2009年5月17日 診療録(経過情報)
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カルテ(精神神経科)33頁目:経過情報
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記載日:2009年5月17日
◆主要症状・経過等:
[Subjective(主訴)]
5/11~5/14 各診察全般
先週よりも強く頭痛・胸痛・腹痛を感じる。
5/11AM 朝食後診断
リハビリの実施を休みたいと訴える。
5/15~5/17 各診察全般
投薬後は前にあった症状が軽くなってきた。
だがよく眠れなくなったのと何となく体がだるく感じる。
<ドイツ語の走り書き>
今週の前半は先週でのリハビリで受けた苦痛の所為で体調面も悪化しKr本人の意思も挫けてしまい、4回目のリハビリ実施日である5/11ではリハビリを休みたいとの意思表示も見られた。
しかしそれは同意書の同意内容からも到底受理出来るものではなく、現状のリハビリを嫌がる程度の事ではその意見は通らない。
それにスケジュール的にも全く余裕はないのもあって、現状のKrの意思を無視してリハビリは実行した。
この様な強制措置は本来私のポリシーとは完全に反するものだが、他ならぬKr自身のオーダーであるから致し方なく遂行せざるを得ない。
Krの要求を満たす為にKrの意思を拒絶しなければいけないと言うのは、正当性に対する強い疑問と矛盾を覚える。
<走り書き終わり>
[Objective(所見)]
5/11PM 4回目のリハビリ実施
5/13PM M.I.N.I.(簡易構造化面接法)及びDSM-Ⅳ-TRに因る診断
5/15PM 5回目のリハビリ実施
<ドイツ語の走り書き>
5/1に行なった4回目のリハビリでのトレーニングは前回最も顕著に症状の現れた年齢層である10代以下の未成年を中心に、更なる詳細な発症条件を確認すべく様々な組み合わせでの検証を行なった。
服装の違いに関しては、制服・一般的な外出着・室内着やその世代でありがちな衣装等でのKrの状態変化を確認した。
装飾の違いに関しては、化粧やアクセサリーの有無でのKrの状態変化を確認した。
性別の違いに関しては、男性と女性でKrの状態変化を確認した。
容貌の違いに関しては、髪型や特徴的な顔立ちや表情でのKrの状態変化を確認した。
体格の違いに関しては、体型の違いでのKrの状態変化を確認した。
発声の違いに関しては、声の音程や声量の違いでのKrの状態変化を確認した。
これらの項目を10歳未満と10代の各グループに割り当ててKrの状態変化の確認を実施した。
なお、装飾に関しては10歳未満では一般的にはあまり有り得ないとして、確認対象から除外している。
この検証作業ではまたしてもKrを追い詰める状況になり、明らかにKrが嫌がり苦しがっていても続ける様に指示を出し続けた私へと、何度も止めようとした川村は若干の怒りを露にした表情をしていた。
しかしそれでも強行させた結果としてはかなり興味深い結果が得られたので、実に有意義な確認であったと言える。
Krに無理をさせた甲斐もあったと言うものだ。
<走り書き終わり>
[Assessment(分析)]
4回目のリハビリ状況分析
・10代の男女各10名と相手主導で5分間の会話
服装の違い:反応に目立った差異は無し
装飾の違い:反応に目立った差異は無し
性別の違い:反応に目立った差異は無し
容貌の違い:反応に目立った差異は無し
体格の違い:反応に目立った差異は無し
発声の違い:反応に目立った差異は無し
・10歳以下の男女各10名と相手主導で5分間の会話
服装の違い:反応に目立った差異は無し
装飾の違い:(確認対象外)
性別の違い:女児の場合の反応に変化あり
容貌の違い:髪型の違いで反応に変化あり
体格の違い:標準的な体系に若干反応
発声の違い:より高音に若干反応
M.I.N.I.及びDSM-Ⅳ-TRでの診断結果分析
重度のPD及びSADと診断。
5回目のリハビリ状況分析
・20代・10代・10歳以下の男女各5名と相手主導で2分間の会話
20代:10人中1人の応対に何らかの支障が発生
10代:10人中5人の応対に何らかの支障が発生
10歳以下:10人中2人の応対に何らかの支障が発生
<ドイツ語の走り書き>
4回目のリハビリの結果はとても興味深いものになった。
Krの反応は2つに分かれていて、ひとつはより幼い対象に対してのある程度特化した対象に対しての強い反応と、もうひとつは同世代に対する全般的な反応だ。
10歳未満のグループの中では特に最も幼い5歳前後の髪の長い女児に、拒絶とは異なったどちらかと言えば動揺に近い反応が見られた。
10代のグループの方でも10歳前後の幼い相手らにはある程度の反応があったが、これらはKrの小学三年当時の友人と似た髪の長い女子に反応していたので、大した問題ではないと思われるが5歳前後の容姿でも反応する点はまだ良く判らない。
同グループの同世代に当たる高年齢の層にはバリエーションに因る反応の違いは殆んどなく、全般的に関わる事自体を強く忌避している様に見えた。
この二つの異なる状態は因果関係はあれども今となってはそれぞれ別の精神疾患として顕在化していると思われる。
特に幼児に対する反応はKrが幼少期での出来事に起因すると考えられるだろう。
5/13PMはリハビリは行なわずに5/11のリハビリ結果から想定される病状を確認する為にM.I.N.I.とDSM-Ⅳ-TRに因る診断を実施した。
