2009年7月12日 診療録(経過情報)
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2012/08/12 誤植修正 対処療法 → 対症療法
カルテ(精神神経科)40頁目:経過情報
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記載日:2009年7月12日
◆主要症状・経過等:
[Subjective(主訴)]
7/6~7/12 各診察全般
Ptからの訴えは特になし。
<ドイツ語の走り書き>
新たな工程に入る割にKrは動揺もなく体調面への影響も現れていない。
これは抗不安薬の投与もあるだろうが、先月に実施したフラッティングの効果も高いのではないだろうか。
この体調を維持出来ると良いのだが。
<走り書き終わり>
[Objective(所見)]
7/6PM 23回目のリハビリ実施
7/8PM 24回目のリハビリ実施
7/10PM 25回目のリハビリ実施
<ドイツ語の走り書き>
本工程の課題は単独社会行動対応であり、Krの自己判断力や健常者として必要な単独での行動力を習得させるものだ。
実施内容は復学した健常者では当然必須となる通学での主要な移動手段の公共交通機関の使用で、今回は市営バスの利用を実践する。
いくらずっと入院してきたからと言ってもバスが何たるものであるかやその利用方法について、Krは知識として把握しているのは確認済みだ。
それが正しく行動に反映出来るがどうかによってKrの適応能力が測られる。
当然このバスは外装と内装は全て滅菌処理が施された抗菌素材で改造された特注車両であり、運転手や同乗客役のエキストラも前回と同様の処置をした人間で構成している。
まだ本当の意味での公共の場には出せないKrの為に、先月利用していた商店街の付近に停留所を用意した。
今回は川村の付き添いはバスの停留所まででそこでKrに降りる目的の停留所を指示してから、プリペイドカードと現金の入った財布を渡して単独でバスに乗車するところからスタートする。
このバスにKrが乗車した後、川村は先にゴール地点となる停留所に向かいそこで待機し、他のスタッフは不足の事態に備えて別の車でバスの後を追って同行する。
この車両での同行には、Kr専用のDCとHEMS及びRVSM受信装置搭載車両の実践配備テストも兼ねている。
本工程でKrに問題がなくてもこちら側で問題が発生すれば来月に予定されている最終工程の実施は難しくなり、本計画の最終目標の達成が危ぶまれる事に繋がるので今回はそちらの方も気が抜けなかった。
今回の課題はもう前回で他人との接触に免疫がついたのか比較的無難にこなしていたし、同行車両についても問題なくテストを終えた。
<走り書き終わり>
[Assessment(分析)]
23回目のリハビリ状況分析
・一種類の運行しかない停留所でのバス利用
最初は落ち着かない様子だったが無事に目的地に到着した。
24回目のリハビリ状況分析
・複数の運行がある停留所でのバス誤乗車
周囲の他者をかなり気にしながら目的地に到着した。
25回目のリハビリ状況分析
・途中で路線乗換えを行なうバス利用
乗り換えの停留所を乗り越したが最終的には目的地に到着した。
<ドイツ語の走り書き>
23回目の課題は単独の運行路線しかない停留所から乗車する単純なバス利用のパターンを実施した。
乗車した後は5つ先にある目的の停留所まで乗車したのちに下車するだけの簡単なものだ。
乗客も乗車率50%と少なく座席にも余裕があるので、Krは乗車するとすぐに空いていた後方の一人掛けの座席に座った。
最初のうちは車内のアナウンスが流れる度に軽く驚いていたり、不安げに説明内容を確認すべく聞いている素振りもあったものの、Krは全く問題なく対応出来ていた。
24回目の課題は乗車する停留所に2つの運行路線がある停留所での利用時に誤ったバスに乗車してしまった場合を想定したパターンで、わざと逆方面のバスへと案内させて発車後暫くしてからそれを気づかせて、想定外の状況下での対応力を見るものだ。
