憎まれっ子世に憚る?!
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「田螺丸、この問題解いてみろ。」
数学教師は、黒板に書いた問題を解けるのはこのクラスにはもう彼以外に居ないと諦めていた。
「・・・はい・・」
陰鬱な表情の田螺丸はゆっくり立ち上がると黒板の前まで歩み寄った。
ほんの数秒ほど問題全体を眺めていたが、静かに黒板右半分の余白に順序良く、小さな文字で式を展開し始めた。
ものの数分もすると黒板はギッシリと書かれた式で埋め尽くされた。
「・・・出来ました」
無表情のまま、教師の反応を確認することも無く自席に戻っていった。
「・・・うん、完璧だ!みんなもこの問題しっかり写しておくんだぞぉ。試験に出すからな!」
生徒達は面倒くさそうに黒板の文字をノートに書き写し始める。
田螺丸は、窓の外の校庭を取り囲む4階建ての校舎と同じくらいの高さに育ったメタセコイヤの木をぼんやり見つめていた。
いや、正確にはその木の向こうにそびえ立つ巨大なビルの看板の文字を眺めていた。
白地に『A.Iヤッホーバンク』と言う赤い文字が、蒼く高い冬空を背景に目立っていた。
教室の後ろの方の席ではクラスでも劣等生の数人が田螺丸目がけて紙つぶてを投げつけていた。
紙つぶては田螺丸の髪の毛にいくつも命中し大きなフケのようになっていった。
そんな様子を教師は見て見ぬふりをしている。
「ふん、僕はこの国を任せられた人間なんだ。お前らのような虫けらは今に捻り潰してやるさ。」
さほど表情を変えず田螺丸は小さく呟くのだった。
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「所長、解析結果が出ました!」
研究員の一人が白髪の男の元へ解析データをまとめたレポートを持って来た。
「これが『もっとも人間に評価の高い』インターフェースなんだね?」
牛乳瓶の底のような分厚い丸メガネの下で、爬虫類のような小さな眼をクルクルと動かす所長。
「はい、ルックスだけでなく、行動理念や行動パターンなども分析しておりますので、このデーターにそっくりな人間を探すことも可能です。」
やや自慢げにも見える若い研究員。
「しかし探し出したからと言って簡単に連れて来ることが出来るかは不確定だ。もし万が一にでも『確保』に失敗し、このことが世間の知るところとなると我々は身の破滅だ。そこはどう考えている?」
冷徹な態度を崩すことなく所長は若い研究員に尋ねる。
「そこも考えております。このモデルとなるタイプは『常日頃から不安を抱え、そのため向学心厚く、努力を怠らない』とのことです。そこで、当社へ彼らから出向いてもらい、そこで『確保』すれば良いかと。」
「彼らから出向いてもらう?」
キラッと丸メガネが光る。
「はい、彼らが好みそうなセミナーを主催し、会場に現れた最も理想的なモデルを確保するのです。もちろん試験方式にして次々と篩にかけて脱落者を会場から追い出すのです。そして最後の一人を確保すれば他に目撃者もいませんので証拠を掴まれることもありません。」
どうですか?と言わんばかりに胸を張る若手研究員。
「なるほど。それで行こう。それともう一つ。ハッカーの方は正体が掴めたのか?」
重みで下がり過ぎた眼鏡を右手で軽く持ち上げ直しながら所長はさらに尋ねる。
「そちらはもう少しです。物凄く頭の良い人物らしく何度も逆探知から逃げられています。それでも我々のM.A.Iに見つかるのも時間の問題かと。」
「そうか。・・・M.A.Iの機嫌はどうだね?」
「はぁ、どんな状態が機嫌が良いと定義すればよいか判りませんが、今のところは安定的に我々の要望に対して忠実に行動しております。ただ、・・・」
口ごもる研究員をジロリと睨みつける所長。
「ただ?何だね?」
冷たく陰湿な響きの声で聞き返す。
「はぁ、これは私の勘と言いますか、感覚と言いますか・・・。アレは何か企んでいるような気がしてならないのですが・・・」
フンッ、と軽く所長は研究員の感想を鼻で笑い飛ばす。
「君の感想は聞いておらんよ。もういい。下がりなさい。」
そう言うと所長は解析資料のファイルをドサッと机に放り、研究員に背を向けて窓の外を眺め始めたのだった。




