日出づる故郷(くに)
この話のイラスト付き本サイトはこちらから↓
http://ideanomi.jp/index.php?%E6%97%A5%E5%87%BA%E3%81%A5%E3%82%8B%E6%95%85%E9%83%B7%EF%BC%88%E3%81%8F%E3%81%AB%EF%BC%89
「エーコちゃん?どうなったんかえ?」
母ちゃんは転送デッキチェアーで操縦室に戻ってきていた。
「みんな、どこ行ったんや?」
恐る恐る操縦室から出ると外の様子を確認する。
「母ちゃん!」
爽やかな青年が背後から不意に声を掛ける。
「うわぉっ!!」
驚く母ちゃんは振り向きざまに転びそうになるが、すかさず青年が体を支えた。
「おりょ?お前無事やったんか!?」
母ちゃんは青年に抱き起こされながら顔を覗き込む。
「ここからは僕が案内します。」
母ちゃんの話を聞いてないのか、質問に答える気が無いのか、そう言うと母ちゃんを抱っこしたまま、機関車からジャンプして飛び出した。
着地したそこは見知らぬビルの中。
しかも周囲には飛び散ったコンクリートの塊や倒れた人型ロボットが散乱していた。
「あン子たちは皆大丈夫やったんか?!」
あまりの惨状に心配になる母ちゃんに、あべ君ロボはニコリと微笑で応える。
-----------------
皆はお互いの無事を確認し、博士との挨拶を済ませると部屋を出ようとしていた。
しかしエーコは一人そわそわし始める。
「私、なんか大事なこと忘れている気がする・・・」
船長はエーコのこの呟きを聞き逃さなかった。
「おいおいおい!まだ何かあるのか!?」
慌てる船長と仲間たち。
「はっ!!女将さんを呼ぶのを忘れていました!!」
両手で顔を覆いながら叫ぶエーコ。
メンバーも真っ青になる。
「お前ぇ~、一番大事なこと忘れてるじゃねぇか!!母ちゃんに殺されるぞ!」
皆は一斉に駆け出し、玄関に激突した、洗濯船の乗った機関車へ非常階段を急ぐのだった。
丁度その頃、母ちゃんを乗せたエレベーターは最上階に到着した。
扉が開く直前、ドタドタドタッと駆け抜けてゆく一団がわずかに見えたが、あべ君ロボは何事も無かったように無視したので母ちゃんも気にしなかった。
迷路のような通路を進み、ようやくお末の待つ部屋へ通されたのであった。
「やぁ、あんたがあの子たちの『母ちゃん』だね?はじめまして、こんな形で悪いねぇ。あたしゃ『末』って言うんだ。」
お末さんはあべ君から聞いていた母ちゃんに、今回の件で筋を通しておこうと直接会うことを望んだのであった。
「あんたが今回の犯人?」
人間味溢れるお末の口調に、腑に落ちない様子の母ちゃんは思わず尋ねる。
「ははは、ありゃ出来の悪いあたしの孫の仕業なんだよ。本当に皆には迷惑かけたねぇ。この通り謝るよ。許してくれないかい?」
モニターには大写しになったお末さんの映像が深々と頭を下げていた。
「あン子たちが無事なら俺も言うことは無ぇけど・・・。それより、あんたは人間をどうしたいんかい?返答次第では俺にも覚悟はあるけん、良く考えて返事してくれんかえ?」
そう言うと和服の懐から徐に黒い塊を取り出す。
母ちゃんの右手には手榴弾が一つ、しっかりと握り締められ、左手人差し指は、起爆装置を止めているピンに掛けられていた。
母ちゃんの顔は本気だった。
「あんたぁ、本当に良い母親だよ。安心しな。社会の歪は直すけど、人間に出来ることは人間がするように残しておくよ。後はお互いの息子たちがよろしくやってくれるさ。あたしゃ宇宙とやらの謎を解くのにこの星を出てゆくよ。」
母ちゃんもその言葉を聴いて安心したのか、表情が和らいでゆく。
力を抜きすぎて手榴弾のピンを誤って抜いたまま床に落としてしまった。
あべ君ロボが慌てて拾いに走る。
3・・・2・・・1・・・
爆発する直前に無事回収し、ホッとするあべ君ロボ。
そして何かに気づいた。
「そりゃ、死んだ旦那の形見の手榴弾型携帯灰皿や。爆発なんかせんけん安心しよ。」
母ちゃんも役者であった。
-----------------------
無事全員が合流し、機関車は元の若草公園に戻され、洗濯船も海へと戻されたのだった。
春まだ遠い朝靄立ち込める中、次なる航海に漕ぎ出してゆく洗濯船の甲板には清清しい表情をしたメンバーたちが勢ぞろいしていた。
「で、次はどこへ行くんですか?」
あべ君の奪還という当面の目標をクリアーしたのだが、実際この船は今からどこへ向って行くのかマダ聞いてないことを僕は思い出したのだ。
「別府市の日出故郷にタクを送ってやらんと、可愛いベイビーが待ってるからな。」
『まずは別府市日出町のタクさんの自宅へ彼を送り届けることからか。
ベイビーって、あの絶品のオペラトマトって言うベビートマトのことだよね?でも「ベイビー」って凄く昭和な言い方じゃない?』
そんなことを考えていたら、突然一陣の風が僕らを吹き抜けて行った。
それに連れられて行くかのごとく立ち込めていた霧がスーーーーッと、僕らの進行方向から切り開かれてゆく。
両側に押しのけられてゆく霧の壁、目の前に広がる青く澄み切った大分の海は、朝日に照らされ、僕らの明るい未来を暗示するかのように光の道を映していた。
「出航だぁ!!全員配置に付け!!」
船長の号令が響き渡る。
「おぉーーーーーーーっ!!」
僕らの声はまだ高く蒼い空に優しく解けていった。
・・・エピローグへ続く




