2009年7月19日 診療録(経過情報)
カルテ(精神神経科)41頁目:経過情報
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記載日:2009年7月19日
◆主要症状・経過等:
[Subjective(主訴)]
7/13~7/19 各診察全般
Ptからの訴えは特になし。
<ドイツ語の走り書き>
先週に引き続きKrからの訴えは特になかった。
ここに来てリハビリの効果が出始めてこれまでの経験が新たな行動に対しても精神的な耐性になり、不安からの体調悪化を防ぐ結果になっているのだろう。
せっかく落ち着いたところでまたも投薬内容の変更を行なわなければならないのは残念だが、逆に安定状態から始められるのだと前向きに捉えておく事にする。
<走り書き終わり>
[Objective(所見)]
7/13PM 26回目のリハビリ実施
7/15PM 27回目のリハビリ実施
7/17PM 28回目のリハビリ実施
<ドイツ語の走り書き>
今回の課題は一般的な通学には必須の通行手段となる電車の利用の実践を行なった。
通常運行をしている一般路線を使用するのは出来ないが、だからと言って聖アンナの財力でも鉄道路線の新設は出来ないので、休止した貨物線を一時的に借り受けて整備を行い用意された。
なので元々駅はなかった停車場等に駅を建設しておりローカル線の駅の様な簡素な構造ばかりになっているが、一応複線で上りと下りそれぞれの運行も可能だし、分岐箇所も1ヶ所だけだが存在し乗り換えの課題も行なう事が出来る。
この様に前回のバスと比べ物にならない程の設備を用意しているが、Krが行なう事としてはそれほど変わらないのでこちらも問題なくこなす事が出来ていた。
今回の乗車率は実際に利用する事になる路線の時間帯に合わせて一律135%としたが、この点もそれほどの問題とはならなかった。
どちらかと言うと電車利用よりも駅に入るまでの行動の方が手間取った様に思える。
<走り書き終わり>
[Assessment(分析)]
26回目のリハビリ状況分析
・乗り換えのない電車の利用
自動改札で戸惑いを見せていたが特に問題なく到着した。
27回目のリハビリ状況分析
・快速から各駅への乗り換えを行なう電車の利用
乗換駅を通り過ぎていたが最終的には目的地に到着した。
28回目のリハビリ状況分析
・路線変更の乗り換えを行なう電車の利用
券売機で手間取ったものの目的地に到着した。
<ドイツ語の走り書き>
26回目の課題は乗り換えのない電車の利用であり、これは復学時の使用路線と同等の構成でもある。
自宅マンションから復学予定の凪高等学校までの駅の設置数と各駅名や料金も合わせてあり、スタートした駅から6つ先の駅が目的地となっている。
駅まで同行した川村が駅前でKrへと財布を渡して目的地となる駅を伝える形式は前回のバスと同様。
今回は財布に定期券を入れてありそれを使用して駅構内に入るのだが、自動改札の様なゲートはKrにとっては見慣れないもので戸惑いを見せていた。
しばらくエキストラが出入りしているのを眺めて確認し無事に入る事が出来た。
その後は下りの二番ホームで各駅電車へと乗車して6つ先の駅まで行き下車し、無事に目的の駅に到着した。
所要時間は約45分で、本来は平均30分程度の工程だが最初の改札で手間取った分時間が掛かっていたものの、概ね成功と言える結果だった。
27回目の課題は快速から各駅への乗り換えを行なう電車の利用であり、Krが使用する路線でも存在するが学校と自宅マンションのある駅はどちらも停車駅なので、どちらに乗っても問題はない。
しかし今後の健常者としての生活をする中で途中駅に降りる事もあるだろうし、一般常識として乗り換える行為を知らないのは宜しくないのもあってここで実践させた。
今回Krへと渡したのはプリペイドカードと現金の入った財布で、あえてカードの残高が不足しているものを用意した。
