透明ゾンビ
多分、ゾンビパニック的な夢を見たんだと思う。
見たことも聞いたこともない町のショッピングモールの近くで、見たことも会ったこともない友人(という設定の)達と、人を食う動く死体から逃げていた。
……僕には、そんなもの視えないのだけれど。
まるで廃墟のように人がいない町中を全力で走って逃げ、途中ゾンビに襲われている女の子を助ける。
……僕には、そんなもの視えないのだけれど。女の子が一人腰を抜かして座り込み、目の前の空間に怯えた表情で悲鳴をあげているだけなんだけれど。
とりあえず、横にいた友人が示す方向に向かって歩き、女の子の前らへんで立ち止まり、たまたま腰に佩いていた草刈用の鉈を振り回してみた。「違う、どこ向いて振り回してんだ!」って怒られた。なんだこの西瓜割り。
こうして、5人くらいになった僕達一行は人がまったくいないショッピングモールに逃げ込む。入り込むと、他にも生き残りの人達がたくさんいて、50人くらいになっていた。そのリーダー格が、同級生だった。
どうすんのかなと思っていたら、モールの封鎖をして、救助を待つらしい。
……え? 一画に隠れ家を作るんじゃなくて、モール全部を封鎖スンの? 入口どんだけあると思ってんの?
とりあえず、案内板を見ながら虱潰しに入り口をふさいでいく。
僕は資材を運んだり、作業の遅れている個所やまだ手をつけていない個所をチェックして回る。
……まだこの時点で一度もゾンビを目撃していない。
「来たわ」
途中で助けた女の子が、窓の外を見て呟く。
表の駐車場に、わらわらと、ゆらゆらと、現れるゾンビ達。
……のはずなんだけれど、僕には全然視えない。どこにいんのよ。
そして、正面玄関のバリケードが全然間に合っていない事実。
もう、諦めて一階放棄しない? と言いたかったけれど、友人がまだゾンビが入り口に到着するまで時間があるから、塞いでみせるとか言って走り出した。
へいへい、手伝えばいんでしょ。
追いかけて、正面玄関に到着。
友人が一人必死になんかグランドピアノとか、ポスターとかを入り口に積んでいる。
手伝うが、一階まで下りてきてもやっぱりゾンビはどこにもいない。
透明ゾンビかなんかなのだろうか?
……結局間に合わず、バリケードの隙間からゾンビ侵入、らしい。
友人に位置を教えてもらい、とりあえずそこらへんで鉈を振う。
当たってるのか当たってないのか?
虚空に向かって刃を振り回しながら、果たしてどちらかと思いを馳せる。
ゾンビが視えない僕がおかしいのか
僕以外の皆がおかしくなっているのか
狂っているのは、僕か、時代か?




