怪物と対峙するだけの簡単なお仕事です
ゴーストバスターズの真似事をする夢を見た。
銃火器も、ナパームも、毒物も何もかも効かない、溝水色の不定形生物が時たま町に現れる。視界にいれただけで吐き気を催す邪悪な気配をまきちらし、触手を生やして攻撃してくる。
そいつらを『封じる歌』というものがあって、化物と対峙して、それを聞かせている間だけは身動きができなくなるので、その間に封印するというのが定石。
意外と難しい歌で、ある程度の声量と音感がないと、奴らには効かない。
そういうわけで、就職先のない音大卒業生の進路は大体化物退治屋である。
市役所に勤務している僕は、中高と合唱の手ほどきを受け、つい最近までブラスバンドもしていたためか、周囲の公務員よりも音楽能力が高く、無料化物退治相談に狩りだされることが多い。
いつものようにオペラっぽい旋律で歌詞がJpopな『封じる歌』を歌っていたのだが、最近効きが悪くなっている気がする。
僕が下手になってきた?
いいえ、化物に耐性ができてきたのです。
まずい。この歌が効かなくなったら、今のパワーバランスが狂う。
そこで、僕の小学生時代の友人で、今東京でプロの音楽家(テレビ局等から依頼されたBGMを作ったりしているらしい)に頼んで、効果がパワーアップした『封じる歌remix』を作ってもらう。
怪物が、市内に同時に大量発生。
電話で確認すると『楽譜をメール便で送ったよ』とのこと。
eメールがあるやん。
届くまでの12時間を、旧式の歌で耐えなければならない。
歌い続けるって結構体力使って辛い。
しかも、次々に退治屋が返り討ちにあってるらしく、僕の受け持ち範囲がどんどん広がっていく。
今の歌でもいいから歌ってくれる臨時退治屋を増やそうかとしたら、旧式はなんと楽譜、pないから、歌い方がわからないとかクレームがつく。んなこと言っても、僕も隣町の退治屋から口伝で教えてもらっただけだし。
とりあえず、誰でも歌えるように楽譜に起こそうと思うが、何故か3体の怪物が執拗に僕を狙う。
いやいや。他にもっといい獲物がいるでしょうに。
そいつらから逃げながら、楽譜を作るためにピアノを探す。
たまに、市民が襲われるから、歌って足止め。
そして、再び走って逃げる。
あかん、これは体力きつい。呼吸がうまくできん。喉が渇く。痩せてしまう。
やっとこさ最寄りの小学校の校門をくぐるのだが、一匹追いついてきてしまった。
仕方ない、着いてこられてピアノを壊されては、また別の小学校まで走らなければならない。
1対1。息ぐるして歌える気がしないが、ここで対決しなければならない。
振り返る。そしておぞましい怪物と対峙して
というところで目が覚める。
エアコンの暖房が付きっぱなしだったのが、喉が渇いて息苦しい理由だったらしい。