これらの診断でもやはり重度のPD及びSADであるとの診断結果となり、Krの症状は精神的な疾患であると正式に診断した。
後は過去に関する正確な情報との照合なのだが、川村にもKrへと確認させているがKrはあの時以降まだ自らあれ以上の事を語ろうとはしない。
やはり箱庭からその心境を導き出すしかないか。
5回目のリハビリでは再度3回目の構成と同様の内容を、PDのパニック発作の抑止の為の抗うつ薬と予期不安の軽減の為の抗不安薬を投与して臨んだ。
以前と比べると投薬量は1割程度だが効果は出ており、まだ10代以下の相手に対して即座に対応出来ていなかったり動揺をみせる場面もあったが、一応対話は最後まで完了させていた。
これで今後のリハビリ計画続行についても一応の目処がついた。
<走り書き終わり>
[Plan(計画)]
5/15AM 科内会議(議事録確認のみ)
特になし。
5/17PM チームミーティング
・RVSMの稼働状況定期報告
特に問題なし。
・リハビリ計画の状況報告と今後の方針検討
投薬に因る副作用発生を警戒しつつ計画通りに続行を決定。
<ドイツ語の走り書き>
5/17のチームミーティングでは現行の投薬治療で発生しうるリスクである副作用に関してのスタッフへの周知を行なった。
シャーリーンの投薬プランで起こり得るのがSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の投薬開始期に発生するAS(賦活症候群)やアカシジアだ。
Krは今まで三環系や四環系等の向精神薬を投与されていたのでSSRIは全く処方されてこなかった。
恐らくこの方針は新薬を使用しての禁忌や未知の副作用発生を恐れての事だろうと考えられる。
この慣例をシャーリーンのプランで始めて打ち破っている。
予期せぬ容体悪化は聖アンナの聖人達としては俗人たる私の支配する部署の失墜に繋がり、都合の良い展開だと捉えているのは間違いない。
それに繋がる話ではないのだろうが科内会議自体は大した議題もなかったのにこの夜に野津から連絡があり、どうやら赤聖会が何か動きがあるらしいとの事だった。
まだ具体的な内容は判っていないらしいのだが、Krに対する新たな治療計画であるのは間違いない。
後日古賀にも確認してみたがこちらに張り付きになってからは以前の様に聖アンナの赤聖会の情報は入っていない様だ。
赤聖会の動向についてはどのみち月末の全科定例会で判明するだろうし、今はそれを考えている場合ではなくKrのリハビリに専念しなければならない。
<走り書き終わり>
◆処方・手術・処置等:
予定通りリハビリ計画を続行。
症状軽減の為の投薬治療を継続。
<ドイツ語の走り書き>
5/11の聖アンナ通院時にシャーリーンに依頼していた発作軽減とKrの投薬プランの確認を行った。
シャーリーンはきっちりと伝えた期限までにこれ以上は望めない最良のプランを作成していて流石に教授が送り込んで来た人材だけはあると感心した。
但しその為に相当頑張った感は隠し切れておらず、髪はボサボサだし目の下にはくっきりと隈が出来ていて目は虚ろだった。
それなのに態度と言動だけは相変わらず虚勢を張っていて、大した事はない仕事だったと語ったのを見た時には思わず吹き出しそうになったが、赤毛女のプライドを尊重して何とか堪えて平静を装った。
いつもならここで向こうの口車に合わせてしまうがここは素直にその成果を認めて褒めてみると、シャーリーンは私からの労いの言葉が相当意外だったらしくしばらく呆けたような顔をしていた。
その時の表情はいつもの眉間に皺を寄せた目つきの悪さもなく、こうしてみると普通の20代のドイツ人女なのだと改めて気づき飾り気のない年相応の女の顔をしていた所為か思わず目を引いた。
その後シャーリーンは調子が狂って混乱したのかしどろもどろな言動を口走っていたのだが、どうやら照れていたらしいのが夜に届いたミハイルからのメールで判った。
やはりこのドイツ女は扱いやすい相手だ。
<走り書き終わり>
◆備考:
特になし
<ドイツ語の走り書き>
独り言……
先週に色々と仕掛けたKrの過去に対する問い合わせについての確認結果が戻っているのだが、やはり予想通りで何処も情報を持っていない。
特別看護部からの返答はそういった情報は管理対象外で保持していないと言う素っ気無いメールで、それでも調べたいのであれば電子カルテを自分で検索して探す許可申請を行えとの事だった。
まあ無意味なのは明らかなのもあるので、これは暇そうな神経精神科の人間にでもやらせておく事にしよう。
伊集院経由でこちらの依頼を聞いた野津からの返答は、古いカルテを漁らせてはみたが当時の神経精神科の立ち位置がMNTSで発症するKrの精神的症状軽減に特化しており、それもどうも記載内容は都合の良い事象のみしか記されていなかったと説明していた。
やはりこちらも予想通り役には立たなかった。
仁科院長からも別段特別な通知等もなく、私からの暗に助力を乞う行動は黙殺された様だ。
こうなってしまうとかなりお手上げに近い状態になりつつある。
神経精神科で把握出来ていないと言うのが何よりも問題なのだが、聖アンナはそう言う歪んだ病院体質なのだから今私が何を喚こうとどうしようもない。
何かどこかに情報源は残っていないものか……
<走り書き終わり>
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