Krはスタートの駅に着いてカードを使用して駅へと入った。
前回とは逆方向へと向かう快速電車に乗ったところまでは良かったが、目的の駅が通過駅であるのに気づかなかった様で、乗り換える駅ではドア付近に移動しても降りはせずに目的の駅を通過した。
Krは電車が止まらないので動揺して対応出来ずにいたものの、それも5分をすると落ち着いて来て次の停車駅で降りて反対のホームから各駅の電車へと乗り換えた。
この際に最初に来たのはまたも快速電車でそれには乗らずにやり過ごしていた。
目的地の駅を出る際に残金不足で改札に引っ掛かりここでも動揺を見せていたものの、近くにいた駅員に事情を説明して清算を済ませていた。
結果としては若干遅延はしたがミスにも冷静に対処出来ていたと判断する。
28回目の課題は路線変更の乗り換えを行なう電車の利用で、この回では現金のみを渡して切符を購入しての電車の利用をさせた。
前回カードへのチャージも出来た事から券売機の端末にはもうなれた様であったものの、目的地までの料金の確認と切符の購入で時間が掛かっていた。
この仮設路線では勿論乗り入れはないのだがあえて券売機は実際に使う駅のものと同様である為に、他の路線乗り入れも表示されているものを設置していたので戸惑ったのだ。
今までで最も時間を掛けて駅構内へと入ったKrは、そこでのロスはなく乗り換え自体は順調にこなし間違える事なく目的の駅に到着した。
今週の様子を通して考えると大勢の他人に囲まれる状態もかなり慣れつつあり、順調に社会適応のトレーニングが進んでいると実感した。
この課題では一般的な社会をシミュレーションしているので他人からKrへと接触してこないからこなせている面もあるだろうが、その訓練よりも社会常識の習得を優先しているので当工程ではこれで目的達成とする。
<走り書き終わり>
[Plan(計画)]
7/17AM 科内会議(議事録確認のみ)
特になし。
7/19PM チームミーティング
・RVSMの稼働状況定期報告
特に問題なし。
・リハビリ計画の状況報告と今後の方針検討
シャーリーンの投薬改善案の説明。
<ドイツ語の走り書き>
7/19のチームミーティングでメンバーへとシャーリーンの投薬改善案について説明を行い、問題となっていた感染症対策が解決する事を伝えた。
前回のミーティングでは難色を示していた大山も改善案の内容を確認してようやく納得した様だ。
今後はこの改善案を夏期講習の開始する8/10までに実施可能とするべく上へと働きかけるのと同時に、この案の実施を踏まえての投薬調整を行なう事を決めた。
更にこの資料は院長秘書室経由で仁科院長へと既に提出済である事も付け加えた。
ただしこの提出時に西園寺から、特別看護部は通常の期限内に資料提出する事が出来ないのかと小言を言われたのはもちろん伏せておいた。
それと今月のリハビリ課題消化後に夏期講習に合わせた生活スケジュールへと移行する事も伝えた。
これは復学時の生活スケジュールと同様のものであり、二学期からの復学を焦点に合わせた事前準備でもある。
学習時間を学校の時間帯と同じにして場所もKrの部屋ではなく他の生徒役のエキストラを入れた教室を用意して行なう形式に変更する。
この擬似教室はマンション内の一室を使用するので登下校までは行なわないが、最も問題となる他者に囲まれた教室内での授業を体験させておくのは重要だと判断している。
だがこの時点では内容の精査が完了していないのでこの措置でどこまでKrに耐性がつくかと言えば何とも言えないものの、何もしないよりはいいだろう。
<走り書き終わり>
◆処方・手術・処置等:
症状軽減の為の抗不安剤投与を調整しつつ継続。
予定通りリハビリ計画を続行。
<ドイツ語の走り書き>
14日の夜に西園寺からメールがあり、各科へと事前配布する全科定例会資料のチェック依頼が送られて来た。
ご丁寧に大量の指摘内容全てに修正箇所へと併記してある添削付きの真っ赤な資料が。
