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2009年1月10日 診療録(経過情報)

変更履歴

2011/07/04 誤植修正 大川 → 大山

2011/07/14 小題変更 1月5日 → 1月10日

2011/07/14 記述修正 記載日:2009年1月5日 → 記載日:2009年1月10日

2011/07/14 記述修正 今月より → 今回より

2011/12/15 罫線はみ出し修正

2011/12/15 最下行罫線追加


カルテ(精神神経科)15頁目:経過情報

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記載日:2009年1月10日


◆主要症状・経過等:


[Subjective(主訴)]

食欲がない。

不眠や頭痛が酷くなっている。

睡眠薬の増加を希望。

鎮痛薬を希望。

<ドイツ語の走り書き>

Krの様子はSからも問診時の様子でも明らかに先週よりも悪化している。

新年の挨拶をしてみるが一切の関心を示さず何の返答もない。

問診中Krは終始苦しそうな表情をしていた。

<走り書き終わり>


[Objective(所見)]

ナラティブセラピーの実施。

<ドイツ語の走り書き>

今回よりKrの症状改善を目的としたナラティブセラピーの実施を行う。

これに因って原因となっている葛藤を解決するのが目的だ。

その手法としてはNLP(神経言語プログラミング)をベースとした対話によるラポールの構築を目指す形になる。

そう言う意味ではまだ本格的なカウンセリングと言うよりは、その前段階での現状の精神分析の後に行う予定だった、Krとの関係構築を最優先へと変更しただけだ。

実施前では感情鈍磨による無表情よりはましと言う程度の強い焦燥感を表した表情であったのが、カウンセリング後には大分表情も穏やかなものへと変わっていた。

今までのKrとの対話でもNLPを意識しての会話は終始行っていたが素の現状を分析したかったのもあって、Krへの態度は極力中立を維持する様に心がけていた。

しかし今回からは、よりKrの側に即してその心情を汲んだベクトルを持った対応に切り替えている。

具体的な治療内容はNLPの基本であるラポール構築のテクニックである、ミラーリング・ペーシング・キャリブレーション・バックトラッキング等を用いての対話だ。

私がNLPを選択している理由は過去の実績のある療法から体系づけられている点からである。

NLPとクライエントの意思が反映された主体的な世界を尊重するナラティブセラピーと組み合わせて、古来からあるセラピストがクライエントへと諭し指示する様なタイプの精神療法ではないカウンセリングを行っている。

私はクライエントの感情を薬で操作する様なやり方も、旧態然とした時代錯誤な観念に当てはめただけの判定と治療と言う形での認識を強いるだけのやり方も嫌いだ。

人間はある事象に対して10人いれば10通りの論理と感情があって然るべきで、それがどうして普遍的なたったひとつだけの選択が正しいと言えるのかと、常に疑問を持っている。

増してやそのひとつの認識を10人に対して、個人の意思を否定しこれが唯一正しいと刷り込む様な行為は間違いであると考えている。

だからこそKrにはKrとしての価値観や認識を薬に惑わされない状態で外に向けて発して欲しい。

そこからが本当のカウンセリングのスタート地点であるのだから。

<走り書き終わり>


[Assessment(分析)]

ナラティブセラピーの実施結果に対するPtの精神分析。

<ドイツ語の走り書き>

今回のカウンセリングではKrは私の態度の変化に気づいてはいたものの、まだ心情を語ってくるところまでは至らなかった。

だが反応はあり効果が出ているのは実感した。

もう少し話し出しやすい状況の構築さえ出来れば、後は自主的に告白するだろう。

この分であればそう遠くない時期に目標は達成出来ると確信している。

これが達成されればSの緩和が期待出来る筈であり、今回Krの希望している投薬の増量や追加は見送る予定。

<走り書き終わり>


[Plan(計画)]

ナラティブセラピーの継続を提案。

投薬の増量や追加は当面見送りを提案。

<ドイツ語の走り書き>

今回は宇野准教授が消えてから初の科内会議だった。

大勢力となった派閥のトップである片山准教授は私の言いなりとまでは言わないが、今までの様なやたらと反論してくる事もなくなり、至って穏やかで健全な会議の場へと変化した。

だがしかしこれも白聖会側の意向や利益を損ねる行動に繋がる提案であれば、密約があるとは言え黙ってはいないのだろう。

これも束の間の平穏かも知れないと感じる。

今回の私の提案は誰の反論もなく承認されて決定した。

投薬の件に関しては片山准教授は若干渋い顔をしてものの私の提案には反論して来る事は無く、取り巻き達も同調し何事もなく受理された。

予想通りの展開なのだが今までの緊張感がすっかりなくなってしまったので、少々拍子抜けしてしまう。

まあこれからは更に上位にいる勢力との衝突が予想され、それはこの科内会議の様に簡単にはいかないだろうから、こちらに手間と時間を掛けずに済めばそれに越した事はないか。

<走り書き終わり>




◆処方・手術・処置等:


