12星座別恋愛小説 ~おとめ座~
これはあくまで私の主観で書いたおとめ座像ですので
この小説を読んで気を悪くしたおとめ座の方がおられましたらご容赦下さい。
♍8月23日~9月22日生まれ Virgo♍
*律儀
*細かい
*潔癖症
*人道的
*メランコリー
「荻野目さんってさぁ~、いちいち細かすぎるよね。」
「そうそう、なんだか無愛想だし。」
「あんなんだと彼氏もいないでしょ。」
女子トイレでの陰口の言い合い、そして本人に聞かれているなんてことは
ざらにあったりする。今のこの状況もそうだ。
現在女子トイレの一角では私、荻野目乙菜の悪口で花を咲かせている
同じ職場の女子社員が扉一枚隔てたトイレの中に本人がいることも
知らずに言いたい放題である。
「お客さまもあんまりしつこく言われて辟易しているみたいで
それで私がそこまでしなくていいんじゃないって言ったら何て言ったと思う?」
「何々?」
「私は会計士という仕事に誇りを持っているんですだって、まるで私が
仕事をサボっているみたいな言い方するから腹立っちゃった。」
「な~に~それ、嫌な感じ。」
キャハハハハと大きく笑いながら彼女たちがトイレを去って数十秒後、
ようやく個室から出れた乙菜は大きな洗面台の鏡で自分の顔を覗く。
「私、そんな無愛想な顔しているかな・・・・・。」
真正面にいるもう一人の私は口角が下がり少しばかり目つきが悪い。
まぁ、無愛想と言われればそうといわれても仕方のない顔つきだ、
乙菜は人差し指で一生懸命口端を引っ張り上げる。
「こんな顔じゃ彼氏も出来っこないか。」
彼女らが言っていた通り乙菜はあまりの細かく、生真面目な性格のため
生まれてこの方彼氏というものが出来たためしがない。
もちろん好きな人がいた期間もあるし、告白されたこともある。
けれど元来この性分なため慎重になり過ぎて卒業して結局思いを告げられなかったり
いつの間にか相手には彼女が出来ていたりとそんなことばかり繰り返してきた。
「もう26になるっていうのに。」
「26になるっていうのに、何だって?」
女子トイレの出入り口から男の声が聞こえ思わず振り返ると
そこには壁に寄り掛かりこちらを面白げに見つめる男がいた。
「なんだ、朝倉先輩ですか。」
「なんだとはひどい言い様だな。」
彼の名は朝倉由紀、乙菜の大学時代の先輩で
同じサークルに所属しており現在は同ビルの一階上の弁護士事務所に務めている。
由紀の事務所と同じビルにある会計事務所に偶然入社したことには
お互い驚いていたがそれからというもの由紀と乙菜はちょくちょくと
話したり、飲みにいったりしている。
大学時代から頼りになりみんなのまとめ役だったり相談役だったりした
由紀は今でも乙菜の悩みを聞いてくれたりしている。
理解されにくく真面目な分人より多くの悩み事を抱えてしまう
乙菜には彼のような存在は非常に有難いものである。
「ん?どうしたその顔は。まーた何か言われたのか。」
「別にいつものことですから。」
「荻野目な、仕事をキチッとこなすのはいいことだ。
うん、社会人としてそれが第一だからな、だけどこうもツンケンしているのも
あまりよくないぞ。まぁお前はお前で色々頑張っているんだろうけどもさ。」
「・・・はぁ。」
「ため息ばかりついてると幸せが逃げてくぞ。」
「はい・・、私そろそろ戻りますね。また今度ゆっくりと飲みに行きましょうね。」
由紀と話していると気分が和らぐのを感じる、ついさきほどまでの嫌な気分も紛れた。
彼には人を落ち着かせる能力でもあるのではないかと毎回会う度ごとに思う。
「おうよ、じゃあ今日にでも行くか。」