文面の最後は、修正内容に問題がなければ私の確認完了を受け次第各科へと事前配布を行なうので、早くばら撒きたいなら急いで確認しろという内容の丁寧な形式的文章で締め括られていた。
シャーリーンの纏めた飾り気のない只のデータ集から見事なプレゼン資料へと変貌していたのには脱帽だ。
私も多少は加筆修正はしておいたがそれはデータ集の合間に説明文を付け加えた程度でしかなかった。
こう言った編集技術は流石院長の雑用をこなす為にいる秘書室だと言わざるを得ない。
あれでもう少し愛嬌と親しみやすさがあって隠す気のない溢れ出る傲慢さがなければ申し分ないのだが天は二物を与えなかったと言う事か。
無論こんな事は西園寺本人には口が裂けても言えない。
西園寺の挑戦的な文面に反抗心が湧いてしまい、この夜は睡眠時間を大幅に縮めて全ての内容を確認し朝方には確認完了の返信を返した。
そしてこの後は僅かな達成感と多くの後悔をしながら少しばかりの仮眠に入る事になった。
16日にまたミハイルからのメールがあり、てっきりまだ療養中の赤毛女の状況報告かと思いつつ本文を確認した。
冒頭は推測通りシャーリーンの様子について書かれていて、今ではもうすっかり元気になりいつまで入院していなければならないのかとヒステリックに叫んでいるらしい。
体力面ではもう十分の様だが体力低下時の感染症検査と薬物の副作用の検査で引っ掛かっている様だ。
こちらはその程度の他愛もない内容だったが、次の内容はかなり重要なものだった。
それは腫瘍内科が次回の全科定例会で何か新たな治療案を提示すると言うものだ。
この科は今までKrの治療に関して専門の科でありながら研究も治療も成果を出しているとは言えず、過去も大きな問題を引き起こしている。
今回その汚名返上を望むまでに自信のある提案らしい。
まだ詳細が判らないので何とも言えないが新たな情報があればすぐに知らせる様に返信しておいた。
後はこちらの弊害とならない事を期待しておく事にする。
<走り書き終わり>
◆備考:
特になし
<ドイツ語の走り書き>
独り言……
今まで多忙さ故にあまり目を向けてこなかった復学後のKrについて考えてみた。
復学後に最も問題となるのは学校生活で発生する他の生徒との人間関係なのは明白だ。
通常の健常者であれば良い人間関係を構築する様に努力を促がす事になるが、Krの場合は目的の友人以外への対処をする余裕はないだろう。
いかに聖アンナの権力を行使してもその影響下にあるのは大人までで、社会の権力構造など理解しないかまたは意図的に無視や破壊する反抗期の若年層には無意味だ。
校内の授業中では教師の支配力なんて今時の生徒の主張が全面的に優遇される状況では皆無に等しく、Krに何かあれば首が飛ぶと判っていても担当教師には不測の事態を阻止する力は出せないに違いない。
と言ってあの用心棒の大男が終始教室にいるなんて状態は、あくまで普通の生徒として友人と再会したいと望むKrからすれば、それでは学校生活は成り立たない。
だからある程度は問題が発生するのを覚悟で復学する事になり、これは同意書にも明文化されている事項でもある。
復学が無事に叶い学校生活が始まったら、果たしてKrは次に何を望むのだろうか。
やはり友人との交遊関係を回復させて友人として関わっていく事であろうか。
私としてはそれだけで終わるとは思っていないし、恐らく事実としても終わりはしない筈だ。
Krの復縁を望む意志の強さを考えると相手の友人に望むのはもっと大きな依存に思えるからだ。
友人への執着心と依存性が増大した時の友人の反応が、Krにとって望ましいものであろうとそれとは反対のものであっても、このままのKrではいずれ大きな問題を生む様に感じる。
とにかくその段階ではこの友人こそが重要な鍵となるだろう。
<走り書き終わり>
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