2009年2月21日 診療録(経過情報)
変更履歴
2011/07/04 誤植修正 大川 → 大山
2011/07/15 小題変更 2月16日 → 2月21日
2011/07/15 記述修正 記載日:2009年2月16日 → 記載日:2009年2月21日
2011/07/15 記述修正 バレンタインデーについて → 先週末のバレンタインデーについて
2011/07/28 記述修正 箱庭療法の実施。 → 7回目の箱庭療法の実施。
2011/08/18 誤植修正 例え → たとえ
2011/08/22 誤植修正 位 → くらい
2011/12/22 罫線はみ出し修正
2011/12/22 最下行罫線追加
2012/01/11 記述修正 (1).作成した作品の検証結果。 → (1).作成した作品の検証結果
2012/01/11 記述修正 (2).作成した作品の分析結果。 → (2).作成した作品の分析結果
カルテ(精神神経科)21頁目:経過情報
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記載日:2009年2月21日
◆主要症状・経過等:
[Subjective(主訴)]
特になし。
<ドイツ語の走り書き>
今週の問診でもKrは特に気になる所はないと話した。
少し雑談でも振ってみようかと思い先週末のバレンタインデーについて触れるがKrは全く反応せず、それよりも約束の方はどうなっているかを私へと尋ねて来た。
その時のKrの表情からはとても強い焦燥感を感じたのもあり、この状況を改善しておく為に現状について話が出来る範囲の説明として、退院に向けての対応方法を検討している所だと話した。
Krは真剣に私の話を聞いていたがまだ大して進んでいないのが判ると目に見えて肩を落としていたが、すぐに箱庭を作ると自ら言い出して作成に入った。
<走り書き終わり>
[Objective(所見)]
7回目の箱庭療法の実施。
<ドイツ語の走り書き>
Krは今回もテーマや構成を決めている様で、前よりも更に手際良く作業をしていた。
作成開始が早かったのもあり30分近く診療時間が余って作品は完成した。
完成したところでKrへと今回の作品名を尋ねるとKrは『夢』と答えた。
今回は時間もあるのでこの作品について幾つか質問を行った。
Krは私の質問に対して迷いもなくほぼ即答で回答した。
このやり取りの間Krは説明をする際の作品へと目を向ける以外は私を見据えていた。
<走り書き終わり>
[Assessment(分析)]
作成した作品の検証及び分析。
(1).作成した作品の検証結果
箱庭の右側に黒い砂を入れて、箱庭の右下を中心とした箱庭の3分の1くらいの大きさの陸地を作った。
箱庭の左側に少量の白い砂を入れて、左上の一角に小さな陸地を作った。
棚から城・悪魔・怪物の人形・鉄格子・月・雨雲を持って来た。
右側の陸地の右下隅に城を置き、その手前に怪物の人形をバラバラの向きに全て置いた。
悪魔を城の上に置いた。
城と怪物達を包囲する様に隙間なく鉄格子の壁を三重に並べた。
右側の陸地の右上隅に月と雨雲を並べた。
棚から鮫と枯れ木をあるだけ持って来た。
右側の陸地に枯れ木を点々と置いた。
中央の海峡に鮫を点々と置いた。
しばらく右側の陸地を眺めてから鉄格子の囲いに一箇所ずつ隙間を空けて、城から砂浜まで障害物をかわしながら砂浜まで進む曲がりくねった線を引いた。
棚から太陽・虹・女の子・学校・小屋・灯台・ボートを持って来た。
左側の陸地の左上隅に太陽と虹を並べて置いた。
左側の陸地の中央に小屋と教会を並べて置いた。
左側の陸地の右下の海岸に灯台とボートを置いた。
灯台とボートの間に二人の女の子の人形を向かい合わせに置いた。
※Ptの説明
小屋は一人の女の子の家。
教会はもう一人の女の子の家。
二人の女の子は親友。
元々家に住んでいる女の子はずっと右側の黒い島にある城に囚われていた。
『家の女の子』はそこから逃げ出してボートで海を渡ってここに辿り着いた。
『教会の女の子』が灯台の光で逃げ出した女の子をこの白い島へと導いた。
この箱庭は灯台から出て来た『教会の女の子』と、黒い島からボートで逃げて来た『家の女の子』が再会したところ。
(2).作成した作品の分析結果
右側の黒い島や城は悪魔の人形をその上に置いたり月と雨雲で夜を表している点から、Ptにとって好ましくないものを象徴している。
それに対して左側の白い島は太陽や虹等を配置している点から、Ptにとって救いや希望となる好ましいものの象徴。
黒い島の城の外にいる怪物や三重の鉄格子や海峡にいる鮫はPtにとっての願望への障害を象徴している。
灯台の灯りは逃げて来た『家の女の子』を導く光でありそれを灯している『教会の女の子』は『家の女の子』にとっての唯一の味方である。
黒い島から白い島へと逃げ出した『家の女の子』はPt自身の投影した姿であり『家の女の子』の行動はPtの願望を表している。
