戦火の少年
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「太郎!黒杭山に山芋掘りに行こうぜ!!」
昼過ぎだというのに小雪舞う中、健太は嫌がる太郎を引き連れて裏山に山芋掘りに出かけた。
それほど高くはない山だが、空襲に遭った町々は瓦礫の山と化していたために遥か彼方まで見渡せた。
学校では未だ続く敵機襲来の警報が鳴る度に生徒たちは防空壕へ避難するよう誘導され、満更授業どころではなかった。
当然食料事情も厳しく、生徒も教師たちも大半は痩せ細っていた。
そんな時代でも不思議と、それはそれで子供たちは逞しく適応しながら何かしらの楽しみを見つけて生き抜いていた。
彼らにとって、その一つが実益を兼ねた『山芋掘り』だった。
太郎は山芋が苦手だった。
麦飯に、ひげ根を焼いて摩り下ろした山芋をかけただけの『とろろ飯』は、この時代にあっては貴重なご馳走だったが、太郎は決まって口の周りが被れた様に腫れて痒くなるのだ。
健太は栄養価が豊富なこの食材の価値を知っていた。
自分で食べるためではなく主に大人たちに売っていたのだ。
子供の手で半日かけてようやく1本の自然薯が取れるのだが、闇市では白米5合と交換できた。
まともに働いてもそれだけの食料を手にするような現金は手に入らなかったし、何より貨幣そのものが圧倒的な食料不足の前では役に立たなかった。
物々交換の方がよほど効率的だったのだ。
「ぶ~んぶ~んぶ~~~ん」
急に太郎が唸り始めた。
太郎は、小学3年生にしては少々発達が遅れていた。
ただ、その不足部分を埋めるかのごとく聴覚が発達していた。
すぐ近所に住む健太は活発な6年生だが、こちらは活発過ぎて友達は多くなかった。
そんな彼にとっては太郎は弟のような存在に近く、いつも放課後は一緒だった。
「まじか!?聞こえるんか!?やばい!!」
言うなり健太は太郎の手を握ると勢いよく草むらに飛び込んだ。
その直後、突然、山頂を掠めるように巨大な戦闘機が物凄い速度で現れた。
健太は太郎の口を押え、草むらに身を潜める。
戦闘機は1機ではなかった。
空を黒く覆うほどの大軍だったのだ。
やがて市の上空付近に到達した戦闘機たちは、ヒュ~、ヒュ~と風を切り、音を立てて降下する大量の爆弾をばら撒き始めた。
「・・・ウサギの糞や」
まるで現実感を伴わない幻想的な光景に思わず呟く健太。
すぐ直後に爆音が轟き、町のあちこちで火の手が上がった。
「あっ、家が!!」
健太たちの家の辺りからも火の手が上がるのを見つけたのだ。
「母ちゃん!!」
声を潜めながらも叫ぶ太郎。
必死にもがく太郎を抑え、健太は爆撃機が立ち去るのを待ち続けた。
小一時間ほど経っただろうか。
用心のため逸る気持ちを抑え草むらに隠れていた2人だが、もうすっかりエンジン音が聞こえなくなってようやく這い出した。
「お母ちゃん、大丈夫かな?」
太郎は既にこの戦争で7人居た他の兄弟を全て失っていた。
今にも泣き出しそうな太郎を前に健太も同じ気持ちだった。
健太は両親に早く死なれていたので祖母に引き取られていた。
健太も祖母の安否が気がかりで仕方がない。
「走るぞ!!」
泣きたい気持ちを気取られないよう健太は走り出した。
「あ~、待って~、あんちゃ~~~ん!!」
後からベソをかきながら太郎が必死に後れを取るまいと追いかけてゆく。
山道に薄く積もった雪には、小さな足跡が点々と残されていった。