スタートして最初に来るのは目的地には向かわない路線バスだが、あえてそれに乗るように指示を出してKrを乗車させた。
乗る前に気づかれては意味がないので乗車前の段階では目的の停留所を通らない事は判らない様に細工している。
この日のバスの乗車率は100%でKrが乗り込む時は立っている乗客が少数と合席の片側が多少空いている程度に設定し、その後に乗客が増えて全ての座席が埋まる様にしていた。
Krは合席には座らず途中まで車内前方の場所で立っていて、途中で目の前の乗客が降りた時に席に着いた。
その後アナウンスを耳にして停車する停留所に目的地がない事に気づいたKrは、もう一度アナウンスを確認した後に一度下車して停留所で確認してから、無事に反対方向のバスに乗車し直して目的地へと到着した。
更にこの回では渡した財布には現金しか入っていなかったが、支払いも問題なく対応出来ていた。
25回目の課題はバスからバスへの乗換えを行なうパターンを実施した。
このパターンではそれぞれの乗車区間を短く設定したとは言え途中で乗換えがあって乗車が2回に分かれるのと、この日のバスの乗車率を150%に設定してKrには過酷な状況を作り出した。
これは朝の通学時間帯の利用状況を再現した乗車率であり、この課題の対応力を見てバス利用の可否を見定める狙いも含まれていた。
それともう一つの課題として残高が不足するプリペイドカードを渡しており、予想外の事態での対応力も確認した。
結果的にKrは目的の停留所に辿り着きはしたが、本来の下車予定の停留所では降りられず乗り越した上での到達であった。
目的の場所で下車出来なかった動揺もあってか、降りる際にもカードの残高不足で動揺してしまい支払でもかなりもたついていた。
やはりKrの安全面や体調面を考慮すると込み合うバスの利用は難しく、不測の事態が発生した場合の対処の面でも厳しい事から、極力徒歩での移動を行なわせるべきか。
いくつかの指摘箇所もあったが、この週の課題は今までに比べてかなりの好成績となったのは間違いない。
<走り書き終わり>
[Plan(計画)]
7/10AM 科内会議(議事録確認のみ)
特になし。
7/12PM チームミーティング
・RVSMの稼働状況定期報告
特に問題なし。
・リハビリ計画の状況報告と今後の方針検討
抗不安薬併用での症状緩和しながらのリハビリ継続を決定。
<ドイツ語の走り書き>
7/12のチームミーティングでは、大山から翌月のリハビリ最終工程に向けての対応に関して質問が上がった。
その内容は感染症対策に関する事で、3月末の免疫増強薬での対応ではKrを滅菌処理されていない一般社会環境に出す許可を呼吸器内科が認めないのではと言う指摘だった。
現在の抗不安薬での対症療法では厳しい事は勿論私も判っていて、その為に当初からシャーリーンへと投薬見直しの指示をしておいたのだ。
今の無駄に大量な投薬が整理出来れば今まで禁忌として服用出来なかった抗菌薬・抗真菌薬・抗ウィルス薬等の抗生物質が使用可能となり、それで免疫系の改善を行い健常者と同じ生活環境でも滞在を可能にする予定でいる。
ただあのドイツ女には色々と別件を依頼したのもあり、私の推測よりもそのプランの完成は遅れているのも事実で、次の全科定例会がぎりぎりの最終期限になるだろう。
もしシャーリーンの改善案が間に合わなければ、8月の夏期講習出席日数と外出時間を大幅に縮小して、その代わりに夏期講習参加の予行演習として実施されるマンション内で用意した教室での疑似体験授業で済ます事になる。
雰囲気を体感するだけであるならそれでも良いのだが、この夏期講習にはKrの友人が出席しており遂に訪れる直接再会出来る貴重な機会を減らすのは非常に惜しいと私は考えている。
だから何としてでもこちら側の不手際で出席日数を減らすのは避けるべく、強引にでも改善案を捻じ込むつもりだ。
それをこの場で大山の問いに対する回答として説明して一応の納得をさせた。
<走り書き終わり>
◆処方・手術・処置等:
予定通りリハビリ計画を続行。
症状軽減の為の投薬を継続。
<ドイツ語の走り書き>
