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2009年7月26日 診療録(経過情報)

カルテ(精神神経科)42頁目:経過情報

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記載日:2009年7月26日


◆主要症状・経過等:


[Subjective(主訴)]

7/20~7/22 各診察全般

       Ptからの訴えは特になし。

7/23~7/26 各診察全般

       不眠と頭痛を感じる。

<ドイツ語の走り書き>

今週の前半までは問題なかったが23日の朝から投薬変更の影響が現れ始めてKrは軽い不調を訴えていた。

だがまだそれほど深刻な症状でもなくこの先も投薬内容の調整は行なわれるので、しばらくはこのままで様子を見る事にする。

<走り書き終わり>


[Objective(所見)]

7/20PM 29回目のリハビリ実施

7/22PM 30回目のリハビリ実施

7/24PM 31回目のリハビリ実施

<ドイツ語の走り書き>

今回の課題は今までの実施内容の集大成となる通学で想定される移動手段を組み合わせた実施内容を行なった。

スタートする地点の駅は全て同じ自宅マンションの最寄駅と合わせてあり、バスの乗換えを行なう駅は通学で利用可能な駅だ。

そこからバスに乗って商店街へと向かい商店街内で遂行する目的を実行させる。

移動手段についてはもうすっかり慣れた様で落ち着いて行動が出来ていたし、商店街到着後の行動も問題なくこなしていた。

<走り書き終わり>


[Assessment(分析)]

29回目のリハビリ状況分析

  ・電車とバスを乗り継いだ往復移動パターン1

   (行きは川村同行、帰りはPt単独)

    特に問題なく目的を達成。

30回目のリハビリ状況分析

  ・電車とバスを乗り継いだ往復移動パターン2

   (行きはPt単独、帰りは川村同行)

    特に問題なく目的を達成。

31回目のリハビリ状況分析

  ・電車とバスを乗り継いだ往復移動パターン3

   (行き帰り共にPt単独)

    特に問題なく目的を達成。

<ドイツ語の走り書き>

29回目の課題は、川村と同行での電車とバスを利用しての移動後に飲食店で別れてKr単独で帰宅もので、立ち寄った飲食店は一般的なファミリーレストランだった。

このファミレスは今までKrは訪れた事のない場所で、Krは初めて通る道程で周囲を見ながら移動してやがて見知った道まで戻ると終始落ち着いた様子で戻って来た。

30回目の課題は、Kr単独で電車とバスを利用しての移動後に公園で合流して川村と共に帰宅するもので、そこは商店街の外れにあるいくつかのベンチがある広場だけの小規模な公園だった。

この公園は前回と同様に初めて訪れたであり距離が若干あったものの、Krは商店街の入り口にある案内板を確認して公園へと向かい無事に川村と合流していた。

31回目の課題はKr単独で電車とバスを利用して移動後に商店で商品を捜して購入し出発地点へ戻るもので、対象店舗は書店と古書店だった。

以前にあった課題と異なり目的の書籍は絶版で古書店にしか存在しないがそれはKrには伝えておらず、単に購入する書籍名のみを伝えておいた。

Krは最初に書店へ向かい目的の書籍を探していたが見つからず、店員に確認を取ったが見つけられなかった。

その後に案内板まで戻って来て店舗の確認をした後に他の書店を回り、最後に古書店へ向かいそこで目的の書籍の購入を完了させた。

今までで最も時間が掛かった課題となったがそれでもかなりスムーズにこなす事が出来ていた。

これで屋外でのリハビリ課題は全て完了した。

<走り書き終わり>


[Plan(計画)]

7/24AM 科内会議(議事録確認のみ)

     特になし。

7/24PM 全科定例会(ビデオ会議)