引き続きナラティブセラピーを継続し来週も実施を予定。

<ドイツ語の走り書き>

新年早々ではあったが今後の事を考えて大山へと連絡を入れると、大山は当初の約束通り私への協力を明言した。

そして今後何か動きがあればそれを知らせると言ってから、現状の総合診療内科の状況を話した。

今のところ、先月での赤聖会の失態で増大した権力を振りかざして、多方面に渡っての調整や影響力の拡充を行っている所だそうで、Krに対する目立った動きは特に無いらしい。

敢えて言うならKrへの治療計画の見直しで、ここ最近のKrのSに対する措置を内科内でも検討し始めている程度だと言う。

脳神経外科の提案内容自体は却下された形でも、その指摘内容自体は払拭された訳ではなくそこを神経精神科を使って押さえ込めないのなら、早々に別の手を検討すべきと言う意見が出ていると言う事かと判断した。

これが本格的に動き始めたらまた面倒な事になりそうだが、まだしばらくは動きを見落とさなければ問題ないか。

大山にはこれからも引き続き情報提供を依頼しておいた。

これで二大診療科のそれぞれに内通者を置く事が出来た事によって、これからは大勢力からの奇襲は受けずに済む筈だ。

科内も掌握出来ているし、当面は余計な政局に巻き込まれずにKrの治療に専念出来そうだ。

<走り書き終わり>




◆備考:


特になし


<ドイツ語の走り書き>


独り言……


先月からの課題のひとつとして残っていた、霧嶋への報酬の支払いを済ませた。

当初の契約した金額よりも若干だが上乗せした額を払っておいた。

これは今回の情報料の価値を私なりに考えたのと、これから先々の事も考えて決めた事だ。

霧嶋の言葉ではないが、今後も利用する機会がありそうな予感がしたと言うのもある。

一種の先行投資だと考えれば、それで少しでもこれからの有事の際に優位に立ち振る舞える可能性が上がるならこの追加の出費も納得出来る。

振り込んだ翌日には霧嶋から入金確認のメールが届いた。

そのメールでは来週に領収書を渡しに行く事と、私の事を良い客だと褒めている一文が記載されていた。

人間は予期しない場面で想定していなかった利益を与えられるとより好印象を受ける。

そしてそう言った印象をより強く与えるのは、多くの情報を得た後よりも面識があまり無い初期が効果的だ。

いわゆる第一印象で対象の人間の評価が決まると言う心理を逆手に使い、こちらの印象をより好印象に感じる様に調整したのだ。

これで霧嶋は私の印象を金払いの良い上客であると言う、第一印象を植え付ける事が出来た筈だ。

あの女を常用する様な激戦を繰り広げたくないし財源ももたないのでそれはあまり考えていないが、これで次に何か遭った時にも多少の融通が利く可能性は上がった。

霧嶋のメールの最後には、やっぱり予想通り良い付き合いになったと書かれて終わっていた。

ここで改めて考えてみると、今回は私から仕掛けたつもりだったがそもそも最初の取引を決めた時にも言っていたのを思い出した。

あの時の霧嶋の言葉は逆に私への仕掛けだったのではないかとも感じて、こちらが主導で上手く事を進めたつもりになっていたが実は良いように謀られたのは私ではないか、そう思い始めた。

やはり私はあの女が嫌いだ。


忌々しい霧嶋の口座に振り込んだのは、フリードリヒ教授からの成功報酬の全額ではなくあくまで多少色を付けただけだ。

報酬の大半はこれからの運転資金として確保しておいた。

だが多少余裕のある内に欲しい物も買う予定でおり、来週辺りにでも時間を作って最寄のディーラーへと見に行こうと思っている。

私は性格的には浪費家では無いつもりだが一度心が決まってしまうと躊躇わないし悔やまないので、どうもあまり貯蓄は得意ではない気がする。

今回もなまじ見たり乗ったりしてしまったらその場で決めてしまいそうな予感もするが、気に入ったのに我慢するのは精神衛生上宜しくないだろう。

それに買わずに後悔するより買って後悔した方が、諦めもつくし納得も出来ると言うものだと信じている。

車と言うものは機能や性能や利便性と言った面よりも人間と同様で見た目、第一印象で気に入るかどうかが最も重要だと思っている。

この考えはあらゆる道具全般でも当てはまり、どれだけ優れた物であってもその見た目が気に入らなければそれの本質として優れている点にも何かしらの理由を作り、その評価を下げて自分には相応しくない物だったと信じようとするものだ。

逆に俗に言う一目惚れで気に入った物に後から不便さを感じても、それにはそれほどの苦痛は感じずにすぐに慣れてしまう。

つまり人間の感情は己で自覚しているよりも非合理的であり大きく感情に影響されているのだ。

だから私はきっと前の車を購入した時と同様に、最初に見た段階で9割近い確率で購入する車は決まってしまうだろう。

人によってはこの行動原理は短絡的であると否定するだろうが、そう考える人間は自分の持っている判断能力よりも客観的な情報をより信用する、自分の意思や決断に自信の無い人間の弁であろう。

と、自己弁護している。

とりあえず即決しても即納車になっても良い様に、駐車場の確保だけは早めにしておこう。


<走り書き終わり>



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