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洗濯船ハイパー日誌  作者: 田子作
第1章 大いなるアホローチ(序章)
19/101

幕開け

イラスト付きのこの話はこちら↓

http://ideanomi.jp/index.php?%E5%B9%95%E9%96%8B%E3%81%91

昼下がりの公園脇の路上に駐車している白いセダンが一台。


「最近の首相はどうしたんでしょうね?なんか怖い者無しって感じですよね?」


今朝の新聞を広げ政治欄の記事を読みながら20代後半と思われる男が助手席の先輩らしき男に話しかける。


「まあ、前回の『集団的防衛権容認についての国民の信を問う』解散総選挙で圧勝を収めたんだからしょうがないさ。」


ルームミラーで鼻毛の中に混じった1本の白髪を必死に引っこ抜こうとしながら答える先輩男性。


「でもあれは実際は、『ここまで混ぜこぜにした経済を他の経済音痴の政権に任せるよりは現政権に最後まで責任取ってよね?』ってのが国民の大多数の真意だったと思うんですよね。」


「それに選挙の時は集団的防衛権にしても特定秘密漏洩防止法にしてもほとんど触れてなかったし。それを今になって国民の同意を得たって、そりゃないよって気がしますけどね。」


不満げに腕組みしてみせる後輩。


「まあ、政治の世界は勝てば官軍てのが極端に出る世界だからな。」


どこか他人事の先輩。


「確かにまあ国際法上は集団的防衛権てのは合法だそうですから仕方がないとしても、AIロボットの軍事転用はあまりにも乱暴じゃないですかね?」


ますます気難しい顔をする若い男。


「そうか?俺は生身の人間が戦わないんならその方が良いような気もしてるけどな。」


ようやく白髪が抜けて、まじまじと見つめている先輩。


「でも先輩、それって初めだけですよ?いずれ世界中がAIロボット同士で壊し合って、終いには人間の居住区を襲撃するんですから。」


少しムキになって先輩の方を向く。


「戦争になりゃ自衛だろうが侵略だろうが、初めが違うだけで国民が味わう地獄は何も変わらんか。まあ、そうだな。お前、なかなか鋭いね~。」


車の窓を開けて、ふっと白髪を吹き飛ばす。


「それに奴らには感情も痛みも無いんですから、もし暴走したら敵味方どころか人類抹殺てなことだってあり得るんじゃないですかね?僕ら本当にこのままAIロボットの普及の一役を買うような仕事続けてていいんですかね?」


「ははは、AIロボットが映画みたいに自ら暴れだすってか?まあ無いとも言えんがな。そこまでは考えすぎだろぅ。さあ次のアポ先に行くぞ。」


窓を閉める先輩にこれ以上政治の話をしても無駄だと諦め顔の若い男はキーを回しエンジンを吹かす。


ドアに『AIヤッホーバンク』の赤い文字がシールされている車は白い蒸気を吐きながら、落ち葉を吹き散らすように走り去っていった。


雲が分厚い灰色の布団のような昼下がりのことである。


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「要は、一般家庭に溶け込みやすい『どこから見ても敵を作らない好青年』のモデルを誰から取るかということですな。」


白衣の背の低い、分厚い丸メガネの気難しい顔の学者風の男は首相に進言する。


「もし国会でこの法案が流れた場合、既に一般家庭に浸透しつつある人気モデルのAIロボットに外部から改変したアルゴリズムをインストールした上で召集をかければ良いのです。」


猫背の後ろ手に両手を組み、部屋の窓辺までゆっくりと歩みながら続ける。


「しかしそれでは『窃盗罪』など他の法律に抵触はせんかね?」


首相は無表情に尋ねる。


「もちろん『人間がその作業をすれば』その者は法律上罰せられます。が、もしその行為自体も『自分の判断でAIロボットが』したらどうでしょう?」


「なるほど!まだAIロボット関連法案も完全に整備された訳ではないから、大丈夫か!しかしそんな都合のよい事は出来るのか?」


「はい。そちらは問題ございません。我が社の通信網を使えば、今以上に各家庭に普及したAIロボットによるクーデターは成功します。そのためにもどんなインターフェースモデルならもっと普及率を高められるのかと言うところが最大の問題でございます。」


「そのモデルさえ見つかれば我が国は世界に無敵の最強軍を持つことが出来るのか!!準備は出来ているのか?」


「はい、只今、各産業界の顧客データベースや各種SNSなどから顔写真等のデータをハッキングして『メタ統計データ分析』をかけております。今週中にも『最適モデル』の人物像が分かるはずです。」


「そうか!いよいよだな!祖父の代から夢見た『強い国造り』が完成するのは!!」


長い緩い顔立ちの首相は右手で拳を握り興奮してるようだったが、なぜかやはり無表情のままであった。


人の表情を読むのが苦手な工学系の学者でさえ軽い違和感を覚えたようだったが敢えて口にはしなかった。


「それでは今後は直接会わずに回線99で話そう。」


ポケットから黒い携帯電話のようなものを取り出し確認するように見せると部屋を出ていった。


残った初老の学者は、牛乳瓶の底のような眼鏡の奥で小さな爬虫類のような眼を細めてニヤリとほくそ笑むのだった。


窓辺に立つ学者の影は西日を受けて、部屋の反対の壁に達する所まで不気味に延びていた。

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