     ・特別看護部より投薬改善案の提示

     ・腫瘍内科より新投薬治療案の提示

     ・特別審議会での決議を要求

7/26PM チームミーティング

     ・RVSMの稼働状況定期報告

       特に問題なし。

     ・リハビリ計画の状況報告と今後の方針検討

       復学時生活スケジュールへの移行の周知。

<ドイツ語の走り書き>

7/24の全科定例会では、まず最初に我々特別看護部からプレゼンを行なった。

プレゼンは事前に配布してあった秀逸な資料もあって滞りなく終わり、質疑応答でも白聖会のDrから上がる質問は想定内の反論ばかりで全てを論破出来た。

一方赤聖会側はどうやら様子を窺っているかの様に目に見える反論等はしてこなかった。

こうして投薬改善案のプレゼンは終わり、次に腫瘍内科副部長の高橋准教授による授腫瘍内科のプレゼンが始まった。

プレゼン内容はまず今までのMNTSに対する薬物療法での成果が出なかった理由を、MNTS病原体が癌細胞と同様のMRP1(多剤耐性関連タンパク質1)を発現する極めて強力な多剤耐性菌である点を強調していた。

この報告結果は遥か昔から様々な資料に記されている事なので全く面白みもなく、いつもの言い訳だと大半の同席者達も苦笑している始末だ。

高橋准教授はそんな空気の中で今回はその状況を打破する新薬の開発に成功したと語った。

准教授の説明によれば、国内の製薬メーカーから開発研究の申し出を受けての共同研究の末に、カイトサインの一種が新たなTNF(腫瘍壊死因子)としてMNTS病原体に対して変異を齎す事を発見したのだと言う。

Krの血液から採取したMNTS病原体を注入して発症させたラットの体内に出来たFT内にその成分を注入すると、エフェクターカスパーゼのカスパーゼ-14が活性化しそのFTから産生されたMNTS病原体には従来にはない2つの新たな性質が現れる。

1つは早期毒性化で、本来ならstageⅣのFTから生成開始する致死毒をstage0から生成し始めて短期間で自滅する。

もう1つは寄生対象の変化で、本来なら血液細胞に感染するのがMRP1を発現している通常のFTに対して感染し始める。

その結果変質したMNTS病原体は産生する致死毒をstageⅣ以前のFT内に放出して死滅し、寄生されたFTはその致死毒に因って自壊を起こしてしまう。

変質したMNTS病原体の作り出す致死毒は不完全なもので、その効力は正常なstageⅣのFTの致死毒と比べて強毒性の維持期間が短く弱毒化後は代謝で容易に排除される。

腫瘍内科の見解ではこの致死毒はMNTS細胞の持つPCD(プログラム細胞死)であると位置づけていて、致死毒の産生はアポトーシス小胞が変容したものであるのをその理由とし、カスパーゼ-14がMNTS病原体へとアポトーシスを誘発するのだと結論づけていた。

高橋准教授は最後にこの新TNFをTNF-γと仮称し、これを用いた抜本的なMNTSの治療方法としてPCD誘発治療を提唱した。

説明を終えると白聖会側のDrからは拍手まで上がってその素晴らしい新案を絶賛し、それに対して苛立ちと不満を表す赤聖会側の声が上がる。

赤聖会側のDrからは安全性についての反論を受けると、高橋准教授はこの辺りの問答は対策済みだとばかりに余裕の態度で、現工程は治験のフェーズⅡに達しており健常成人への投与で既に被験薬の安全性は検証済みであると説明した。

更に赤聖会側から共同研究を行なった企業の実名を問われた高橋准教授は、その企業は聖アンナにも取引のある門埜製薬だと回答していた。

赤聖会側のDr達はまだ色々と異議を唱えていたがそれらは吠えているだけの無意味な反発でしかなく、やがて時間となり腫瘍内科のプレゼンは終了した。

その後に西園寺の仕切りに戻ってこちらの要請だった特別審議会の要請が協議されたが、これは復学を実現する為には必須であると理解した院長からの各科への圧力もあり賛成多数で可決された。

最後に特別審議会の日程を8/7に開催すると決めた後、腫瘍内科の提案については通常通り来月の全科定例会にて決議を行なう事を確認して全科定例会は終了した。

<走り書き終わり>




◆処方・手術・処置等:


