伝奇おんころころ 白い化物編
夢の中の僕は、除霊師だった。
と言うのも、薬師如来の真言を唱えている間だけ、この世のものでない存在に触れることができるからである。
つまり、立入禁止の森の中から持ち出された悪霊だの、窓の外にある顔だのを引きずり出し、「おん ころころ せんだり まとうぎ そわか」とか唱えながらマウントかましてフルボッコにして消滅させることができるのだ。
真言唱えながら動くのはしんどい。
なんか、どっかの中学生四人組が入ってはいけないとされる森の奥の廃屋を探検して、あからさまにやばい小箱を開けてしまった。
箱の中には見たことのない文字が書いた紙が貼ってあって、その文字を見てしまった一人の少年が、窓の外から自分達を覗く化物が見えるようになってしまい、発狂。
発狂した少年を連れて全員で逃げ帰った。一人、実家が寺の子がいてその子の御父さんが僕の同級生だったので、助けを求められる。
仕方ないので、霊感のまったくない相棒を連れて、寺を訪れるが。
どうやら、その化物も連れてきてしまっていたらしい。
文字を見てしまった少年が、壁にでかでかとその意味不明の文字を血文字で書きやがった。
僕にも、窓の外からこっちを見ている化物が見えた。
なんだろ、人間大の白いトカゲの、首から上が人間の女? ぬめぬめしてる。
素手で触るのは生理的にきもかったので、厚手のゴム手袋を二枚重ねて装着。
「おん ころころ せんだり まとうぎ そわか」
と叫びながら、その化物の首根っこを捕まえて床に叩きつける。
「おん! ころころ! せんだり! まとうぎ! そわか!」
真言のリズムに合わせてぶん殴るが、あんまりダメージが通ってる気配なし。
しかもこいつ、なんかぬるぬるしてる。
僕の手をすり抜けて、逃げやがった。
仕方なく、追いかけると、老人ホームの中に逃げ込んだ。
建物内を探しまわると、なんか死神がたくさんいる。
(この夢の中では、死期の近い人間の枕元に死神が立つのが見えるようだ)
いくらなんでも、多すぎる。明らかに、あの化物がいるせいだ。
……野郎、殴り殺す。
そんなこんなで、夜が来た。僕は能力の特性上、あの化物に対しては無敵だが、相棒やこの施設内の老人は、やばい。
さて、どうやってみつけようかと思うと、どこからか、グレゴリウス聖歌と鐘の音が聞こえた。
目をこらすと、廊下の向こうから棺桶を引きずりながら黒づくめの大男が、のそのそと歩いて来る。
やばいと思い、真言を唱えていたが、敵意はないようだ。
と、その男が左手を上にして、掌の上で炎をともした。
なに、その術?
彼はその火をカンテラ代わりにして、暗がりを照らしている。
あの火で、見つけるのか?
わからん。
わからんけれど一つわかるのは、あの炎は、僕とは違うシステムの異能だ。
三つ巴の嫌な予感がしたところで、目が覚める。




