母ちゃんと親っさん
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生唾をゴクリと飲み込む船長。
太くゴツゴツした指で1枚のコインを摘んでいる。
「とぉあっ!!」
掛け声と同時に一気にスクラッチ部分を削る。
全てのマス目が露わになった時、船長は思わずコインを床に落とす。
そのことすら気がつかない様子。
「・・・まだか・・・。まだなのか?親っさん・・・」
海図が広げられるほどの広さのオーク材のテーブルには、200円の当たりくじが一枚。
購入金額と同額の当たりくじが10枚に1枚は必ず入っている。
が、彼は毎回1枚しか買わない。
それでもここ数年、毎回きっちり200円を当てている。
この確率はすでに1等を当てるよりも高くなっているとあべ君が以前計算してくれた。
しかしそんなことは船長にとってはどうでも良いことだった。
神妙な面持ちで腕組みをしたまま、深くゆっくりと頷くのである。
「てかさぁ、なんでこれがハズレくじだって言えるんですかねぇ?」
僕はまだ削る前のスクラッチをカウンターバーに持ち込んでいた。
「あ、これはハズレだね。オーラが無いし。」
笹ぴぃー支配人が素っ気無く言ってのける。
「なんすか?クジにオーラって。」
何だか先日のクリーニング長との一件以来、笹ぴぃさんはよそよそしくなった感じがする。
「あ~、これはダメですねぇ。今の友澤さんと同じくらいオーラが無いわ。」
急に話をしだしたかと思えば、結構な毒舌だと判明したケセラン羽田さんも相乗りしてきた。
「ちょっとぉ、つい先日まで『ケセランパサラン』しか言わなかった人に人のオーラの話をしてもらいたくないですよ!」
ムッとする僕。
「いっそ削ったら?」
竹子ママが見かねて助け舟を出してくれる。
「そ、そうですよね?もし当たったらママに何かプレゼントしますね!」
おそらく今の僕なら一等が当たっても全額をママに差し出すだろう。
「あ、じゃあこのコインを使ってください。船長の必勝コインですから。」
あべ君はワイシャツの下から、首にかけたお守り袋を引っ張り出して、大事そうに袋の中のコインを差し出してきた。
「なんですか、その『船長の必勝コイン』って?」
ここの連中ときたらいちいち面倒くさい話しぶりだ。
「船長はもう何年もクジに外れたことがないんです。しかも1枚しか買わないのに、きっちり200円だけ当てるんですよ!」
冷静なはずのあべ君がいつになく顔を紅潮させている。
「どう考えてもありえない確率なんですよ!!だから僕、クジを削るコインに仕掛けがあるんじゃないかと思って貰ったんです。あ、使ったら返してくださいよ!!」
「あ、そっ・・・」
僕はどうでもよさそうにコインを受け取った。
そしてみんなの注目が集まる中、一枚ずつ削っていった。
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「まだなんですか、船長?」
いつの間にか船長部屋のドアのところにはエーコが立っていた。
船長は動じることなく答える。
「ああ、まだらしい。が、それは同時に『俺しか母ちゃんを守れる奴は居ない。』ってことだ。そして俺たちの進路は間違っていないってことでもある。」
力強く話す船長にエーコは肩をすくめながら応える。
「この星は『見えない世界』が幾重にも重なってて面白いですねぇ。」
「そうさ、『見えてるものが全てじゃない』んだよ、この世界は。」
ニヤリとする船長の顔はどこかイタズラ少年のようなヤンチャさがあった。




