紙の町で、一人
人が紙になってしまう出来事が起こる。
事件なのか病気なのかわからないけれども、いきなり人間が、小さな一枚の紙切れになって、道端や部屋に落ちている。
なんか当たり前のことらしくて、いつ、どこで誰が紙になるのかわからないのに、皆当たり前のように暮らしてるし、旅行に行く。
どうも100万人くらいはすでに紙になって、もういなくなっているのに、怖くないみたい。
なんだか、一人だけそれを怖がってる僕がおかしいみたいな雰囲気だった。
みんな、目の光がない。
紙になってしまったら、それでさようなら。
紙は、誰も拾わなければ清掃業者が片付ける。
それに違和感を持ってるのも僕だけ。
なんか一人だけ違う世界から来たみたいな感じ。
でもあんまりにも町中にゴミなのか、人だったものなのかわからないもので溢れて、僕はできるだけそれを踏まないようにしながら、親友のA君と幼馴染のB子ちゃんと卒業旅行に行く計画を立てながら歩いていた。
はい、A君紙になりました。
その紙は僕が大事に保管してます。
瞳孔開きっぱなしの背の高い女性が突然現れて、その紙切れを寄越せとか、僕も紙になれとか言うので逃げました。
捕まったら、多分紙にされます。整合性ないけれど、そう確信しました。
四国脱出して、本州の臨海工場地帯に逃げ込みました。
従業員が皆紙になって、紙吹雪が舞う石油コンビナートの中を走ってます。通路には元人間だった傷んだ古紙が敷き詰められてます。誰も拾わないのかよ。
ええ、もう余裕ないので踏みます。
電話。
B子ちゃんからです。
「A君知らない?」
「紙になりました」
「あー、そうなんだ」
「悲しくないの?」
「まー、私もその内紙になるし」
「怖くないの?」
「 」
僕の方がおかしいのだろうか。
それから紆余曲折ありまして、人が紙にならない東日本に亡命することになりました。
塵ひとつ落ちてない港で、船を待っていたら、瞳孔開きっぱなしの追跡者がタンカーの上から僕を見下ろしてました。
見つかったので逃げようと思ったら、彼女は両手をあげて見せる。
右手に紙切れ一枚。
左手に、B子ちゃんの携帯電話。
野郎、やりやがった。
紙切れを船の上から落としやがった。
まあ、逃げるべきだったんですけれど、誰も紙に価値なんて認めてないみたいなのですけれども、拾いに行きました。
波にさらわれてなくなる前に拾えました。
表を確認すると、B子ちゃんの名前が書いてあって
「○○君、今までありがとう」
とか書いてあった。
なんか、もうよくわからなくて泣いてしまったら、後ろに人の気配。
多分、振り返ればおしまいなのだけれど、なんかよくわかんなくてしばらく泣いてた。
しばらくして、振り返って、背の高い彼女の瞳孔開いた目を見ようとしたら
目が覚めた。
厭な夢だった。