『教会の女の子』は救済と赦しの象徴であり『家の女の子』を黒い島から物理的に救い囚われた経緯や逃げ出した罪と言った精神的な赦しを与える、つまり黒い島の住人達の命令を破る存在である。
実は『家の女の子』と『教会の女の子』は同一人物で女の子は自分の意思で自分を救い出しているのである。
Ptが望んでいるのは現状からの離脱であるがそれに立ちはだかる障害は怪物・鉄格子・鮫と沢山あり困難極まりない。
たとえそれが赦されていない望みであっても周囲に反対される行動であっても、どうしても達成したいと言う強い退院への願望をこの作品は表している。
<ドイツ語の走り書き>
Aでは分析結果について退院こそがKrの願望であり、強く望むKrの意思を象徴しているかの様に記載しているが、あれは退院を実現させる為の言わば嘘だ。
私の推測ではあの『教会の女の子』はKrの反抗心の象徴ではなく、バウム画に現れていた『白い木の実』と同じ唯一の精神的な拠り所だろうと考えている。
まだKrの過去についての確認が出来ていないので何とも言えないが、自分と同じ女の子の人形で表していた点を考えると同年代の友人ではないかと思える。
しかし5歳前後だとするとたしかKrが退院していた期間は10歳の時なので、そうなるとこの病院内で誰かに会っていた事になる筈だ。
余力が出来たら特別病棟内にその頃同年代の入院患者がいたかどうかを確認しておこう。
<走り書き終わり>
[Plan(計画)]
先週の課題に対する状況報告。
次世代医療研究開発センターの長谷川室長に因るRVSMのプレゼンと質疑応答。
<ドイツ語の走り書き>
今回の科内会議では先週に割り当てを行ったKr退院策の状況報告と草案の確認を早々に行って、依頼をしておいた次世代医療研究開発センターの長谷川室長に因るRVSMのプレゼンを実施した。
このプレゼンの内容は既に私は全てを把握していた、と言うよりもこのプレゼン内容は私が監修した内容だ。
先週に長谷川室長へと連絡した時にアポイントを取った先方での説明会の際に、古賀と共に詳細な情報まで確認を行い、そしてこの装置がKrの退院案の有力な手段に成り得ると確信した。
適用での最大の問題であるインプラント手術については、古賀に技術的な確認を依頼して各種センサーのインプラントについて先方と検証した後、手術プランの策定を依頼して先に戻らせた。
その際に極力以前の手術痕を開腹する形の腹腔鏡手術で行い、インプラント手術で新たな傷痕を増やさない様にする考慮も要望として追加しておいた。
私はと言うと引き続き長谷川室長へと次の科内会議でのプレゼンの内容について、改善箇所を指摘して内容を改善する様に依頼した。
こうして私の要望通りの形のプレゼン内容になったものを私は改めて確認したと言う訳だ。
長谷川室長はあの四都大の一つである北都工科大学出身の技術屋で、装置としての技術の解説は問題ないが営業的なセンスに欠けていた。
そこを私が手を加えてより承認されやすくなる様にプレゼン内容に調整を行った。
以前にあった脳科学統合研究センターのプレゼンの様なただ不利な情報を隠して誤魔化す様な浅はかな改竄ではなく、本業である精神科のスキルを生かして表現や言い回しを工夫してアピールポイントを強調しウィークポイントを目立たない様にしておいた。
これによってどうも押しの弱くて突っ込みどころの多かったプレゼン内容はかなり改善された筈だ。
現にその改善効果はありいつもなら白聖会の不利益に繋がる事なら全否定で挑んで来る片山准教授もなかなか攻めどころを見出せずにいたが、かなり悩んだ後に2点ほど質問と問題点を指摘してきた。
これも私の計画通りで敢えてそこに突っ込みどころを作り、他へと目が向かない様にしておいた。
当然この陽動には完璧な反論も用意しておいたので片山准教授はそれを聞いた後は何も有効な質問や指摘は出せずに閉口し、こうしてRVSMはKr退院案の有効な手段として施術を推進する事に決定した。
この後に全科定例会で少しでも有利な情報を提供する為に事前にKrへとRVSMのICの実施を行うと告げてから、予め私が纏めておいた退院時の診療計画案を配布した。
それに目を通した片山准教授は予想を上回る内容だったからか、通る筈がないと考えての余裕か反論は無く終わった。
私はそれを確認してからICの同意が取れた段階で次回の全科定例会へと退院案を出すと宣言し、それまでに抱えている課題について修正案提出を命じた。
科内会議では楽勝だったが全科定例会ではこれほど楽には通らないかも知れない。
片山准教授や他のDrにはそれで対処出来たが今回改めて聞き直すとまだ改善の余地がある箇所も幾つか見つけたので、それは後日に長谷川室長へと指示をして修正させる事にした。
RVSMはこれで良いとして感染症問題が依然としてノープランのままだ。
これはフリードリヒ教授からの連絡が頼りなのだが未だ反応が無い。
もう少しの所まで来ていると思うのだが最後が詰め切れていない点に不安を感じる。
<走り書き終わり>
◆処方・手術・処置等:
RVSMを含めた退院の為の治療計画のIC実施を来週に予定。