12日の夜にミハイルからメールが届いていて、その内容はシャーリーンが投薬見直しを完了させたと言う知らせだった。
どうして本人ではなくミハイルが伝えて来たのかと疑問に感じて、すぐにシャーリーンの携帯へと連絡を入れると何故かミハイルが出た。
ミハイルの説明では今シャーリーンは急患として治療を受けているそうで、どうやら連日の無理が祟って見直しの完了と同時に倒れたらしい。
その原因は単なる寝不足と過労なので大して問題はなく、この後すぐに改善案の概要はメールで送り詳細な資料はサーバに上げておくとミハイルは語って電話を切った。
その後しばらくして送られて来たメールの資料を見ると私の想定していた以上の減薬であり、これが実施出来ればかなりの余裕も作り出す事にも繋がる筈だ。
この投薬のマージンが大きいほどに様々な症状に対しての対応にゆとりが生まれる事になる。
資料には減薬を踏まえての抗生物質投与の計画もいくつか記載されており、これで夏期講習参加での問題は解決出来る。
更に各診療科毎の投薬移行プランもあり、これがあれば対応可否の確認や影響調査を理由とした返答の先延ばしもかなり抑止出来そうだ。
後はこの改善案を全科定例会に通さなければならないが、移行期間を考えると最短でも20日は掛かる。
慣例の翌月の決議を待っていては8月末に承認となりとても復学に間に合わないので、今回は特別審議会を開くしかないか。
これは我が上司である仁科院長に働きかけて、各科へ賛同を促がす揺さぶりも含めて対処を依頼しよう。
後は夏期講習までの間に新たな問題が発生しない様に計画を進めておくだけだ。
<走り書き終わり>
◆備考:
特になし
<ドイツ語の走り書き>
独り言……
今月のフリードリヒ教授からのメッセージが気になったのもあって、Krについて改めて考えてみた。
現状は体調面での問題も先月の回復以降出ておらず、リハビリ計画の進捗もやっと順調になりつつあると言える。
それを踏まえた上でのあのメッセージだと考えると、やはり未だに見えていない友人への執着の事だろうか。
これは今までのKrにとっては再会の実現こそが前へ進む為の目的であるのだから、もはやこれ無しには全てが成り立たない程の重要な要素なのは明白だ。
この精神状態を単なる患者としてDrの立場から見ると、DPD(依存性人格障害)の可能性を考える。
しかしこれは依存対象になる相手との接触の状態をみて判断すべきであり、現段階での判断は時期早々だと思える。
他で気に掛かっている事象としては、箱庭療法にかなりの頻度で登場する宝箱の中身だろうか。
鍵がかかった小さな宝箱の中には中に何かが入れられているのは間違いないが、その中身が何なのかと開く為の鍵の隠し場所、どちらも判らないままになっている。
用具のメンテナンス業者に依頼すれば所詮は玩具の鍵なのだから開錠は容易いのだが、中身を開けて知ってしまった状態でKrに対して知らぬ振りをして対話し続けるのは気が引けるのでしていない。
これは秘密にしているのを勝手に暴く良心の呵責の所為と言うよりは、私の知らない振りが看破された時のリスクを恐れている為である。
Krは特定の他人以外に対しては全く興味を持たないが、今までの対話で鋭い洞察力を見せる場面もあった事を踏まえている。
これは自主的に説明をし始めるまでは慎重に扱わざるを得ない箇所だ。
後はKrの性格の変化についてであろうか。
色々な証言を考えると幼少時代のKrは自己中心的で我侭な性格であったが、ミュンヘンでの治療後は大人しく従順な性格へと変わっている。
これは思春期を迎えての精神面の成長や進行する投薬治療の副作用も大きいのだろうと捉えている。
こちらに関してはシャーリーンの改善案が適応されればいくつかの副作用も改善されて、次第に本来の性格が顕在化して行く面も確認出来るであろうかと思われる。
いずれにしてもまだ現段階ではどれもはっきりとは判らなかったり、答えを出せないものばかりだ。
これらの疑問点はこれからも引き続き課題として心に留めて置くしかないか。
<走り書き終わり>
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