「いきなりですね。まぁ特に用事があるわけでもないのでいいですよ。」
そして乙菜と由紀はいつもの居酒屋で落ち合うことにした。
約束の時間の15分前、乙菜はカウンターに腰かけ時計を眺めている。
いつもこのくらいの時間には来てくれているのに、とまたもため息がこぼれる。
由紀は相手を待たせることのないようにといつも15分前には来ている、
が乙菜は常にそれよりも早く30分前には来ている。
それが二人の中では当たり前のこととなっていた。
「遅いな・・・、先輩どうしたんだろう。」
乙菜としては時間やお金にルーズな人間は大の嫌いでそういうことは
許せない性質なためいくら先輩といえど少し苛立ちを覚えていた。
約束の時間から30分後、ガララと格子戸の向こうから来たのは
乙菜が待ちに待っていた相手であった。
「悪い荻野目、こんなに遅れるつもりじゃなかったんだが。」
乙菜を見つけるやいなや由紀は彼女に駆け寄りすぐさま謝りだした。
「電話の一つくらいくれればよかったのに。」
電話もメールもないことに乙菜は心底怒っていたが
一応先輩であるためあからさまに顔に出すことはしなかった。
「本当にすまない。」
あんまり申し訳なさそうな顔をして頭を下げるのでもう少し何か言おうとしていたが
乙菜はそれ以上言えなくなってしまった。
「もういいですよ、飲みに行こうって言ったの私ですし。」
「・・・珍しいな。荻野目がそんな簡単に許してくれるとは。」
「失礼ですね、いつも朝倉先輩は約束の時間の前にはいること知ってますし
きっと何かあったのかなって思っただけですから。」
「なんだよ~、謝り損か~。」
「そんなことありませんよ、先輩が一生懸命に謝ってくれたことも含まれています。
私朝倉先輩のそういう誠心誠意な部分好きですよ―――どうされましたか?」
乙菜がいつもの調子で話していると急に由紀が顔を真っ赤にさせて
こちらをギョッと凝視するので何か発言に問題があったのか
数瞬前の言葉を頭の中で思い出してみたが何ら変なところは無かった。
「先輩、もしかして具合が悪いのでしたらお帰りになられても結構ですが。」
「・・・荻野目、お前ってやつは・・・・・。」
由紀は何か言いたげであったが最後まで言葉を紡ぐことはなくそのまま顔を伏せてしまった。
「最近は暑さもだいぶやわらいできましたね。」
店を出ると夜気は真夏の熱気はどこへやらいつの間にかしずしずと秋の気配を感じさせていた。
この間まで咲いていた向日葵が萎れ始めあれほど騒がしかった蝉の声が
聞こえなくなり夏の終わりを徐々に告げ始めていた。
「今日はお付き合いしていただいてありがとうございました。」
「こちらこそ、俺でよかったらいつでも誘ってくれ。」
由紀が乙菜を見ると珍しく真面目な彼女が人の顔をみて笑っていた。
「何で笑ってんだよ。」
「だってたかが大学の後輩の愚痴に付き合ってくれるなんて本当に朝倉先輩は人が良すぎます。」
全く的外れな見解を下す後輩に対し由紀は溜息のほかに口から出るものはなかった。
「俺はそんなにお人好しじゃないよ、いつになったら俺の気持ちに気が付いてくれるんだか。」
「はい?なんか言いましたか。」
「いや・・・、今度はさ飲みにじゃなくて
どこか遊びにいくのもいいんじゃないかって言ったんだよ。」
後半は乙菜の耳には届かなかったが確実に着々と彼女の心の中では
優しい頼りがいのある先輩の存在が広がりつつあったのであった。
二人の距離が縮むのはどうやらもう少し先の話らしい。
今回は更新が遅れてしまいまして大変申し訳ございません。
ぜひ今後とも御贔屓してくださいますようお願い申し上げます(・_;)