<ドイツ語の走り書き>
科内会議の後日に大山から連絡があった。
退院時の診療計画案は科内会議の前日に作成して、白聖会的にどう判断するかを確認すべくその日のうちに大山へとメールで送っておいた。
その添削結果が送られて来たのだ。
大山の判断でも本当にあの項目全てを実施出来るのであれば白聖会側としても文句はつけ辛いレベルだろうと言った後に、ただしKrがあれを認めるとはとても思えないがと付け加えた。
更に大山は続けて仮にあれが通ったとしてももう一つの懸案である感染症問題までは、あの治療計画であっても対処としては足りないだろうと語っていた。
出来ればこの診療計画でそこも何とか許容範囲になればと期待していたので、この大山の指摘は私にとってかなり痛かった。
更に気掛かりな事を大山は言っていて、片山准教授が呼吸器・感染症内科のDrと連絡を取っているらしいと言ってから彼はあまり信用しない方が良いと助言された。
ただでさえ手一杯なのにそこまで警戒しなければならないのか、全く気苦労は耐えない日々が続く、実に頭が痛い。
こちらは最善を尽くすだけだと答えてから大山へと幾つかの情報提供の依頼をして電話を切った。
<走り書き終わり>
◆備考:
退院時の診療計画案
24時間常時診断を実現する為の措置として下記の3点についてPtに承認を要求する。
1.常駐管理チームに因る体調管理
24時間の容態管理体勢でPtの容態を随時監視する。
チームはPtと同居若しくは隣接する住居に常時待機。
容態急変発生から3分以内にPtの居場所に急行可能とする。
2.随時検体検査を可能とする為の措置
下記の被検査物に対して現状以上の頻度での検体検査回数を実現する。
目標として最低週一度以上の定期的な検体検査を可能とする。
排出時期が不定のものは排出時に採取を行う。
※それぞれの採取頻度についてはPtの容態に合わせて随時調整する。
血液 定期的にRNが一部採取
リンパ液 定期的にRNが一部採取
髄液 定期的にRNが一部採取
経血 排出時Ptが全量採取
膣分泌液 定期的にRNが一部採取
穿刺液
胸水 定期的にRNが一部採取
腹水 定期的にRNが一部採取
関節液 定期的にRNが一部採取
消化液
唾液 定期的にPtが一部採取
胃液 定期的にRNが一部採取
胆汁 定期的にRNが一部採取
膵液 定期的にRNが一部採取
腸液 定期的にRNが一部採取
排泄物
鼻汁 排出時Ptが全量採取
喀痰 排出時Ptが全量採取
汗 排出時Ptが一部採取
尿 排尿時Ptが全量採取
糞便 排便時Ptが全量採取
3.消化器系の異常早期検出を可能とする為の措置
消化器官内で任意に移動・停止が可能なCCE(操作式カプセル型内視鏡)を使用。
定期的な経口摂取で常時複数のCCEを保持する様に管理する。
4.RVSMの施術によるモニタリング
EEG(脳波) 頭皮下に電流感知センサー埋め込み
P (脈拍) 血管に隣接する箇所に振動感知センサー固定
R (呼吸) 気道に気体流量センサー埋め込み
BP (血圧) 動脈内に圧力感知センサー埋め込み
BT (体温) 体温測定箇所に温度感知センサー埋め込み
体内音 異音感知する臓器・器官に集音センサー固定
m(心雑音)・RS(呼吸音・BS(腸雑音)等
体外音 皮下或いは表層部付近に集音マイク埋め込み
Ptを中心とした半径1m内の会話を確認可能
5.loce(意識消失誘発)の実装
RVSMの機能で任意に施術者の意識を消失させる機能。
Ptの精神的容態急変時にloc(意識消失)を誘発させ生命危機を抑止する。
仕組みは体内に埋め込まれた即効性の降圧薬を遠隔操作で静脈に注入する。
使用する降圧薬については現状の治療計画に照合して検討を行う。
loce作動は常駐管理チームの責任者が状況判断し使用を決定する。
<ドイツ語の走り書き>
独り言……
私が作成した退院時の診療計画案はKrのプライバシーや人権を完全に無視しているもので、QOLを著しく低下させるのは間違いないだろう。
RVSMは非常に小型化された各種センサーを体内に埋め込み常時容態監視を可能にする装置で、一般的なVSの感知以外に振動や体内・体外の音声までも取れる。
これを取り付ければ24時間自分自身が発する声や音全てが保存されてDrの肩書きを持つ人間に聞かれる事になる。
排泄物はほぼ全てを検体として提供させられる、尿や糞便だけでなく膣分泌液や経血までも全てを。
更にはloceで本人への意思に関係なくDrの判断で意識を奪う事も行われる。
これを思春期の年代のKrに適用するのは羞恥心と屈辱で死ぬより辛い事にもなるのは重々承知だ。
だがここまでやらなければ白聖会側を黙らせる事は出来ないだろう。
それにきっとKrはこれだけの苛烈な悪条件であってもICに同意すると信じている。
Krにとって退院とその先にある目標は何を犠牲にしても得難いものの筈だから。
<走り書き終わり>
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