットが貰える!?」
チラシの下の方に小さな文字で印刷されている一文を発見し興奮するあべ君。
「もし僕のコピーが、年も取らず休みも取らず働き続けてくれたら、僕は何もせずに一生楽して暮らせるかも!?」
もう誰も彼の妄想を邪魔する者は居ない。
「でもなぁ、船長はすぐに見抜くだろうなあ。あの人、怖いくらい人の嘘を見抜く天才だからなぁ。」
「でも見抜かれなかったら、それはそれで相当寂しいなぁ。」
すっかり最優秀者になる気でいるあべ君は、ますます妄想が暴走するのであった。
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「へっくしょいっ!!」
大きなくしゃみをする船長。
「あ~っ!!駒が飛んじゃったじゃないですか!!」
将棋の相手をしているエーコが怒る。
優勢はエーコにあったのだから尚更である。
「あ、すまんすまん。誰かが俺の噂でもしてるんだろう。もう一回やり直しな!?」
言うが早いかさっさと駒を混ぜてしまった。
「あ~~~っ!!私が勝ってたのに~~っ!!」
『イヒヒヒ』とニヤける船長はもう次の駒並べに入っている。
「今度はズル無しですよ!!私が勝ったら『ケセラン羽田』さんの杏仁豆腐を丼で奢ってもらいますからね!!」
食い意地は船内随一のエーコ。
「あ~分かった分かった。バケツでもプールでもいいぞ。さあ、かかって来なさい!揉んでやろうぞ!」
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「ぎゃ~~~~っ!!」
僕は悲鳴を上げた!
「あちこちがコリッゴリッしてますよぉ、友澤さん!ほれっ!!」
小平師匠のギュ~~~っと腰を揉む手に力が入る。
「ふんぎゃ~~~~~!!」
またもや悲鳴を上げてしまった。
「身体のコリは思考のコリですよ!あ~、これじゃあ『思考停止』してるわけだぁ。」
そう言いながらまたもや力一杯に腰を揉む。
「うぎゃ~~!や、やっぱ思考停止ですかねぇ~~~っ!!」
恋の相談に来たつもりだったが、いつの間にか師匠の『リラクゼーションルーム ここち』のベッドに寝かされ、施術が始まっていた。
正確には、施術と一緒に恋愛相談も進行中といったところだが・・・。
「そうですよぉ。最高の相手を『探して』いる間は決して現れませんよっ!」
馬乗りになりながら今度は肩甲骨の下に親指を入れて来た。
「いたたたた、あ、けど気持ちぃ~~、けど、痛いぃ~~~~!!」
なんと表現して良いか分からないが、概ねこんな感じで施術は進む。
「でも師匠は『最高の相手を見つける方法』があるって言ったじゃないですかぁ~~~っ!!?」
痛さからどうしても語尾が叫び声と混ざる。
「昔からこの国ではこう言いますよ。『類は友を呼ぶ』ってねっ!!」
言葉の最後に力を込める師匠のリズムを覚えたので、タイミングを合わせて体の力を抜くと痛みが和らぐことを発見した。
「ふぅ~~っ!でも友じゃなくて恋人なんですよぉ~っ!!」
「友でも恋人でも一緒ですよ。要は『生き方に共鳴した者同士』ってことですよ。船の仲間と同じじゃないですか!」
ボキボキッと背骨が鳴った気がした。
魂の一部がスルッと抜けそうになる。
「まずは自分のオーラを磨くこと。そうすれば同じようにピッカピカの相手が勝手にやって来ますよっ!!」
「そ、そんなもんですかねぇ~~~~~~~っ!!」
海老ぞりに顎を引っ張られ息が出来ない~~~~!!
手を離されバタっと僕の上半身はベッドに倒れた。
なぜか天国が見えて来た・・・・・気がするぅ~~~。
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「決めた!!『しない後悔より、した後悔』って船長はいつも言ってるし!この日はお休み貰おう!!」
鼻息も荒くあべ君は椅子から立ち上がる。
勢いでコーヒーの入ったカップを溢しそうになり慌てて押さえる。
しかしいつものようにオドオドした雰囲気はなく、目にはキラキラと光る希望を宿していた。
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「頼む!一回だけ待ってくれ!!」
懇願する船長。
「ダメです!!さあ、杏仁してください!!」
詰め寄るエーコ。
「ばか、それを言うなら『観念して』だろが!」
いつものごとくエーコの怪しい言葉を訂正する船長。
「どっちでも良いです!!さあ、さあ、さあ!!」
更に詰め寄るエーコ。
「ぐぅ~~っ!!夢も希望もありゃしねぇ~っ!!」
船長の『断末魔』が休日でガランとした船内に響き渡った。
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