料理の本当の隠し味
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「う~寒っ!」
久しぶりに甲板に出てきた料理長の『通称 キッチンなべ』さん。
「中で働いてると季節感が無くなるから良くないよね。なるほど、今はこんな寒さなんですね~。」
半袖の薄い割烹着一枚で寒風の中に立っているが怯む様子はない。
流石に料理人である。
「う~ん、これだけ寒いとやっぱ水炊きかなぁ。」
今夜の献立を思案している様子。
「ぶ、へっくしょんっ!!」
今日も大量の洗濯物をマストに干している僕は堪らずクシャミをした。
「やあ、友澤さん!」
血色の良い笑顔を投げてかけてきた。
「こんちは、なべさん!寒くないですか、そんな格好で!?う~、ぶるる。」
僕は震える手で出来るだけ急いで洗濯物を干そうと懸命だった。
「いや~気持ち良いくらいですよぉ。でも皆はやっぱ寒いんでしょうね?鍋っすかね、こんな日は?」
「そ、そうっすね!できれば鶏鍋でお願いします!あ、胸肉で!」
意見を求められたんだから自分の好みを一応は言っておこうと考えた。
「鳥胸肉ですか!いいですね~。たまには魚介じゃなくて鶏でも使ってみましょうか!うん。」
意外にもすんなり要望が通ったようだ。
キッチンに戻ると早速、大鍋に水を張り、だし昆布ときのこ類を入れ、塩一摘みを振る。
中火で出汁をとっている間に手際良く他の野菜類を次々にカットしてゆく。
やがて鍋のスープがグラグラと沸き始めると先ほどの野菜を根菜類から順次沈める。
もちろん煮立つ前に出汁がエグくならないように昆布は取り出しておく。
そこまでしたら今度は一口大に切った鳥胸肉に塩を軽く振り、指で揉み始める。
「塩は味付けという役割以前に、本来は『素材の味を引き出す』為のものなんだよなぁ。こうして塩を振ってよく揉んでやると肉の旨味が表面に移動してくるし、加熱してもプルップルで美味しんだよ。それに、ちょっとした一手間をかけることで味に差が出るんだよね。」
そんな独り言を呟きながら鳥胸肉を処理してゆく。
「へ~、そうなんだぁ!」
突然背後で声がした。
「うわぁっ!え、エーコさん?また来てたんですか?!」
何やらメモ帳にこちょこちょと書き込んでいるエーコ。
以前、皆の制止を振り切って彼女は朝食に『宇宙味』の味噌汁を作り、乗船員たちを瀕死の重傷に追い込んだことがある。以来、料理を禁止されている。
その後、好奇心旺盛なエーコはしょっちゅう厨房に入り浸っては料理長なべさんに張り付いている。
もちろん『料理禁止令』は解けていないが。
「そうですよエーコさん。この国には『良い塩梅』という言葉があるくらい、味の基本である塩加減や酸味加減をとても重視するんですよ。」
いつの間にか笹川さんまで来ていた。
彼の料理の腕前もなかなかのものではあったが、やはりなべさんの調理法が気になると見えてエーコ同様、何かにつけては厨房に入り浸っている。
「あのぉ、ちょっと調理に集中したいんでお二人共アッチに行ってて貰えますか?」
苦笑いの料理長なべさん。
「えー、ケチィ!」
ふくれっ面をするエーコ。
「何なら僕、手伝いますよ!?」
腕まくりを始めるササピィ支配人。
「あ、いやいや!大丈夫です!僕一人でやりますから、お二人はこれでも食べて待っててください。」
そう言うとお手製のクッキーの乗った皿を棚から出してきて二人に差し出す。
「うほい!特製クッキーだ!!」
子供のように喜ぶエーコ。
「あ、では私が特別に美味しいコーヒーを淹れましょう!!」
言うが早いか自分専用のコーヒーカップを用意し始めるササピィ支配人。
『ほっ!とりあえず邪魔されずに済みそう・・・』
内心胸をなで下ろした料理長であった。