先週から引き続き投薬調整の実施。

来週よりリハビリ最終工程に合わせた夏期講習日程演習スケジュールへと移行。

<ドイツ語の走り書き>

全科定例会終了後すぐに退院したばかりのシャーリーンへと連絡を取り、腫瘍内科のPCD誘発治療案の資料のデータを送って詳細についての確認を依頼した。

最初はまた文句を言い始めた赤毛女は治療案が新薬に基づいている事を聞くとすぐに了承して電話を切った。

あれに任せておけばあのプランの粗も見出せるかも知れない。

次に野津へと連絡を取り共同開発を行なった門埜製薬について尋ねると、聖アンナではそれなりに取引のある中堅企業らしい事が判った。

だが昔から色々と噂のある企業だとも話しており現状の詳細を確認して後日報告してもらう事にした。

これで後は綻びを見つけ出せる事を期待するしかないか。

<走り書き終わり>




◆備考:


夏期講習日程演習スケジュール(7/27~8/9まで適用)

 開始  終了 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 日曜日

 --:-- 06:00 起床  ←   ←   ←   ←   ←   ←   

 06:00 06:30 診療  ←   ←   ←   ←   ←   ←   

 06:30 07:00 朝食  ←   ←   ←   ←   ←   ←   

 07:00 08:00 自由  ←   ←   ←   ←   ←   ←   

 08:00 08:30 自由  ←   ←   ←   ←   通院  自由  

 08:30 10:00 勉強  ←   ←   ←   ←   通院  自由  

 10:00 11:00 勉強  ←   ←   ←   ←   通・昼 自由  

 11:00 12:00 勉強  ←   ←   ←   ←   診C1 自由  

 12:00 13:00 昼食  ←   ←   ←   ←   診C2 昼食  

 13:00 14:00 勉強  ←   ←   ←   ←   診C3 診療  

 14:00 15:00 勉強  ←   ←   ←   ←   診C4 自由  

 15:00 16:00 診療  ←   ←   ←   ←   診C5 自由  

 16:00 17:00 診療  通院  診療  通院  診療  診C6 自由  

 17:00 18:00 自由  通院  自由  通院  自由  診C7 自由  

 18:00 19:00 夕食  通・夕 夕食  通・夕 夕食  ←   ←   

 19:00 20:00 診療  診A1 診療  診B1 診療  診C8 診療  

 20:00 21:00 自由  診A2 自由  診B2 自由  診C9 自由  

 21:00 22:00 入浴  ←   ←   ←   ←   ←   入浴  

 22:00 24:00 就寝  帰宅  就寝  帰宅  就寝  帰宅  就寝  

 24:00 --:-- 就寝  ←   ←   ←   ←   ←   ←   




<ドイツ語の走り書き>


独り言……


来週から移行するスケジュールは復学後の時間に合わせたものだ。

夏期講習の日程に合わせて若干適応曜日をずらしているが基本的には月~金曜日までの日中は学校で土日祝日を休日とする。

今までの様に治療が中心の生活から学校生活を中心とした時間配分へと変わるのでその分治療時間とKrの自由時間は減少している。


ただ実際にこの通りに毎日行なえるのかと言えばそれは難しく、良くて70%程度の出席率にしかならないと想定している。

体育や体力を使う様な学校行事も当然全て欠席となるし、Krの体調に問題があればこちらの判断で強制的に欠席させるからだ。

勿論Krの体調に問題がなく見学でも構わないから出席を望むのであれば、こちらは止める理由はないので私の予想以上に通う事が出来るのかも知れない。


常駐管理チームのリーダーとしては欠席率が高い方が安心なのだが、Krの神経精神科専属医としては次なる目標へと進む為にも学校でのKrの行動をより多く知りたくもある。

ここは強くジレンマを感じるところであるがやるべき事はKrの同意書の意志に基づいて、出来うる限り通学を可能とすべく体調管理に徹する事になる。

後はKrの意志と体調次第と言う訳だ。


腫瘍内科のPCD誘発治療案についてはまだ時間もある事もあり、もう少し情報が集まってから考えようと思う。

だが何となく感じるのは、それほど理想的な効果となる治療が有り得るのかとても信じ難いのだが、そんな夢の様な話に仁科院長が強い興味を持っている事だ。

溺愛する一人娘の治療となると僅かなミスすら厳罰とする一方でこの様なうまい話に誘われてしまうのは、あの院長の欠点であり人間味でもあると言ったところか……


<走り書き終わり>



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